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今週の一言

 

2012年総選挙に現れた選挙制度の問題点

2013年2月11日



紅林進(フリーライター・「小選挙区制廃止をめざす連絡会」幹事)

<矛盾が露わになった小選挙区制>

 昨年12月16日の衆議院総選挙で誰の目にも明らかになったのは、小選挙区制の矛盾、問題点である。小選挙区制については、従来から、得票率と議席獲得率の乖離、投票が議席に結びつかない、多数の「死票」が出ること、少数意見、少数派を切り捨てる問題点が指摘されてきたが、それが顕著な形で露わになったのが、今回の総選挙結果である。現行の衆議院議員の選挙制度は、小選挙区比例代表並立制で、小選挙区選挙で300議席を、全国11ブロックの比例代表選挙で180議席を選ぶ、小選挙区制優位の選挙制度である。自民党は、今回の総選挙で、小選挙区300議席中、237議席(79%)を獲得した。自民党が得た294議席の内、実に237議席という大半の議席を小選挙区で獲得している。それが今回の総選挙での自民党の圧勝を印象付けることになったのであるが、小選挙区における自民党の得票率は43%、比例区では27.62%に過ぎなかった。(なお棄権した者も含む全有権者数に対する同党の得票率は、小選挙区では24.67%、比例区では、たったの15.99%に過ぎない。)しかも自民党はその小選挙区における得票数を、自民党が民主党に惨敗した2009年の前回総選挙よりも約166万票を減らしているのである。(比例区では、自民党は前回より約220万票減らした。)自民党は今回の総選挙で、小選挙区では43%の得票で79%の議席を得たことになる。約4割の得票で、約8割の議席を獲得したのである。なお郵政民営化が争点となり、小泉自民党が圧勝した前々回2005年の総選挙では、自民党が約4割の得票で、約7割の議席を、そして民主党への政権交代が実現した前回2009年の総選挙では、民主党が約4割の得票で約7割の議席を獲得している。このように小選挙区制は、得票率と議席獲得率の乖離が大きく、その分、多数の「死票」が生まれる。今回の総選挙では、全国の小選挙区で合わせて約3730万票(56%)もの「死票」が出た。その被害は少数派政党がもろに受ける。得票数に比例する全国一区の比例代表制で計算した場合は12議席取れたはずの社民党は現行の選挙制度の下で、今回2議席に、29議席取れたはずの日本共産党は8議席に、27議席取れたはずの日本未来の党は9議席になってしまった。それに対して自民党は、今回、小選挙区と比例区合わせて294議席を獲得したが、全国一区の比例代表制にした場合は、半分以下の132議席になる。(図表1図表2参照)
 マスコミは、1994年の選挙制度改革で、現行の小選挙区比例代表並立制が導入(実施は1996年の衆議院総選挙から)された際、小選挙区制は、政権交代が可能になるだの、政局が安定するだのと言って、その導入を後押ししたが、いまやマスコミでも、小選挙区制の矛盾、欠点を言わざるを得なくなっている。その導入を中心になって推進した政治家の中からも、小選挙区制の欠陥について言及したり、中選挙区制に戻すことを主張する者も、少なからず現れてきた。
 現在の比例定数180議席も、小選挙区比例代表並立制の発足時には200議席あったものを、20議席削られ、180議席になったものであるが、この間、民主党や自民党は、議員定数、取り分け比例定数を削減して、小選挙区制をより強化することを主張してきた。

<一票格差を放置して強行された今回の総選挙>

 日本の現行の選挙の問題点として、小選挙区制の問題と並んで、一票格差などの問題もあり、この問題では、すでにマスコミ等でも大きく取り上げられ、現状を「違憲状態」とし、その是正を求める最高裁判決も出されているが、今回の総選挙は、その是正を行わず実施された。そのため、選挙無効の訴訟もすでに各地で起こされている。なお小選挙区制をやめて、得票数・得票率に比例する全国一選挙区の比例代表制(参議院選挙全国区がまさにそれ)にすれば、この一票格差の問題は解決する問題でもあることも指摘しておく。

