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カジノ推進法案の問題点

2014年6月23日



新里宏二さん(弁護士・全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会代表)


1 はじめに 基本的視点
 2013年12月、自民党・維新の会・生活の党から、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下「カジノ解禁推進法案」という。)が国会に提出され,今通常国会で審議入りした(継続審議となり臨時国会でさらに審理がなされることになる)。
 カジノ解禁推進法案は、現在政府が進めている、いわゆる「アベノミクス」と呼ばれる経済政策(大胆な金融政策,機動的な財政政策,民間投資を喚起する成長戦略,いわゆる「3本の矢」)に位置付けられている。東京オリンピックに合わせ外国人観光客を現在の1,000万人から2,000万人へ倍増させ、経済を活性化させる切り札であるなどと言われている。
 私自身、多重債務問題に取り組み、ギャンブルで借金をつくり、仕事、家族を失い、自分の命まで失う悲劇をつぶさに見てきた。カジノは胴元が儲かり、多くの者が財産を失い、依存症へと追い込まれる。人の悲劇を前提とした経済対策などは基本的人権が保障され、幸福追求する権利を認められている日本の憲法の下では背理である。カジノ禁止こそが憲法秩序が求めているものと考える。

2 カジノ解禁推進法案の概要
 カジノ解禁推進法案は,刑法第185条及び第186条で処罰の対象とされている「賭博」に該当するカジノについて,一定の条件の下に設置を認めるために必要な措置を講じるとするものである。ここで想定されているカジノは,「会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設」と一体となって設置される、いわゆる「IR方式(統合型リゾート)」である。民間企業が直接、施工・開発、そして運営する完全民間賭博場であり、日本で初めて民間賭博場を解禁することの当否が問われている。
 またカジノ解禁を決め、具体的な内容やカジノ解禁についての負の問題への対策は今後、政府が1年を目途に実施法を策定するとされ、本法案は「プログラム法案」であると説明されている。

3 本法案の問題点(主な点を触れることとする)
(1)プログラム法案による問題点
 賭博を正当行為によって解禁する以上、解除条件について具体的に定め「こういう条件であるから正当行為に当たるのだ」と解除条件を明示することが必須である。ところが法案では10条で、「政府はカジノ施設の設置及び運営に関し、カジノ施設の運営における不正行為の防止ならびにカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行う観点から必要な措置を行う。」としている。カジノで指摘される負の影響としてギャンブル依存症問題、青少年への影響、暴力団対策、マネーロンダリングなど全てが今後の課題となっている。まさしく拙速との批判を免れない。

(2)経済効果に疑問
 同法案では、「民間の活力を生かした国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現し、地域経済の振興に寄与する」等とされている。
 2000年から自国民向けカジノを解禁した韓国の「江原ランド」のある地域では犯罪率が急増し、自殺率も全国平均の1.8倍になったとの報告もなされている。韓国全体でのギャンブル産業の売上高が2009年16.5兆ウォン(約1.65兆円)に対し、社会・経済経費は78兆ウォン(約7.8兆円)に上るとし、差し引き60兆ウォンの負の効果との研究結果が公表されている(韓国「射幸産業統合監視委員会」ホームページ)。
 アメリカの研究でもカジノ設置から3年頃から負の影響が出始めるといわれている。日本が参考とするシンガポールでのカジノ開設は2010年であり、今後負の影響が出てくることが予想される。法案を提案する上では負の影響の検討が不可欠であるのに、ほとんど検討されていない。

(3)ギャンブル依存症対策の問題
 2008年厚生労働省のギャンブル依存症についての調査結果で、その有病率は、成人男性9.6パーセント、成人女性1.6パーセントとされ、成人男女で、アメリカ1.4パーセント、オーストラリア2.1パーセントに比べ非常に高い数値となっている。日本に蔓延するパチンコ等によるとされている。先ごろ厚労省の調査班のアルコール依存症有病者が100万を超えたと公表しているが、ギャンブル依存症では560万人とも推定されていることからするとその深刻さがわかる。
 ギャンブル依存症はWHOで認知されている精神疾患であるにもかかわらず、調査や対策はほとんど採られてこなかったのが日本の実情である。
 ギャンブル依存症患者を確実に増加させるのがカジノである。カジノの収益で依存症対策を行うとも言われているが、カジノは圧倒的に依存症患者を増加させながら、その儲けたお金の一部で対策を採ろうとするのは本末転倒である。
 シンガポールのカジノでは自国民からは100シンガポールドル(約6,000〜7,000円)の入場料を取り、自己・家族及び行政からカジノへの立ち入り禁止の申告ができる仕組みになっていることから、日本でも同様の仕組みを導入することで依存症対策が十分に可能と説明されている。
 しかし、シンガポールは2010年1月立入制限者の数が183人であったのが2014年3月には20万人を超えている。自己申告が4分の3となっている。シンガポールの依存症問題は今でも深刻な状況にあり、さらに急激に悪化すると考えられる。シンガポールの入場規制は成功していないとも評価されよう。

4 全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会の発足
 本年4月12日東京において、これまで多重債務問題などの救済に当たってきた弁護士・司法書士・学者・被害者運動に取り組んできた多くの市民と、各地でのカジノ反対運動をまとめる形で本協議会が発足した(代表幹事 新里宏二)。 設立に合わせ、「震える 許さない!カジノ賭博場合法化!〜ギャンブル依存症被害者と家族ら30名の告白集〜」も作成した。
 5月9日、日本弁護士連合会は、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する意見書を採択した。さらに、5月15日、6月17日と2度の院内学習会を開催した。
 マスコミでも、地方紙の社説で慎重意見を出てきていて、中国新聞は廃案を求めている。中央紙でも毎日新聞が慎重意見であり、読売新聞も「「娯楽の負の側面」も勘案せよ」と、法案を拙速に成立させることは避けるべきと結んでいる。
 今後、9月ないし10月開催の臨時国会に向け、全国の反対運動を大きくまとめる活動が必要になってきている。多くの団体の賛同を得るような団体署名活動を今後展開する予定である。さらに韓国、シンガポールの実態調査、日本のギャンブル依存症対策への取り組みも不可欠となってこよう。

以上

◆新里宏二(にいさと こうじ)さんのプロフィール 

1952年盛岡市生まれ。中央大学法学部卒業、1983年仙台弁護士会登録、消費者問題に積極的に取組み、日弁連多重債務対策本部事務局長などを務めた。2010年仙台弁護士会会長、翌年度日弁連副会長。市民運動でも「反貧困みやぎネットワーク」初代共同代表を務めるなど、非正規雇用問題に取組むほか、ブラック企業対策全国弁護団副代表、全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会代表を務める。
《著  書》
・「武富士の闇を暴く」(共著、編集  同時代社 2003年3月 )
・多重債務被害救済の実務 (共著 勁草書房 2009年12月)
・Q&A改正貸金業法・出資法・利息制限法 詳説 
 (共著 日弁連上限金利引き下げ実現本部編 2007年8月)等





 
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