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今週の一言

 

個人の尊厳は憲法の基 ― 天皇の元首化は時代に逆行 ―

2013年9月23日



垣花豊順さん(琉球大学名誉教授・弁護士)



 日本国憲法第1条は「天皇は、日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」と定め、天皇を元首と定める条項はない。元首(Head of state)とは対外的に国家を代表する存在で、天皇は外国では元首として扱われているから、元首としての側面をもっておられる。しかし、天皇は日本国の象徴であって、国家機関としての元首ではないから、国政に関する権能を有しない(憲法4条)。日本国民の総意は、象徴天皇の定着であって、国家機関としての天皇の元首化ではない、と考えられる。

 日本国憲法の103個条の条文は、立憲主義に基づく「個の尊厳」を基(根本理念)にして制定され、国家元首としての天皇を基にして制定されているのではない。天皇の地位を象徴から国家元首に変えることは、国家機関としての天皇の地位と権能を強化することであり、象徴としての天皇の地位及び権能に重大な変更をもたらすことであるから、憲法9条、96条の改正よりも、重要な問題を含んでいると考えられる。それに対し、自民党憲法改正草案は、その第1条で天皇を「日本国の元首であり、・・・」と定め、憲法の基である「個の尊厳」を、天皇を「国家元首」に変えることによって、公権力で制限することを目論んでいる。

 天皇を国家元首に変えると、憲法13条に定める「すべて国民は個人として尊重される」は「全て国民は人として尊重される」に変わって、個人は抽象的な人に変わり、「公共の福祉に反しない限り・・・」は、「公益及び公の秩序に反しない限り・・・」に変えられ(改正草案13条)、個人の尊厳に基づく国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義の三原則も、天皇を元首に据えて、「公益及び公の秩序」の名の下に制限されることになる。

 日本国憲法の制定に伴い、教育勅語は廃止され、現人神だった昭和天皇陛下は人間宣言を行い、平成天皇陛下は象徴天皇として国民から親しまれている。
 叙勲受章者らに贈られた皇室のアルバム写真集に、天皇・皇后両陛下が沖縄戦終焉の地である糸満市摩文仁の平和祈念公園に建立されている平和の礎で、戦没者の氏名を凝視しておられる写真が掲載されている。平和の礎は、大田昌秀氏の県知事の時に摩文仁の海岸に打ち寄せる波のように「平和の波よ、永遠なれ」との平和を希求する理念の下に、波型の石碑に国籍、人種を問わず、沖縄戦の犠牲者全ての氏名を刻んでいる。平和祈念公園には、戦争の犠牲者を悼み、自決したことを記念する碑文はあるが、沖縄県民が歴史的に重んじてきた「命どぅ宝」の碑文は建立されていなかった。石原エミの祈りが実り、2013年6月9日に、沖縄大学学長加藤彰彦、沖縄尚学理事長名城政次郎、歌手石原エミ、琉球大学名誉教授垣花豊順等が中心になって、平和の礎入口に「命どぅ宝 命こそ最高の宝である」の石碑が建立された。裏面には、「戦争は終わった 平和は人の心でつくる 命こそ 究極の宝」の文言が日本語、英語、韓国語、中国語で刻まれている。敵と戦って戦死したと認められる人々だけを祀る靖国神社や特攻隊員として敵艦に突入・自爆した隊員の御霊だけを祀る鹿児島にある知覧平和祈念館を両陛下が訪れた写真は、見当たらない。日本国民統合の象徴であられる両陛下が靖国神社、特攻精神を讃える知覧平和館に参拝されることは、戦争の犠牲になった一般国民や諸外国人の御霊に対して冥福を祈ることにならないし、国際平和へ貢献することにもならないからだと、考えられる。「命どぅ宝」は、無数の先祖から受けついだ各自の肉体生命は、この世における最高の宝であると言う意味である。天皇を現人神と定める明治憲法の下では、個人の生命は天皇に捧げられ、身体、言論等の自由は天皇の授ける範囲内だけで認められた。今日では、個人の生命、自由、幸福の追求権はアメリカの独立宣言、世界人権宣言3条、日本国憲法13条で、自明の真理として定められている。万物に平等に太陽の熱・光を注ぎ、命を育む天の理(法)を国会で制定する法律で具体的に「命こそ最高の宝である」を実現することが、政治の最も重要な課題になっている。「命どぅ宝」の石碑は、沖縄戦で県民が学んだ教訓として、「平和は人の心でつくる」「命こそ 最高の宝である」ことを世界の人々に伝える碑である。

