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今週の一言

 

「ピースおおさか」の「危険な歴史博物館への道」を止める思い

2013年10月21日



井上淳さん(「ピースおおさかの危機を考える連絡会」会員)


はじめに

私たちが危惧していた「ピースおおさか展示リニュアール基本設計中間報告」が公開された。
最初の「展示ストーリー」を見て、思わず我が目を疑った。大きな円形の図式に「昭和20年大阪は焼き尽くされた」の次に「世界中が戦争をしていた時代」と書かれているからだ。
これが「監修委員」が決めた「戦争の世紀・20世紀」の基本規定なのか「世界中が戦争していた」のだから他国の植民地支配や侵略戦争は正当であり許されるというのか?驚愕しかなかった。

私たちが、今回のリニュアール構想に疑問を持ち危機感を抱いたのは、これまでは展示されていた日本の加害・悲惨な戦争や侵略の歴史いわゆる「加害の歴史」が、抹殺されようとしていることを感じ、「2度と侵略や戦争を起こさない」との思いを強めたに他ならない。
別の言葉なら「ピースおおさかを西の遊就館にするな」と同じ意味合いである。
私たちは「大阪空襲への特化」とか「子ども目線」という方針に胡散臭さを感じ戦争と暗黒の臭いをかぎ取り、急遽いろいろな人びと、グループと連携し、館長との面会、住民説明会の開催を求め、また大阪府や市の行政担当部署を訪れ、更に要望書や質問書の提出などを行い、一方では独自の集会や合同のシンポジュウムなども開催してきた。
しかし、行政当局と館長には責任感がまるでなく「監修委員会によって進められている」の一点張りで終始してきた。


「ピースおおさか」の危機を考える連絡会の集会

大阪城公園の南隅、森ノ宮にある歴史展示施設「ピースおおさか」=財団法人・大阪国際平和センターは1991年9月、戦争への反省と恒久平和追求の高い設置理念をもとに、旧大阪砲兵工廠跡地の一角に建設され、以降22年間、大阪空襲と人々の生活の展示室A(2階)、15年戦争など加害を展示したB展示室(1階)、平和の希求・東西冷戦などを映像や写真で展示したC展示室(3階)の3つの基本テーマが設けられ、施設を利用した集会や映像など提供してきた。
関西地区には歴史的施設が少なく、大阪府・市内はもとより、隣接の各府県からの来場者も多かった。しかし、時の経過とともに社会的・歴史認識の希薄化の進み、一方、いわゆる歴史修正主義的勢力による施設への「自虐史観攻撃」の強まり、展示室Bを中心に展示に対する批判、撤去の要求が行なわれた結果老朽化と共に、一部が歯抜けのようになったのが現状である。
日本維新の会共同代表・橋下徹大阪市長は就任当初より、歴史両論併記的な「近現代史市立学習施設」の開設を明言して来た。
今回のリニュアール=大阪空襲特化は、先の「リバティおおさか」=大阪人権博物館と同じく、単なる大阪・関西における公共施設の改修問題に止まらず、私たちの歴史認識を問うものとしてある。

「ピースおおさか」のリニュアール=危機の現状

1 過去22年間の来場者数は約170万人(その6・7割は小中学校の生徒)だが、近年来場者数は減少している。
2 リニュアールの基本方針
「近現代史市立学習施設構想」の下、「ピースおおさか」は「大阪空襲被害」に特化する。
3 リニュアール推進状況
設計予算の計上済み額―合計2600万円(大阪府1300万円、大阪市1300万円)。
設計業者の選定―公募し4月に決定済み。
監修委員の設定―学識経験者など4人決定、氏名公表せず。
住民説明会―直接的に市民の声を聞くことを拒否、全て監修委員会で決めると回答。
総予算―9月予算化、数億円といわれるが詳細不明。
9月監修委員会から「ピースおおさか展示リニュアール基本設計中間報告」を提出

