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映画「放射線を浴びた『X年後』」―"経済"と"命"を計る天秤

2014年2月10日



伊東英朗さん(映画監督)


"経済"と"命"を計る天秤―これは、11年前、僕がこの"事件"に関わり始めてからつきまとってきた言葉です。
"健全な経済活動"は、人が生きていくため、家族を守るため、病気を治療するため、教育を受けるためなどに必要不可欠なものです。
そして、"命"は、これあってのモノダネ。かけがえのないもの。ただ、命を生かすために"経済"は必要です。

生きている以上、豊かで、幸せな暮らしをしたい。そう思うのが"命"ある人間でしょう。

それでは、"経済"と"命"の天秤は、どちらに傾くのでしょうか?
天秤は重い方に傾きます。

 

11年前。731部隊に関心をもち、番組化したいとリサーチを進めていた時でした。ある日、インターネットの記事に目を奪われます。それは、太平洋で米英によって行われた核実験による被害について書かれたものでした。60年前、核実験によって第五福竜丸というマグロ漁船が被ばくしたことは知っていました。しかし、そこに書かれていたのは、福竜丸ではなく、たくさんのマグロ漁船の被ばくでした。しかも、調査し、明るみにだしたのは、高校生たちだったのです。その日から、僕と、この"事件"との関わりが続くことになります。

僕が追いかけている"事件"とは、1946年から1962年の間、アメリカとイギリスによって行われた120回以上の核実験による被ばく事件です。長期間にわたり太平洋が汚染したことで、貨物船など数多くの船が被ばくしました。また、日本本土、アメリカ大陸などに放射性降下物が降り注いだことで、多くの人が放射能の影響を受けました。

核実験を行ったのは、アメリカ原子力委員会(現在のアメリカエネルギー省)。そのトップは、当時、凄腕の金融家として名高いストラウスという人物でした。核兵器を作る委員会のトップが金融家というのもおかしな話です。
1954年、キャッスル作戦と呼ばれる6回の水爆実験が行われました。トリニティに続き、広島、長崎での原爆製造に成功した原子力委員会は、次へのステップ、広島型原爆1000個分にも及ぶ破壊力をもつ水爆の開発に着手したのです。その中の第1回目にあたるブラボー水爆の被害は、偶然にも新聞記者によってスクープされ、世界中に報道されました。被ばく問題は、連日のように新聞を賑わすことになります。毎日のように港に入ってくる被ばく船、汚染し廃棄される魚、病院で診断を受ける貨物船乗組員。全国各地で高濃度の放射能雨が降り、新聞の見出しを飾ります。京都で8万7千カウント、山形で11万カウント、沖縄で17万カウント、東京、京都・・・など。また、当時の新聞に目を通せば驚くような記事が見つかります。人骨から放射能、死体からストロンチウム90、など。明らかに体内に放射性物質を取り込んでいることがわかります。また、放射能の被害を描いたドキュメンタリー映画や劇映画なども製作、上映されています。あるドキュメンタリー映画では、市民から血液の提供を受け、科学者が放射能を測定、その血液からセシウム137が検出されたことを記録しています。
学校では、子どもたちが、原爆マグロを揶揄する歌を歌いました。

ところが。数年後、核実験を報じる記事が、パタリとなくなります。

太平洋では、キャッスル作戦のわずか2年後、1956年から核実験が再開。特に、その年行われたレッドウイング作戦では、アメリカが製造した核兵器の中で最も多量の放射性物質をばらまいたとされるTEWA(テワ)と名付けられた核兵器の実験も行われています。

全国の人を恐怖に陥れた被ばく事件は、人々の記憶から驚くほど奇麗に消えたのです。記憶に残ったのは、「雨にあたると頭がはげる」という言葉でした。

そして現在。この被ばく事件は、"第五福竜丸事件"とか"ビキニ事件60年"、"3.1ビキニデー"などと語られ報じられています。
今年になって新聞で「第五福竜丸事件」の記事が全国に配信されました。そこには「第五福竜丸事件とは、第五福竜丸乗組員とマーシャル諸島の島民が被ばくした事件である」と断定的に書かれていました。そして、巷では「今年はビキニ事件60年の年」とか「3.1ビキニデー」などと騒がれています。これらは残念ながら事件の矮小化に繋がっています。これまで読み進めて頂いた方にはお分かりだと思います。

被ばく事件はなぜ未解明なのか。その最も根源的な問題は「放射能による人体への影響が解明されていない」ことにある。と僕は考えています。これまで、ロスアラモスで核兵器開発にあたった研究者たち、核兵器実験に立ち会った兵士たち、原爆で被害を受けた広島、長崎の人たち、チェルノブイリやスリーマイルなど原発事故で被害を受けた人たち、劣化ウランによる被害者・・・数えきれないほどの人々が被害にあっています。しかし、特に低線量被ばく、内部被ばくについて、状況証拠のみが積み上げられ、裏付けられないまま、現在に至っています。
その結果、放射能による多くの被害が、放置されてきたのです。

南相馬の市長が叫びました。「避難し現在も仮設住宅で暮らすお年寄りが、私に、助けて欲しい、助けて欲しいと言っています。だから、私は、彼らを助けなければならない。」まさに、人が人に対して助けを求めれば、当然助けなければなりません。これが人が"命"を守るということです。しかし核実験による被害者たちは、何も知らされず、助けすら求めることができないままなのです。
経済の前に、まず命を守ることが優先されるべきではないでしょうか。
お金がなければ(健全な経済活動なければ)"命"が守りにくくなっていることは否定できません。しかし、"命"あっての経済であり、お金と命を引き換えることはできないのです。
『70年も前の核実験による被害を掘り起こしてどうするんだ?』そんな声を耳にします。しかし、今、事件の全容を解明し、被ばくの問題を清算しなければなりません。
今後、被ばくによる被害者をなくしていくことは人間がこの地球上に生きていく上で最重要課題だと僕は思っています。そのために医学的、科学的に被ばくの問題を検証し、それを元に法整備を行い、安全に健康に生きることのできる社会を作らなければなりません。

アメリカ、イギリスの太平洋での核実験は、1962年に終わりました。しかし、ストロンチウム90やセシウム139の半減期は29年。1990年代にやっと半減期を迎えたことになります。私たちは、空気を吸い、魚を食べることで放射能の影響を受けているかもしれません。他人事ではなく自分のこととして被ばくの問題を考えなければならないのです。

映画は現在、自主上映展開中。全国各地どこへも貸し出しをしています。
詳しくは、ウッキー・プロダクション(03-5213-4933)へお問い合わせください。
最新の上映情報はコチラ→ http://x311.info/

◆伊東英朗(いとう ひであき)さんのプロフィール

1960年9月15日 愛媛県生まれ。
16年間公立幼稚園で先生を経験後、テレビの世界に入る。
東京で番組制作を経験した後、2002年から地元ローカル放送局 南海放送で情報番組などの制作の傍ら、地域に根ざしたテーマでドキュメント制作を始める。
2004年ビキニ事件に出会い、以来、8年に渡り取材を続ける。
映画「放射線を浴びた『X年後」』監督





 
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