 象徴天皇を国家元首に変えると、天皇陛下ご夫妻が平和の礎を訪れて平和の祈りを捧げることや、東日本大震災の被災者を膝まずくようにして、お見舞いすることは適わなくなる。象徴としての天皇の行為と国家元首としての天皇の行為とは、法的・政治的意味が異なり、平和の礎には敵国として戦ったアメリカ兵12.500名の氏名も刻まれているからである。6月23日の慰霊の日に沖縄に来られたル−ス駐日アメリカ大使は、平和の礎に行かれ、戦没したアメリカ兵全員の氏名が石碑に刻まれていることを見て感動した事をテレビで語っている。安倍晋三総理大臣、小野寺五典防衛大臣、山本一太沖縄担当大臣らは慰霊の式典には参列されるが、平和の礎を訪れた記録は見当たらない。

 2020年夏季オリンピックの東京開催が、東京60票、イスタンブール36票の大差で決まり、東京都民は万歳を叫び、日本国民全体は喜びに溢れている。東京招致が成功したことを素直に喜びながらも、米軍基地の約70パ−セントが集中する沖縄からみると、政治、経済だけでなく、スポ−ツ施設までも東京に集中し、米軍基地を本土に招致しない政治の在り方に疑問が湧いてくる。

 60票を獲得した圧勝の原因は、パラリンピック陸上選手の佐藤眞海さんの「スポ−ツの力」、フリ−キャスタ−滝川クリステルさんの日本国民の「お・も・て・な・し」に関するスピーチを含め、招致委員の方々のスポ−ツの力による震災からの復興に関するプレゼンテ−ションがIOC委員の感動を呼びこんだことだと言われている。

 東京オリンピックが成功させるか否かの鍵は、オリンピック開催に向けて国民一人一人に内在する力を有効に引き出すことができるか否かである。それと同じように、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和を求める日本の未来を築く鍵は、象徴天皇を国家元首に変えることでなくて、個人の尊厳を重んじ、各人の身体・精神に内在する力を充分に発揮することができる教育、政治、経済の体制を憲法で保障することである。


垣花豊順(かきのはな ほうじゅん)さんのプロフィール

那覇地方検察庁検事を経て琉球大学法文学部教授。琉球大学を停年退職後、現在は沖縄国際大学法学部教授、沖縄県地方労働委員会会長、法務省那覇保護観察所、那覇保護区保護司会会長。
1933(昭和8)年、沖縄県に生まれる。
琉球大学文理学部法政学科卒業後、アメリカ ミシガン大学ロースクール大学院比較法学修士課程修了、スタンフォード大学ロースクール大学院博士課程修了、Doctor of the Science of Law(法学博士)。
保護司として非行少年、犯罪者の更生に努めた功績により、平成11年法務大臣表彰、平成12年沖縄県知事感謝状。
著書に、「刑事訴訟法」(青林書院、1993年、共著)、「個の尊厳について」(東京布井出版、1998年)等がある。
2005年7月沖縄県弁護士登録


<法学館憲法研究所事務局から>
 当研究所は10月から「2013年憲法フォーラム ― 主権者として社会への向き合い方を問う!!(全3回)」を開催します。その第1回(10月21日(月))では「立憲主義という考え方」をテーマに、当研究所の伊藤真所長と浦部法穂顧問が参加者の質問や問題提起に回答・コメントし、参加者とともに憲法についての認識を深めます。多くの方々にご参加いただきたく、ご案内します。



 
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