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ポピュリズムと民主主義の立て直し

2012年10月15日



小松浩さん(立命館大学教授)

 2009年の政権交代は、「国民の生活が第一」を掲げる民主党が、小泉政権以来の「構造改革」路線を止めてくれるとの「期待」感から生じたものといえます。しかしながら、この間の民主党政権をみれば明らかなように、この「期待」は裏切られ、幻滅感が漂っています。原理、政策的に同質的な二大政党による政権交代は、国民生活の実質にほとんど影響を及ぼさない、「政権交代があっても何も変わらないじゃないか」といった幻滅をもたらしました。
 「世論調査」でみても、「いまの日本の政治は、国民の意思をどの程度反映していると思いますか」との問いに対し、「あまり反映していない」59%、「まったく反映していない」21%で、8割の国民が「反映していない」と答えています(『朝日新聞』2011年12月30日付)。こうした「世論調査」からは、二大政党制に対する不信にとどまらず、政党政治そのもの、議会制民主主義に対する不信、失望もみられます。「決断できない政治」、「政争に明け暮れる政治」に失望する国民の姿がみえます。
 こうした失望感が、橋下、河村などのローカル・ポピュリズムへの「期待」へとつながっているのです。最近では、「橋下フィバー」も一時の勢いを失ってきていますが、今年の6月に実施された次の比例代表での投票先を尋ねた「世論調査」では、大阪維新の会28%、自民党16%、民主党14%で、維新の会が圧倒しています(『毎日新聞』2012年6月4日付)。しかし、ここでの「期待」感は、「何かやってくれる」という漠然とした「期待」感に過ぎません。何をやるかはともかくも、とにかく、「決断して、変える政治」、「決定できる民主主義」が求められているのです。その意味では、熟慮されていない、漠然とした情緒的な「支持」に過ぎないのです。このような中身の曖昧な「支持」にもかかわらず、「これが民意だ」として強権的に実行されてしまいます。橋下は、「選挙では国民に大きな方向性を示して訴える。ある種の白紙委任なんですよ」といいます。
 橋下の「民主主義」観は、「選挙は白紙委任、選挙に勝ったら何でもできる」、「自らが民意を体現、反対するものは民意に反する」との「民主主義」観で、政党、労働組合などの中間団体、中間組織を飛ばして、マスメディア、ネットなどを通じて住民と直結する「民主主義」を標榜しています。首相公選制の主張もこうした国民との直結という「民主主義」観に依拠しているといえます。国民と直結することで、自らの正統性を強めるとともに、政党、労組などの中間組織を否認し、それとの交渉を拒否して、トップダウンで、独善的に実行することが目指されています。
 しかし、選挙で勝ったとはいっても、所詮「多数派」の支持でしかありません。というより、「多数派」ですらないかもしれません。2011年大阪市長選挙の結果は、橋下「圧勝」といわれていますが、橋下が75万票、平松が52万票、投票率61%で、橋下の支持は有権者比では、約35%にすぎません。多数派のみならず、少数派の意見も含め、多様な民意の存在を無視してはなりません。
 ところで、橋下ポピュリズムといわゆる「政治改革」は極めて親和的です。「政治改革」は、小選挙区制、二大政党制の導入によって、国民に「政権選択」、「首相選択」を行わせ、党内集権化、首相のリーダーシップを強化し、官僚主導の打破、政治主導の確立を目指すものだったといえます。リーダーシップの強化、官僚主導の打破、政治主導など、橋下ポピュリズムと共鳴しています。橋下は、最近、「政党間の方向性の対立軸が見える中で有権者が物事を決めていくことが、国の政治のあるべき姿だ」と述べて小挙区制支持を打ち出しましたが、これは、その証左であるといえます。「政治改革」、イギリス・モデル(ウェストミンスター・モデル)論が橋下ポピュリズムを呼び込んだといえるでしょう。それゆえ、ポピュリズムに対抗するには、こうした「政治改革」、イギリス・モデル論の見直しが必要だと思います。
