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今週の一言

 

労働法見直しに関する問題点について

2014年6月16日



田井勝さん(弁護士)


1 現在の安倍政権(内閣)は、「成長戦略」の実行・実現のためとして、我が国をして、「世界で一番企業が活動しやすい国」を目指すべく、労働法制の見直しに着手している。以下、その内容の概略を説明する。

2 労働者派遣法「改正」案について
(1)内容
まず、一番先行して審議されているのが、労働者派遣法「改正」案である。この「改正」案は本年3月に閣議決定され、現在の通常国会に提出されている。
現行の労働者派遣法は、通訳等の専門26業務を除いて、業務単位で原則1年、最長3年の派遣受入れ期間の制限を設けている。ところが、この「改正」案は、専門26業務の区分をなくし、業務単位での受入れ期間の制限を撤廃し、次のように派遣先が永続的に派遣労働者を受け入れ、使用できるようにしている。
  まず、派遣会社(派遣元)で有期雇用されている派遣労働者について、派遣先の企業は、同一の事業所において、3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れてはならないとする一方、派遣先は、過半数労働組合等の意見を聴取しさえすれば、当該事業所でさらに3年間派遣労働者を受け入れることができる。また、その後も同様に派遣受入れ期間を延長できる。
  そして、「改正」案は、派遣元で有期雇用の派遣労働者について、派遣先は、事業所における同一の組織(部、課等)では3年を超えて継続して同一の派遣労働者を受け入れてはならないとするが、派遣先は3年ごとに組織(部、課等)の派遣労働者を入れ替えれば、同じ派遣労働者を永久に使用できる。ゆえに、派遣先は、3年ごとに派遣労働者の所属組織(部、課等)を変更しさえすれば、永久に同一の派遣労働者を受け入れ、使用することもできる。さらに、「改正」案は、派遣元で無期雇用の派遣労働者については、一切受入れ期間の制限を設けていない。
(2)「正社員ゼロ」法案
  派遣法「改正」案が仮に法律になってしまえば、派遣先は永続的に派遣労働者を受け入れ、使用できるため、派遣先企業は、大々的に正社員を派遣労働者に置き換えることが予想される。現在、多くの労働組合や法律家団体が、この法案を「正社員ゼロ」法案であるとして批判の声を上げている。もっとも、与党議員の数の力を持ってすれば、法改正は十分に可能である。

3 「残業代ゼロ」案
(1)「残業代ゼロ」案に関する動き
現行の労働基準法では、企業が法定労働時間(1日8時間等)を超えて労働させる場合、労働者に残業代を支払う義務がある。この残業代を企業が支払わなくて済むようにさせるのが、「残業代ゼロ」案である。
安倍政権(内閣)の産業競争力会議雇用・人材分科会において、長谷川閑史主査は、働いた「時間」と関係なく、「成果」によって賃金を決める「残業代ゼロ」の働き方として、Aタイプ(一般社員型)とBタイプ(高収入社員型)を提案した。このAタイプは、国が年間労働時間の量的上限等について一定の基準を示し、「労使合意」と「本人同意」があれば一般の労働者でも労働時間規制の対象外にする制度である。また、Bタイプは、「年収要件(例えば1000万円以上)の充足」と「本人同意」があれば労働時間規制の対象外にする制度である。
また、この長谷川案を受け、厚労省は現在、この制度の対象者について、企業が選ぶ「幹部候補」社員に限定するなどして、労働時間規制を撤廃するための法整備に着手している。
(2)過労死激増のおそれ
これらの案では、労働時間規制撤廃のため、労働者の「本人同意」が要件とされている。しかし、企業から「同意」を迫られたら拒否できないのが職場の現実である。「残業代ゼロ」案は、残業代不払いを合法化する結果、長時間過密労働と過労死の激増をもたらす可能性が極めて大きい。

4 解雇規制緩和の動き
(1)次に、解雇規制緩和の動きとして、「限定正社員」制度と「解雇の金銭解決」制度という二つの制度づくりがすすめられている。
(2)限定正社員制度
限定正社員は、通常の正社員とは異なり、仕事の内容や勤務地などを限定される。そして、限定正社員は、正社員と同じ働き方をする一方、勤務地等が限定されることを理由に賃金が引き下げられ、勤務地等がなくなった場合には他の部署への配転もなされず解雇となる。
(3)解雇の金銭解決制度
解雇の金銭解決制度は、解雇された労働者が裁判に訴え、勝訴しても、企業が金銭を払うことで雇用契約を終了させることを可能にする制度である。仮に勝訴しても職場復帰はままならないどころか、支払われるべき金銭が低額になれば、企業が簡単に労働者を解雇することが可能になる。

5 国家戦略特区における雇用指針
また、安倍政権は、国家戦略特別区域法に基づき、本年4月、東京圏、関西圏、福岡県福岡市の区域等の6地域を国家戦略特別区域に指定し、特区毎に雇用に関する規制緩和(解雇規制緩和、労働時間法制の撤廃)をしようとしている。

6 以上のように、安倍政権が押し進めている労働法制の見直しは、解雇規制を緩和し、非正規労働者を爆発的に増大させ、労働時間規制を底なしに撤廃するものであり、極めて危険である。
また、これらの法制度を検討している政府内の会議体(産業競争力会議等)には、企業役員等の委員は含まれているが、労働者委員が一名も含まれていない。これでは労働者の意見など配慮されるはずもない。
政権側が、労働者の意見を取り入れ、真の労働保護法の創設に取り組むよう、世論からの反対の声を強めるべきである。

以上

◆田井勝(たいまさる)さんのプロフィール

1975年、香川県高松市生まれ。
2007年弁護士登録(横浜弁護士会)。横浜合同法律事務所に所属。
現在、自由法曹団の本部事務局次長(労働担当)。日産自動車期間工・派遣切り裁判弁護団、首都圏建設アスベスト訴訟弁護団に所属。





 
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