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政治のあり方と憲法改正論議

2013年4月29日



只野雅人さん(一橋大学法学研究科教授)

 2010年の参議院議員選挙後、とくに大震災以降、「決められない政治」ということばが盛んに用いられた。背景にあったのは、両院の「ねじれ」である。「決められない政治」の原因として、「強い」参議院が批判されもした。しかし本当の原因は、むしろ別のところにあったように思われる。そうした参議院を組み込んだ憲法と、二大政党間の政権選択という議会政治の運用との「ねじれ」である。国会の憲法審査会では、参議院の権限縮小、さらに一院制さえも議論になっている。運用に合わせて憲法を変える、ということであるが、むしろ選挙制度のあり方など、憲法に見合った運用を考えることが本筋であろう。

 この点はさておき、「決められない政治」の背景には、今ひとつ別の問題もあったと思われる。主要政党間の、明確な対立軸の欠如である。基盤となる理念や方向性の違いが曖昧だからこそ、理念や政策ではなく「政局」の論理ばかりが際立ち、かえって見かけ上の対立は激しくなる。一方で、消費税の引き上げなど重要な争点では、簡単に合意が成立したりもする。それぞれの違いを明確にしないまま合意が進められれば、歯止めのない政治ともなりかねない。マニフェスト選挙自体が、「有権者は中長期的に支持する政党を持たず、マニフェストに従って政権を担うべき政党を選択する」という民主主義像を前提としていた(中北浩爾『現代日本の政党デモクラシー』岩波新書、185頁)ことからすれば、当然の帰結ともいえよう。

 昨年12月の衆議院議員選挙以降、状況はずいぶん変わったようにみえる。自民党が圧勝し、自公で衆議院の3分の2を超える議席を獲得したことから、「ねじれ」はずいぶん緩和された。7月の参議院選挙では「ねじれ」が解消しそうである。経済政策など、安倍政権は政策面で民主党との違いを打ち出しているが、何より一番の違いは、憲法改正に対する姿勢である。現在、96条にしぼった改憲論−憲法改正のための発議要件の緩和−が勢いを増している。安倍首相は、7月の参議院選挙で、その争点化を進めようとしている。

 一方、「決められない政治」が併せもっていた歯止めのない政治のおそれという問題は、依然変わらぬままであるように思われる。それがとくに現れているのが、96条の改正論議ではないだろうか。憲法をどう変えるのか、という一番肝心の点で大きな相違を抱えたままで、発議要件の引き下げに向けた合意形成が進められている。参議院選挙では、経済政策を始めとする他の国政上の争点と、それとは直接の関連がない96条改正が、ワンセットで、公約に組み込まれることになるのだろうか。有権者は何を選択した、ということになるのか。

 いずれにせよ必要なのは、対立軸を明確にすることであろう。違いを明確にしないままなされる合意には、大きな危うさがつきまとう。選挙はもちろん、その重要な契機であるが、それだけにとどまらない様々な回路を通じた意見表明が欠かせないであろう。また本来は、「政党」という物差しだけでは明確にならない民意の違いを明らかにする上で重要なのが、国会での議論である。それは、国会審議一般についても、また憲法改正論議についても、あてはまる事柄である。憲法審査会では、まず改憲ありきといった主張も多く見られるが、改憲案をとりまとめることだけが、審査会の役割ではない。「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行」う(国会法102条の6)ことが、改正を論じる前提である。憲法が適切に運用されてきたのかどうか、その意義が十分に生かされてきたのかどうか、検証することが欠かせない。そうしたプロセスを丹念に踏んでゆけば、改憲を安易に論ずる前に取り組むべき課題が、数多くみえてくるはずである。


◆只野雅人(ただの まさひと)さんのプロフィール

一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了、博士(法学)。広島修道大学法学部助教授、一橋大学法学部助教授などを経て、現在一橋大学法学研究科教授。主要な著作として、『選挙制度と代表制』(勁草書房、1995年)、『憲法の基本原理から考える』(日本評論社、2006年)、『憲法と議会制度』(共著、法律文化社、2007年)など。




<法学館憲法研究所事務局から>
 法学館憲法研究所は憲法改正問題をめぐる緊迫した情勢をふまえ、シリーズ「憲法と共に歩む」製作委員会の構成団体としてドキュメンタリー映画「戦争をしない国 日本」の続編である「STOP戦争への道」を製作し、普及をすすめることにしています。読者の皆様にもご協力いただければ幸いです。


 
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