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異文化間交流の相互理解を阻む壁を乗り越えよう

2014年1月6日



加賀美常美代さん(お茶の水女子大学大学院教授)

 

 日本に滞在する留学生と関わる教育を始めてから20年以上たちますが、アジア諸国の留学生が抱く日本社会、日本人に対する思いは、肯定的感情と否定感情が拮抗するアンビバレントな状態にあるといえます。こうした現状をより客観的、多角的に示すために、日本に対するイメージの形成について2006年から2009年まで大学の研究助成を受け、私の研究室では韓国や台湾出身の留学生や海外教師経験のある日本人大学院生たちとともに共同研究をいたしました。その研究について『アジア諸国の子ども・若者は日本をどのようにみているか−韓国と台湾における歴史・文化・生活にみる日本イメージ』(明石書店・2013年10月発行)という書籍としてまとめましたので、紹介させていただきます。

 アジア諸国の留学生は日本の先進技術やアニメ、音楽、ゲーム、ファッションなど日本の大衆文化について深い関心があり、日常的にわたしたちが当たり前に見ていた事物、風景、習慣など、全く気づかない日本の大衆文化の多様性や面白さを教えてくれます。一方、歴史的経緯に端を発する否定的感情については、授業中でも非公式的なおしゃべりの場でも、この話題に率直に触れてくることもあり、戸惑うこともしばしばあります。彼らを取り巻く日本人関係者との認識の仕方に温度差が生じており、異文化間教育場面でも微妙な影響を与えています。このような事態の継続は良好な対人関係構築を阻むものであり、異文化間交流におけるリスク要因ともいえます。

 こうした現状を背景に、研究室の共同研究グループでは、日本統治の行なわれた韓国と台湾において日本人との接触頻度の少ない小学3年生・中学2年生・高校2年生・大学2年生・3年生(韓国は430名、台湾は475名)を対象に、日本に対するどのようなイメージが、いつ形成されるか、さらに、その背景にはどのような要因が関連するかについて検討しました。実際に現地の小学校、中学校、高校、大学を訪問し、校長先生や先生方にお会いし、私たちの研究動機と意義をお伝えし、クラスでは生徒たちに接触し、彼らの反応をじかに感じながら、描画や質問紙調査でデータを収集させていただきました。

 本書は9章から構成されています。1章から3章までは韓国の小・中・高・大学生の日本に対するイメージについて九分割統合絵画法(一般的には心理測定の手法で、9個の四角のマスに心に浮かぶ日本の絵、または言葉などを描いてもらいました)による分析、文献研究、質問紙調査の統計的分析をもとに論じています。4章から7章までは、台湾の小・中・高・大学生を対象に韓国と同じ手法とインタビュー調査を加えて論じています。8章は韓国と台湾の調査結果を比較検討し総合的考察を加え、日本に対するイメージが歴史的認識の上に現代的な大衆文化的側面が付加されている構造を示しました。また、同じ日本統治された地域でも、イメージ内容の意味や関連要因、解釈の仕方の違い、イメージが形成される時期も影響を受けることが明らかになりました。9章はそれらの研究結果から日本人学生とアジア諸国の留学生との葛藤の解決を目指し、相互理解するためにはどのように交流し共に学んだらよいかについて、異文化理解プログラムの開発を試み、実践活動報告を取り上げています。

 現代社会はグローバル化が進行し、情報が世界中を瞬く間に駆け巡りますが、ここ数年、領土問題や歴史問題などに端を発するマスメディアの反日感情に関する報道が噴出する中で、共に現代社会を生きる日本とアジア諸国の若者たちに、本調査の客観的データを通してアジアの子ども・若者たちが日本をどのように見ているか、心理や教育の視点から、異文化間葛藤の諸相を考えてもらうことが本書の趣旨でもあります。特に、描画を通して、アジアの子ども・若者たちの日本に対する関心の深さ、知識の豊富さを理解するとともに、日本の人々がもつアジア諸国への知識や関心が相対的に低いかについても振り返る機会となればよいかと思います。本書を通して、両者の壁を崩し乗り越えようとする異文化間交流の意味と異文化間教育の実践のあり方も広く考えていく一助となればと思います。

 アジア諸国の中の日本に生きる私たちは、微妙で難しい立場に立たされています。本書によりアジア諸国の人々が今なお継続して抱えている問題とその解決に向けて、学生たちが客観的な根拠をもとに本質的な価値判断が下せるようになること、また、今、ここにいる私たちが生きていく上で新たな気づき、多様で多面的な視点、未来志向へと向かう知恵が共有できること、さらに、広く人類の普遍的な平和と幸福が追求できるようになることを期待したいと思います。

◆加賀美常美代(かがみ とみよ)さんのプロフィール

東北大学大学院文学研究科博士後期課程修了。文学博士(心理学)。
三重大学専任講師等を経て、現在、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。異文化間教育学会理事長。専門は異文化間心理学、異文化間教育。
主な著書として『多文化社会における葛藤解決と教育価値観』(ナカニシヤ出版、2007年)、『多文化社会の偏見・差別─形成のメカニズムと低減のための教育』(共編著、明石書店、2012)、『多文化共生論−多様性理解のためのヒントとレッスン』(編著、明石書店、2013)など。





 
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