<市民の自由な選挙運動参加を妨げる公職選挙法>

 日本の公職選挙法は、民主主義国では、世界に類を見ない、「あれをしてはならない、これをしてはいけない」という制限だらけの「べからず選挙法」である。取り分けインターネットを含む「文書図画」の過剰な規制は表現・出版の自由を侵すものともいえる。インターネットについては解禁が議論されているが、それ以外にも、この公選法には、非常に非常識な規定や不合理な規定が実に多数ある。それは主権者である市民の自由な選挙運動、政治参加を、制限、妨げている。また極めて曖昧な規定も多く、捜査当局による恣意的な選挙介入、弾圧を許すことにもなっている。この複雑、不可解な選挙法のせいで、「素人」の一般市民の選挙運動参加を極めて敷居の高いものとし、公選法を熟知し、その抜け道も熟知した「プロ」の政治家のみが生き残ってゆくことにもなる。なおこの日本における異常ともいえる厳しい選挙運動規制は、1925年(大正14年)の男子普通選挙の実現とともに導入された。それまでの有産者だけの制限選挙の時代には、選挙運動はほとんど規制はなく原則自由であった。男子普通選挙と治安維持法、厳しい選挙運動規制、そして高額の供託金制度は、セットで導入されたのであり、後二者はまさに、無産政党の議会進出を阻止するために導入されたと私は思う。

<被選挙権を制限する、高額な供託金制度>

 日本国憲法により、選挙権と並んで、被選挙権が保障されているが、高額な供託金(注1)を支払わないと立候補自体ができない。諸外国では、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアなどのように供託金制度自体がないか、あっても、日本のように異常に高額な国はない。フランスでは約2万円の供託金すら批判の対象となり、1995年に廃止している。しかも日本の場合、この高額な供託金は一定の得票率(注2)を獲得しないと没収される。これでは資金力のない候補や政党・政治団体は立候補自体ができないことになり、被選挙権を実質上奪うことになる。法の下の平等にも反する。被選挙権という、国民主権の基本にかかわることで、このような制限、差別が許されてよいはずがない。選挙権については、平等な「普通選挙」が実現されたものの、「被選挙権」(立候補権)については、「納税額」による制限が、「供託金」に変わっただけで実質上、収入・財産によって制限する「制限選挙」が依然続いていると言わざるを得ない。

 なお拙稿は、あくまで私個人の見解であり、「小選挙区制廃止をめざす連絡会」の見解を記したものではありません。

(注1)「供託金」の額は、衆院選(小選挙区)と参院選(選挙区)は各300万円、衆院選(比例代表区)名簿単独登載者数×600万円+重複立候補者数×300万円、参院選(比例代表区)は名簿単独登載者数×600万円、また額は異なるが、地方自治体の  議員や首長の選挙においても立候補にあたって供託金が必要である。

(注2)「供託金没収点」は選挙の種別によって異なるが、衆院選・小選挙区の場合だと有効投票総数の10分の1。

(図表1)

もし全国1区比例代表ドント方式なら議席配分はどうだったか 
(「what_a_dudeの日記」ブログより)  

(図表2)

得票数と議席数のギャップ(小選挙区)
(毎日新聞 2012年12月17日より)

◆紅林進(くればやし すすむ)さんのプロフィール

フリーライター。「小選挙区制廃止をめざす連絡会」幹事。
市民運動や脱原発運動などに関わっている。
主要著作「ベーシックインカムと資本主義、社会主義」(『資本主義の限界と社会主義』時潮社、所収)「モンドラゴン協同組合の経験」(『もうひとつの世界へ』No.14、ロゴス、所収)。分担執筆(小選挙区制廃止をめざす連絡会編)『小選挙区制 NO!二大政党制の罠』(ロゴスブックレットNo.3)『議員定数削減 NO! 民意の圧殺と政治の劣化』(ロゴスブックレットNo.5)






 
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