法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

「空襲は怖くない、逃げずに火を消せ」と命じた政府の責任
書籍『検証 防空法― 空襲下で禁じられた避難』について

2014年3月3日



大前治さん(弁護士)

1 「なぜ空襲から逃げなかったのか」という疑問から

 69年前(1945年)の3月10日、東京上空に約300機の米軍機が飛来して、大量の爆弾・焼夷弾を投下しました。街は火の海に包まれ、一晩で10万人以上が死亡し、焼け跡には無数の遺体が残りました。2日後に名古屋市、その翌日に大阪市が大空襲を受け、犠牲者は全国で60万人に達しました。

 なぜ逃げなかったのか。逃げれば空襲にあわずにすんだのでは・・・。その疑問から生まれたのが、新刊書『検証 防空法 ―― 空襲下で禁じられた避難』です(法律文化社/2800円+税)です。筆者が見出した答えは、「戦時中の"防空法制"によって避難を禁止された」、「市民は『御国のために命を捨てて消火せよ』と強制された」というものでした。
 長らく防空法制研究に取り組んできた水島朝穂教授(早稲田大学・憲法学)と、大阪空襲訴訟の弁護団員である私との共同作業で、埋もれていた資料と事実を掘り起こして本書が誕生しました。

 ちょうど本書の発売時期のNHK連続テレビ小説「ごちうそうさん」で、主役の夫が「空襲のときは逃げよう」と呼びかけて逮捕される場面がありました。今あらためて防空法制が注目を集めています。

2 本書の内容 ―― 市民を空襲下に縛り付けた防空法制

 本書は、防空法という法律の紹介だけでなく、戦時中の市民がどのような状況におかれていたかを歴史資料や写真を用いて解説しています。主な内容は以下のとおりです。

  【本書の内容】
*「防空法」制定と改正への道のり
*「都市からの退去禁止」と「消火活動の強制」の実態
* 情報統制 ―― 「空襲は怖くない」、「焼夷弾は簡単に消せる」
* 隣組 ――「逃げられない」と思わせる相互監視の体制
* 防空壕 ――「床下に穴を掘れ」という危険な方針
* 東京大空襲の後も、終戦まで方針は変更されなかった
* 防空法に反対の声をあげた人々

 防空法の第8条ノ3は「主務大臣は退去を禁止できる」と規定し、これに基づいて真珠湾攻撃の前日(1941年12月7日)に内務大臣が発した通牒は、「国民の退去を禁止する」、「老幼病者にも退去を勧奨しない」と定めました。違反者には懲役六ヶ月以下または罰金500円以下の処罰が課せられます。
 さらに、防空法第8条ノ5は、建物の所有者や居住者だけでなく、通りがかった者にまで空襲時の消火義務を課しました。

 市民は防空訓練への参加を強制され、長さ1メートルの「火叩き」、紙でできた「砂袋」を使った無意味で危険な消火方法を指導されました。「命を捨てて持ち場を守る」という防空精神も植え付けられ、空襲時に逃げる者がいないか隣組が厳重に監視する体制が作られました。本書では、町内会の資料なども紹介しながら、町の人々が戦争に巻き込まれていく様子を描いています。

3 東京大空襲の後も変更されなかった「避難禁止」

 「さすがに、一晩で10万人が死亡した東京大空襲の後は、政府は避難を認めたのでは?」と思う方もおられるでしょう。しかし、東京大空襲の翌日、小磯國昭首相は、「敵の空襲に耐えることこそ勝利の近道である」とラジオで演説しました。その翌月には、建物疎開による立退者と老幼病者以外は疎開を認めない方針が閣議決定されました。

 空襲の危険性や被害実態を隠して、いわば「空襲に対する安全神話」を流し続ける政府方針も、最後まで変更されませんでした。東日本大震災と原発事故をめぐる今の政治のあり方にも重なります。

 また、空襲の悲惨な被害事実も「秘密」にされました。政府は、敵国のスパイへの情報流出を怖れたのではなく、戦争の悲惨さや空襲の恐怖が広まることで反戦意識・反軍意識が醸成されることを怖れたのです。今の政府が秘密保護法を強行した狙いも、そこから透けて見える気がします。

 決して「過去のこと」では済まされない防空法制。今を生きる私たちが教訓として知るべき事実だと思います。本書を通じて、多くの方に知っていただければ幸いです。

◆参考サイト
書籍『検証 防空法』解説Q&A
NHKドラマ「ごちうそうさん」と防空法
法律文化社『検証 防空法』紹介ページ

◆書籍「検証 防空法」通販サイト
アマゾン
楽天ブックス
紀伊国屋書店

 

◆大前治(おおまえ おさむ)さんのプロフィール

1970年生まれ。京都市出身。大阪大学法学部卒業。
2002年弁護士登録。大阪弁護士会所属。
大阪京橋法律事務所所属。
自衛隊イラク派兵違憲関西訴訟、大阪空襲訴訟、大阪市職員思想調査アンケート国賠訴訟などに取り組む。
また、教育基本条例に対する意見書を発表し、発言する保護者ネットワークfrom大阪にも参加するなど、教育問題にも取り組んでいる。





 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]