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戦争の加害面もきちんと知ってアジアの人々との対話をはかりませんか

2013年9月9日



倉橋綾子さん(フリーライター・「山猫くらぶ」代表))



 日本が引き起こした戦争が終わって2年後に私は生まれました。戦争を知らない世代として平和憲法を享受し、60代半ばまで年を重ねることができました。ですが、この頃の極端なナショナリズムの高揚には、憂いを禁じ得ません。もちろん、相手あってのことですが、それ以前に何よりも大半の人は、自国の起こした戦争の加害面には触れようとしないし、さらに言えばあまり知らないということです。これでは被害を受けた相手国の人々との対話の基盤が、そもそもなりたちません。
 かくいう私自身も、以前はそうでした。日本が侵略戦争をやってアジア諸国に大きな被害をもたらしたことは、頭の上ではわかっていても、自国の被害の方に目が向きがちでした。そんな私が変わらざるを得なかったできごとがあります。

★ 父の遺言から

謝罪碑
 今から27年前、私は病床の父から次のような文言の紙切れを渡され、墓に刻むよう頼まれました。
 「旧軍隊勤務十二年八ヶ月、其の間十年、在中国陸軍下級幹部(元憲兵准尉)として、天津、北京、山西省、臨汾、運城、旧満州、東寧,等の憲兵隊に勤務。 侵略戦争に参加、中国人民に対し為したる行為は申し訳なく、只管お詫び申し上げます」

 父があの戦争への参加を悔いているのを知ってはいたものの、墓に刻むほどの思いを抱いていたとは、思いもかけないことでした。正義感の強い父だから、良い憲兵だったのだろうという漠然とした思い込みがあったのです。それではいったい父は中国でどのようなことをしたのか知りたくて、苦心して東寧での上司を探し当てましたが、話してはくれませんでした。
 その後精神医学者の野田正彰さんの助言で、自分も含めた戦後世代がいかに父親たちに「戦場で何をやったのか」を問う力がなかったのか、気づかされました。元々、自身の加害行為は言いにくい上に、この国では加害に関する事はおのずと避けられているのです。戦争責任があいまいにされたまま、加害を語ることはタブーのような風潮があります。そうした雰囲気のなかで育った自分たちには、問う力がなかったのです。
 ですから、学校でも加害にあまり触れられないし、それどころか被害さえも知らない子供らが育ってきたのです。そして今、「はだしのゲン」のなかの日本兵による斬首の場面や、女性を暴行する場面がやり玉にあがったりするのです。根底にあるのは「見たくないものは見ない、なかったことにしたい」という願望です。
 自分の生まれた国を悪く言いたくない気持ちは理解できますが、歴史の事実に目を閉ざしてしまっては、被害国との共通理解は成り立ちません。

★ アジアとの対話を進めるために

東寧要塞にある第二次大戦終了地の記念碑
 身内の事情があり、父の謝罪の碑を刻むことができたのは、遺言を受け取った12年後でした。
 私は、2000年に南京の虐殺記念館や北京の抗日戦争記念館を訪れる旅に参加し、父の謝罪を伝えました。また、東北部の東寧へ知り合いに連れていってもらい、父が赴任していた村に行き、謝罪を伝えることができました。
 さらに、2005年には人民政府の招きで東寧を再訪し、日本軍の作った巨大な要塞の跡を見たり、父の謝罪を伝えました。居合わせた記者たちは「あなたのお父さんのような率直な謝罪が、われわれにとっては何よりのなぐさめです」と、口々に言いました。
 ちょうど小泉元首相の靖国神社参拝が取りざたされていたころです。日本の首相もドイツの首相のように被害国の戦争記念施設などを訪れて、頭を垂れる勇気があればと思わずにはいられませんでした。そうなれば被害国との対話も成り立ち、未来に向けて再出発できるのではないでしょうか。
 同様に私達国民が加害についてもっと学び、アジアとの民間交流に生かす努力が必要です。そのために、日本中の町や村に戦争の被害だけでなく加害も学べる会があればいいなと思い、友人たちと地元にささやかな会を作りました。今では「山猫くらぶ」という名で、16年目に入りました。

★ 憲法9条はアジアへの誓約

 安倍首相の再登場により、にわかに憲法9条を変えようという動きが加速しています。
9条は310万人以上の自国の犠牲だけでなく、2000万人以上のアジアの人々の犠牲のうえに成り立っています。日本が平和国家として生まれ変わったからこそ、アジアの人々も許したのです。このことを肝に銘じたいです。
 目先の他国とのいざこざにいらだち、短絡的に「国防軍」を作るのでなく、平和国家でありつづけようという強い意志を貫いていきませんか。戦争で殺し殺され、私の父のように苦悩する人間が再び出てきませんように。

 

倉橋綾子(くらはし あやこ)さんのプロフィール

1947年生まれ。
著書 『憲兵だった父の遺したもの―父娘二代心の傷を見つめる旅』(高文研)
小説 『永い影』(本の泉社)




 
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