 実は、「小選挙区制→二大政党制→単独政権」というイギリス・モデルは、「本家」イギリスでも危機的状況にあり、見直しの議論があります。2010年イギリス総選挙は、総議席650議席中、保守党307議席、労働党258議席、自民党57議席で、単純小選挙区制でありながら、どの政党も過半数議席を獲得できない「ハング・パーラメント」(hung parliament)になり、戦後初めての連立政権になりました。保守・労働の二大政党の投票率の合計は65%で、3割以上の有権者が二大政党以外に投票しています。民意の「多様化」をうけて、「本家」イギリスでも、二大政党制、イギリス・モデル(ウェストミンスター・モデル)は「崩壊」過程にあるといえます。
 小選挙区制、二大政党制、イギリス・モデルによって、多様な民意の反映、少数意見の反映がなされていないとのフラストレーションが国民の中にあり、これがポピュリズムを生み出す要因の一つになっているといえます。森英樹は、「国会議員であれ地方議員であれ、独任制ではなく合議制の代表制度であり、しかもかなりの数の定数を用意するのは、制度内在的に『多様な民意』の反映を不可欠の前提にしているのではないか」、「『政権選択』のためならば何百もの代表を選出する必要はなかろう」(森英樹「選挙・政党と国会」法律時報72巻2号、2000年、29-30頁)と指摘していますが、同感です。そして、二大政党に収斂しない多様な国民の意見が現に存在するのであって、これが適切に議会に反映される必要性があります。代表されているとの「実感」がやはり必要なのです。
 近時の野田民主党政権は、「決められない政治」の脱却といわんばかりに、「決断する政治」を強行しました。しかし、それは、原発再稼働であり、消費税増税であり、オスプレイ配備であり、国民の多数の声を無視する「決断」でした。決められなかったのは、国民の多数が反対するからで、「決定するな」というのが国民の声だったといえます。消費税増税の「決断」は、民主、自民、公明の「三党合意」、事実上の「大連立」によってなされました。やはり、民意は政治に届かないといった閉塞感を国民にもたらしました。反原発のデモや集会は、現代日本の議会制に対する「失望」、「自分たちで何とかしなくては」という気持ちのあらあわれであるといえます。
 ところが、民主党は、こうした「民主主義の劣化」をもたらしたイギリス・モデルを反省するどころか、さらに、イギリス・モデル化を推進しようとして、比例定数の削減を提起しています。これが「実現」すれば、ますます国民の声は政治に届かなくなり、政治不信は増大するでしょう。比例定数削減を阻止し、比例代表を中心とした民主的な選挙制度に改革し、民意が反映される政治を作り出すこと、これが、迂遠のようでも、ポピュリズムを阻止することになるでしょう。
 トップダウンや独裁はスピーディーに「決定」できるでしょうが、民主主義には、時間とコストがかかるのです。主権者国民の声、少数意見に耳を傾け、じっくりと時間をかけて審議する。なかなか「決定」できないかもしれませんが、国民の声を無視した拙速な「決定」よりはるかによいでしょう。

◆小松浩(こまつ ひろし)さんのプロフィール

立命館大学法学部教授(憲法学)。
主著、論文として、『イギリスの選挙制度』(単著、現代人文社、2003年)、『ここがヘンだよ日本の選挙』(共著、学習の友社、2007年)、『橋下ポピュリズムと民主主義』(共著、自治体研究社、2012年)、「イギリス連立政権と解散権制限立法の成立」立命館法学341号(2012年)、「選挙区制と政権交代」憲法問題22号(2011年)、など。

<法学館憲法研究所事務局から>
11月4日(日)、「講演と対談『政治と憲法 −選挙制度・政党のあり方』」
(森英樹・名古屋大名誉教授が講演)を開催しますので、ご案内します。こちら



 
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