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「『国防軍』をつくる」の愚かさ

2013年6月10日



半田滋さん(東京新聞論説兼編集委員)

 安倍晋三首相の体内には、母方の祖父、岸信介元首相がなし遂げられなかった憲法改定の血が流れているのだろうか。戦後体制を否定する「戦後レジームからの脱却」を掲げ、日本を改憲へ導こうとしている。

 第1安倍内閣で最初に手がけたのは教育基本法の改正だった。憲法との関係が表裏一体の特別な法律だからである。改正された教育基本法の教育目標に「国を愛する態度を養う」ことが加えられた。次に踏み切ったのが国民投票法の制定である。憲法の規定から、改正は国民投票を避けて通れない。安倍氏は手つかずの国民投票手続きの大枠を定めたのである。

 ここまで進めたところで安倍氏は政権を放棄し、退陣した。昨年12月、首相に返り咲いた安倍氏は「憲法改正して『国防軍』をつくる」「集団的自衛権行使を容認する」と公言し、第1次安倍内閣で積み残した改憲を前面に押し出そうとしている。

 なぜ自衛隊を国防軍にする必要があるのか、私にはどうしても理解できない。自衛隊を取材して25年目。興味を持ったきっかけは1991年のペルシャ湾掃海艇派遣だった。海外活動は憲法違反ではないのか、との激しい国会論戦があった。

 翌92年には国連平和維持活動(PKO)協力法が制定され、陸上自衛隊がカンボジアへ派遣された。旧日本軍の飛行場があった南部のタケオ市に宿営地がつくられ、600人の隊員が派遣された。これ以降、自衛隊の海外活動は常態化していく。

 現在はアフリカの南スーダンPKOに330人が派遣され、ジブチでは海上自衛隊が海外初の拠点を設け、護衛艦とP3C哨戒機による海賊対処が続いている。

 現在に至るまで守られているのは、憲法で禁じた「海外における武力行使」をしないことである。戦火くすぶるイラクでの活動は自衛隊の宿営地にロケット弾が撃ち込まれ、相手を傷つけることより、隊員に犠牲者が出るおそれもあったが無事だった。

 振り返れば、丸腰の派遣にあたる国際緊急援助隊を含め、22回で延べ4万人の自衛官が海外へ派遣された。1発の銃弾を撃つことなく、1人の地元民を殺傷することもなかったのは憲法の制約があったからだ。PKOでは道路・橋の補修、宿舎の建設、輸送といった後方支援活動に徹し、国連や派遣先国から「礼儀正しい」「技術力が高い」と評価されている。

 国会議員の中には、PKOでもより危険度の高い「平和維持軍(PKF)に参加すべきだ」との声があり、政府は凍結されていたPKFの参加を2001年に解除した。それでもPKF参加が1度もないのは、どの活動に参加するか決めているのが事実上、制服組だからだ。彼らが危険な活動を慎重に避けている。日本の「シビリアンコントロール」とは、制服組の意向に政治家が従うことであり、実体は「逆シビリアンコントロール」となっている。

 PKFに参加しているのは、バングラデシュ、パキスタンなど発展途上国ばかりで、国連から支払われる兵士への日当を外貨獲得の手段にしている国々である。その列に割り込めというのだから、日本の政治家はどうかしている。

 勇ましいことを主張する政治家ほど自衛隊の実態を知ろうとしない。5月にあったイベントで迷彩服を着て戦車に乗り、ポーズをとった安倍首相も例外ではない。

 「国防軍」をつくると主張する前に自分の立ち位置を確認したほうがいい。2月の訪米で、勇んで「集団的自衛権の行使容認の検討を始めた」と伝えたものの、オバマ大統領からそっけなく扱われたのはなぜか考えた方がいい。歴史認識を見直し、「国防軍」つくるでは戦前への回帰そのものだ。そんな日本は危険極まりないと警戒されるのは自明である。

◆半田滋(はんだ しげる)さんのプロフィール

東京新聞論説兼編集委員。91年より自衛隊を取材している。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。


<法学館憲法研究所事務局から>
 当研究所も製作に協力したDVD「STOP戦争への道」が完成しました。半田滋さんも出演しておられます。今般の改憲問題について多くの人々と語り合う素材になりますのでご案内します。


 
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