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憲法96条を考える授業とは

2013年5月27日



杉浦真理さん(立命館宇治中学高等学校教諭)

 2000年代、法学館の伊藤真先生の著作に出会って、改めて「立憲主義」という言葉が大事だなと思った。

立憲主義とは

 当時、第一次安倍内閣で「憲法改正を考える授業」『中等社会科の理論と実践』(学文社)(2007)を始めた。それは、近代憲法が歴史的に形成されてゆく過程を確認しながら、「立憲主義」を理解せずに、憲法改正を生徒が議論することの意味のなさを感じたからだ。
 憲法99条の憲法尊重擁護義務を読む前に、生徒に憲法は誰が守るものなのかと聞くと「国民」と返ってくる。中学までの社会科憲法教育では、最高法規は教えても立憲主義は、全く定着していない。だから、憲法の授業は、自由獲得の歴史と憲法99条で誰が憲法を守るものかをバッチリと知らせないといけない。だって、国民が権力者をしばるために、近代市民憲法を作ってきたからである。
 例えば、自民党の改憲案の問題を、伊藤真先生は、『歴史地理教育』2013年5月号に書いている。自民党の「公益及び公の秩序」という考えの中に、立憲主義的な発想への逆行が、上(国家)からの統合へ、個人の幸福追求(現憲法13条)が従属させられてゆくことを危惧せざるを得ない。そこで、立憲主義を重視しながらの中高の社会科授業実践が大事であり、私は既にこの4月『シティズンシップ教育のすすめ』(法律文化社)にまとめていたのである。
 「立憲主義」の最大の例は、憲法9条の第2項である。「前項の目的を達するために」という余計な文言は置いておいて、具体的に第1項の戦争放棄を実現するために、戦力を持たせない、交戦権も認めないという、国家が戦争できないように縛る内容になっている。このような視点から、しっかり9条の条文教育をする必要がある。だって、憲法は、国家をしばり、権力者にしてはいけないことを明示し、実行させることに意味があり、憲法97条のように、私たちの「人類多年にわたる自由獲得の努力の成果」であるからだ。
 具体的に憲法9条は、海外派兵の武力行使を止め、集団的自衛権の不行使など、日本国憲法があるからできてきた。「憲法の制約」という「立憲主義」的な機能が、60年以上も自衛隊員の命を守り、かつ自衛隊が国家的な理由で、他国の市民を殺すことを明確に止めてきたのである。これは、憲法9条が世界の国でも稀有な平和な国を作り出してきた積極的な現実である。また、当然憲法18条の奴隷的苦役の禁止とともに、徴兵制がないのも、隣国韓国の若者とちがい、国防軍を持たないこの日本国憲法のおかげなのである。

憲法96条改正先行を考えよう!

 96条の立憲主義的課題は硬性憲法の課題である。世界的に日本国憲法がもっとも硬性憲法ではないことは調べれば明らかである。よく戦後の改正の回数だけでドイツを改正が多い国の例として挙げられるが、そのことは意味がない。日本国憲法よりもっと難しい両議院の3分の2と州議会の4分の3をクリアーしなくてはいけないアメリカ合衆国憲法でさえ6回の改正を行っている。
 つまり、改正しづらいからできないのではなく、国民が望んでいないから、日本では憲法が改正されて来なかったのである。国民は現実の生活から憲法を変えるまでの不合理を感じていないである。
 しかるに、「国民の過半数が改正を望んでいるのに、国会で3分の1が反対すれば発議できないのはおかしい」と総理がいうのは、一見、国民主権を擁護しつつ見える。しかし、それは権力者側から改憲のハードルを下げたいという立憲主義の弱化を図った虚言である。
 更に、この「96条先行改正議論」は、9条改正を明らかにせず、維新との野合で行われているまやかしがある。何のための96条改正かというと、9条改正(国防軍樹立)が影の目標であることは、2012年の自民党改憲案からも明らかである。
 このような姑息な迂回戦略を理解した上で、更に「立憲主義」を行使することを念頭においた96条改正の議論がリアルに必要なのである。このような流れによる授業(2013年4月政治経済・立命館宇治高校)では、4クラス中3クラスでは、96条改憲発議を生徒選出国会議員が否決、1クラスは生徒全体の国民投票となったが国民投票で否決された。
 単純なディベートではなく、「立憲主義」「9条との連動(国防軍創設)」を理解した生徒の仕上げとして、判断力を育てる政治経済の授業が必要なのである。詳しくは、7月に全国民主主義教育研究会福島大会、8月に歴史教育者協議会大阪大会での授業報告を予定しているので、憲法教育に関心のある方は参加されたい。

◆杉浦真理(すぎうら しんり)さんのプロフィール

立命館宇治中高教諭。立命館大学非常勤講師。全国民主主義教育研究会機関誌編集長。



 
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