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今週の一言

 

大阪市職員思想調査アンケート国賠訴訟の概要と展開

2012年12月3日



西 晃さん(大阪市思想調査アンケート国賠訴訟弁護団事務局長・弁護士) 

職員アンケートの強制実施とその凍結に至る経過

 橋下徹大阪市長は、本年(2012年)1月、野村修也大阪市特別顧問らをメンバーとする第三者調査チームに対し、「行政と政治の明確な分離を図るための規範となる条例」を制定するための調査を委託しました。これを受けて野村氏らは、職員アンケート調査(以下この職員アンケート調査を本件思想調査アンケートと呼びます)を作成し、本年2月10日から16日にかけて、大阪市を通じて、市の職員に対し、同アンケートへの回答を求めました。
 その際橋下市長は、
「このアンケートは任意の調査ではありません。市長の業務命令(ママ)として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求めます。」「正確に回答がなされない場合は処分の対象となりえます。」
と述べて、従わない場合は処分もあり得ることを明示して、本件思想調査アンケートへの回答を市長の職務命令をもって強制したのです。

本件思想調査アンケートの内容とその重大な違法性

 本件思想調査アンケートの調査項目は22項目にわたりますが、個人名と所属、職種等を特定させた上で、調査は次のような内容に及びました。
(労働組合活動に関連する項目)
「あなたは、これまでに大阪市役所の組合が行う労働条件に関する組合活動に参加したことがありますか。」(Q6)、
「あなたは組合に加入していますか。」(Q16)、
「あなたは組合に加入することによるメリットをどのように感じています(ました)か」(Q17)、
(政治活動に関連する項目)
「あなたは、この2年間、特定の政治家を応援する活動(求めに応じて、知り合いの住所等を知らせたり、街頭演説を聞いたりする活動も含む。)に参加したことがありますか」「要請した人」「要請された場所」「要請された時間帯」(Q7)
 このように本件でのアンケート強制調査は、対象となる大阪市職員の「思想・信条の自由」「政治的信条の自由」「人格権」「プライバシー権」「勤労者の団結権」を侵害する極めて違法性の強い内容です。

思想調査アンケート国家賠償請求訴訟(慰謝料請求訴訟)とその意義

 処分をちらつかせ、公権力を背景に心の中に土足で踏み込むような行為の結果、大阪市の職場実態は極めて萎縮された、物の言いにくい異様な雰囲気となってしまいました。
そして本年7月30日、大阪市役所労働組合(市労組)に加入している組合員(退職者も含む)55名(一部退職者含む)が原告となって、大阪市を被告とする思想調査国家賠償請求訴訟(国賠法1条1項に基づく、1人あたり33万の慰謝料等の請求)を大阪地裁に提訴しました。
 例え選挙という民主的手段で選ばれた市長であっても、日本国憲法の下にあり、法秩序を破壊し、憲法により保障されている基本的人権を侵害する行為を行う権限など、一切与えられてはいません。
 その点を司法判断により明確にし、本件思想調査アンケートの違憲性を宣言させ、今後2度と同様の事を行わせない事が本件訴訟の最終目的であると考えています。その意味で、本件訴訟は「人による支配」ではない「法の支配」すなわち憲法による基本的人権保障を再確認する事に意義を見いだす憲法訴訟であると位置づけています。

始まった裁判、原告の熱い想いと、大阪市の逃げの姿勢

 本年10月3日(火)午前10時、大阪地裁第5民事部において、いよいよこの裁判の第1回口頭弁論を迎えました。意見陳述に立った原告2名は、自らの公務員としての生き方を否定された悔しい気持ちと、この訴訟にかける熱い思いを堂々と意見陳述しました。
 被告大阪市は、あれほど職務命令という事で、処分までちらつかせてアンケートを強制したにもかかわらず、訴訟では、
「本件アンケートの実施主体は被告大阪市ではない」
「『市長は職務命令をもって強制した』という評価は適切ではなく、調査の実効性を確保するため(第三者調査チームからの依頼をうけ)業務命令という形をとったに過ぎない」
などと、自らが実施主体である事を否定し、業務命令も自らが主体的に行ったものではないかのような無責任な対応に終始しています(被告大阪市の答弁書より)。
 
今後の裁判の展望

 第2回口頭弁論は去る11月28日に行われました。その場でも私達は、本件思想調査アンケートの違法性と、今も続く職場での萎縮的効果、人格的核心部分を傷つけられたことによる精神的苦痛を強く訴えました。
この裁判ではいずれ、アンケート実施の主体となった橋下市長や野村特別顧問を法廷で尋問する機会も十分有りうると考えています。
 憲法が守り生かされる職場を、そして大阪市を自由な人間形成を行える職場にするべく、何としても勝利したいと思います。

◆西晃(にし あきら)さんのプロフィール

1960年11月生まれ(52歳)
1988年4月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
現在大阪弁護士会憲法問題特別委員会・副委員長
自由法曹団全国常任幹事
過労死裁判、原爆症認定訴訟、大阪空襲訴訟、沖縄米軍基地関連訴訟など担当
(共著)憲法9条改正問題と平和主義(大阪弁護士会憲法問題特別委員会編)
(共著)最新「くらしの法律相談ハンドブック」(自由法曹団編)他





 
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