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国家安全保障法の制定と集団的自衛権の行使 ― 解釈による9条の死文化

2014年2月17日



緒方蘭さん(弁護士)


1 現在の集団的自衛権をめぐる情勢

 2014年2月5日の参議院予算委員会で、安倍首相は、集団的自衛権の行使は、政府が新しい解釈を明らかにすれば可能になり、憲法改正は必ずしも必要ではないと述べました。歴代の内閣がとり続けて来た政府解釈では、集団的自衛権の行使は憲法9条に違反し認められないとされてきましたが、安倍首相はこれを変更しようとしています。

 2013年夏以降、安倍政権は憲法の条文を変える「明文改憲」ではなく、憲法の解釈を変える「解釈改憲」を主なターゲットにしています。上記の参議院予算委員会での安倍首相の発言によると、集団的自衛権の行使の容認は@憲法解釈の変更、A法律の整備、B行使するか否かの政治的判断の3つのステップを踏むとのことです。

 現在、@憲法解釈の変更について、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(以下「安保法制懇」という。)で議論が進められています。これは第1次安倍内閣の時に設置されたもので、有識者会議とされていますが、実態は安倍首相に近い考えの人物を集めた私的諮問機関です。

 そして、A法律の整備として、自民党は2012年7月に「国家安全保障基本法案(概要)」を発表しています。

 今年4月には安保法制懇の報告書が提出される予定です。この報告書が出れば、集団的自衛権の行使について「有識者」のお墨付きを得たことになり、春から夏にかけて一気に国家安全保障基本法の制定に向かうのではないかと私は懸念しています。

2 そもそも、集団的自衛権とは?

 集団的自衛権とは、他の国家が武力攻撃を受けた場合に、攻撃を受けた国と密接な関係にある国が、攻撃を受けた国と協力して防衛を行う権利です。この権利の行使が認められれば、日本と同盟関係にあるアメリカが攻撃を受けた場合、日本がアメリカと一緒になって防衛を行うことができるようになります。

 この集団的自衛権とは別に、個別的自衛権というものもあります。これは、自国を守るために必要な武力を行使する権利をいいます。日本が他国に攻められる場合は個別的自衛権の問題になりますので、集団的自衛権と個別的自衛権をきちんと区別して議論する必要があります。

 「国家安全保障基本法案」は集団的自衛権の行使を認める法律とされています。では、この法案について見ていきましょう。

3 法案の提出方法—内閣法制局長官の交代

 国家安全保障基本法案を内閣が提出する場合は、内閣法制局のチェックを経ることになりますが、この法案は歴代の内閣の憲法解釈からすると違憲になるため、内閣法制局の審査を通らないのではないかと指摘されていました。しかし、昨年夏、安倍内閣は内閣法制局長官を交代させて駐仏大使の小松一郎氏を起用するという異例の人事異動を行ったため、審査を通る可能性が高まっています。もっとも、小松氏は現在長期入院中であり、安倍政権の解釈改憲のスケジュールが遅れるのではないかという見方もあります。

 なお、当初、自民党はこの法案を、内閣提出ではなく、内閣法制局の審査を経ない議員提案の方法で提出すると公言していました。しかし、最近は、堂々と解釈改憲を行って内閣法制局の審査を受けると考えているらしく、この方法について言及することはなくなりました。

4 法案の内容

 法案の中で特に重要な条文は、次の3つです。

・3条(国及び地方公共団体の責務)
   3条3項は、国に秘密保護法等を定める義務を課しています。最近は秘密保護法ばかりがクローズアップされていますが、これも海外で戦争できるようにするための法整備の一部です。ぜひそういう視点で周りの方々に秘密保護法の廃案を呼びかけてください。

・4条(国民の責務)
「国民は、国の安全保障施策に協力し、我が国の安全保障の確保に寄与し、もって平和で安定した国際社会の実現に努めるものとする。」
 このように、4条では国民に国防に協力する義務を課しています。

・10条(国際連合憲章に定められた自衛権の行使)
 10条1項1号では集団的自衛権の行使を認めています。
 これまでの政府解釈では、自衛権の行使にあたっては@急迫不正の侵害、A他に手段がないこと、B必要最小限度という3要件が必要になっています。集団的自衛権が行使される場合は、日本に対する侵害がなく@急迫不正の侵害の要件を満たさないため、これまでの政府解釈では集団的自衛権の行使は認められてきませんでした。しかし、安倍政権はこの解釈を変えて、広く武力行使を認めようとしています。
 また、歴史的に見ると、これまで世界で集団的自衛権が行使されたのは、ベトナム戦争(1964年〜)、ソ連のアフガン侵攻(1979年)、湾岸戦争(1990年〜)、アフガニスタン戦争(2001年〜)など、のちに侵略戦争とされたものばかりです。集団的自衛権の行使を認めると、日本はアメリカの戦争の片棒を担がされることとなるでしょう。

5 最後に

 国家安全保障基本法案はこれまでの政府解釈を変え、憲法9条を死文化させます。今年の目玉となる法案です!ぜひ反対の声をあげて制定を阻止していきましょう。

   参考:「国家安全保障基本法(概要)」
   

◆緒方蘭(おがた らん)さんのプロフィール

1984年生まれ 東京都町田市出身
2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)
東京合同法律事務所
自由法曹団、青年法律家協会、日本民主法律家協会 所属
司法修習生の給費制廃止違憲訴訟原告団、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発被害弁護団、吉見義明教授名誉毀損裁判弁護団、B型肝炎弁護団東京弁護団に取り組んでいる。





 
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