歴史認識の重要性と訪れる人々へのアプローチ

先の衆議院選挙と参議院選挙における自民党の圧勝による保守長期政権化への転換は、私たちにも歴史認識、とりわけ東アジアの近現代史の見直し・再確立を強く要請している。これはまた国際社会からの強い要求であり、警告だと思う。
私たちは今激変の世界にいる。それは経済的側面で言えば、いまやアジアを突き抜け、急激に世界に登場した中国、追いかけるインドやブラジルなど新興諸国、韓国、ベトナムなどを先頭とする世界の経済近代化の現実であり、政治的にも各国の政治的独自性・認識が強まり、過去の日本のような侵略的植民地主義「帝国主義」や、戦後期における「経済大国」的な独善や優位性などは許されない現実としてある。
この変化は必然的に国内における「ピースおおさか」など、歴史的博物館や展示施設にもこれまでとは異なる見直しが必要となる。それは過去を見つめる勇気を持つことであり、同時に「アメリカとの戦争すら知らない」若者たちへの大きなアピールとなる。

新しい「ピースおおさか」はどんな展示を行なうべきか

現在の「ピースおおさか」を見学して感じとれるのは展示内容の限界性である。これがリニュアールの名の下に変更され、被害のみ訴える「大阪空襲に特化」されてしまえば、後に何がくるのか、「原因があって結果がある」基本的根幹が失われ、逆に歴史的存在価値が転換される恐ろしささえ感じる。
日本の近現代史は、短絡的かもしれないが、明治維新以降「アジアの人々を踏みつける」ことを前提として来た、この史実より目を逸らしてはならない。
必要なのは明治維新前後から現代まで、朝鮮半島、および「満州」を主舞台とした「日清」、「日露」の両戦争、「韓国併合」、朝鮮半島や台湾の植民地化を展示し、これまで退蔵化すらして来た資料・史料にも光を当て、最大限展示することである。
それによってはじめて私たちは15年戦争も大阪大空襲も、また沖縄の悲劇、ヒロシマ・ナガサキの惨劇、戦争における日本軍兵士たちの無残で悲しい戦死、多大な餓死・病死などの史実、戦争の悲劇・歴史の真実を知ることが出来ると思う。

過去の負の継承とは

過日、韓国・全羅南道光州市を訪れる機会があった。軍事独裁政権下の1980年5月18日から10日の間、光州の市民・学生が武器を持って決起したいわゆる「光州民衆蜂起」の現場である。多数の市民の犠牲を伴ったこの蜂起は当時の軍事政権にとっては「国家反逆罪」に値する暴挙以外のなにものでもない。
しかし今、この犠牲者は加害した国家によって「愛国心と民主主義の聖地」とされる「国立5.18民主墓地」に手厚く葬られ、その姿が当時の写真や映像で生々しく残され、訪問する私たちにこれら尊い犠牲の上に今日の韓国の民主主義があることを教えている。
ホロコースト・ナチス強制収容所を持ち出すまでもなく、「負の遺産」の保存は世界の常識である。形態的な違いがあるといえ「ピースおおさか」にもこのことが求められている。
私たち市民グループは時間的切迫性の下、今後もあらゆる手段、工夫、思いを凝らし「ピースおおさかリニュアール構想」を格好の機会と捉え返し、歴史認識の再確立、私たち市民の思いを十分に織り込んだ歴史博物館、大阪にふさわしい歴史的施設としてより充実させるようと願い、奮闘中である。

※10月14日にネット署名change.orgをはじめた。よろしかったらご協力をお願いしたい。
キャンペーン/松井一郎大阪府知事-橋下徹大阪市長-ピースおおさかから加害展示をなくさないでください。こちら

◆井上淳(いのうえ じゅん)さんのプロフィール

戦前生まれ。兵庫県在住。民間企業で働く傍ら「いわゆる戦後補償問題」とかかわりを持ち、支援を続ける。主義・思想 戦前から現在までの東アジアにおける基本的問題の根本には日本があると考えてしまう「日本オタク」のひとり。ピースおおさかの危機を考える連絡会会員。日本軍「慰安婦」問題関西ネットワーク会員。強制連行・強制労働不二越訴訟連絡会会員。長年ヘイトスピーチ問題にも取り組む。


<法学館憲法研究所事務局から>
当研究所は10月から「2013年憲法フォーラム ― 主権者として社会への向き合い方を問う!!(全3回)」を開催します。その第1回(10月21日(月))では「立憲主義という考え方」をテーマに、当研究所の伊藤真所長と浦部法穂顧問が参加者の質問や問題提起に回答・コメントし、参加者とともに憲法についての認識を深めます。多くの方々にご参加いただきたく、ご案内します。



 
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