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戦後史の正体

2012年8月20日



孫崎享さん(元外務省国際情報局長)

 私は7月24日に、『戦後史の正体』という本を出した。終戦の1945年8月15日から今日までを、対米協調(従属)と自主の中でどのように揺れ動いてきたかを記述した本である。
 我々は戦後の歴史を知っている。しかしよくよく見ると実はその知識は相当稀薄である。
 例えば日本は8月15日で第2次大戦を終えたと思っている。しかし実は日本は「ポツダム宣言を受諾する」と知らせただけである。米国のトルーマン大統領)は、9月2日の降伏調印式の直後、ラジオ放送を行ない、その日を「対日戦争勝利の日」と宣言した。英国のチャーチル首相も「本日、日本は降伏した。最後の敵はついに屈服したのである」と述べている。国際的には第2次大戦が終了したのは9月2日である。
 では何故、日本は、9月2日の降伏の日を終戦としなかったのか。降伏文書の内容があまりに屈辱的であるからである。
 降伏文書には「日本はポツダム宣言実施のため、連合国最高司令官に要求されたすべての命令を出し、行動をとることを約束する」と記されている。
 また米国は1945年9月6日、トルーマン大統領の承認を得て、「連合国最高司令官の権限に関する通達」をマッカーサー元帥に送付送した。第1項で「天皇および日本国政府の国家統治の権限は、連合国最高司令官としての貴官〔マッカーサー〕に属する」と規定している。日本がこの時点でGHQの属国であることを明確にのべている。さらに「われわれと日本国の関係は契約的基礎の上に立っているのではなく、無条件降伏を基礎とするものである」としている。
 これが占領時代の日本である。この体制を実行したのが、吉田首相である。それはある意味仕方がなかった。日本は第2次大戦に敗れたのであり、その代償を払わざるを得ない立場にある。
 問題は独立した後も吉田茂が首相の座に留まり、占領時代とほぼ同じ対米関係を継続したことである。
 その代表が日米安保条約であり、駐留米軍の在り方を詳しく取り決めた行政協定である。
 ここでダレスがどのような姿勢で日本との交渉にのぞんだか。「一九五一年一月二六日、日本との交渉に先立ち、ダレスは最初のスタッフ会議において『われわれは日本に、われわれが望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保できるだろうか、これが根本問題である』と指摘した」(豊下楢彦『安保条約の成立』(岩波書店))
 このダレスの考えはどの様な形で条約や取り決めに盛り込まれたか。ダレスがのべた「われわれ(米国)が望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保する、それが米国の目標である」という文書は。一見、どこにもみえない。しかし、ちゃんと入っている。日米間の行政協定(後、地位協定に変更されるが、実質はほぼ同じ)がこの精神を文言化している。
 「日本は合衆国に必要な施設および区域の使用を許すことに同意する」
 「いずれかの要請があるときは、(略)施設および区域を日本国に返還すべきことを合意することができる」
というのがそれである。合意しなかったらどうなるのか。現状維持である。つまり、日米交渉で合意しない限り、米国は日本から「「われわれ(米国)が望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保する」権利を得ている。
 この関係を直そうとしたのが岸信介首相であった。岸は行政協定の見直しを意図した。駐留米軍の在り方を見直そうとした。しかし、この時に安保闘争が発生している。この安保闘争には財界の金が流れている。更に米国は明らかに岸首相の退陣を画策している。
 こうした過去の日米関係の歴史は今日まで綿々と生きている。鳩山首相が辺野古米軍基地の最低でも県外への移転を述べたのに、日米当局が合体して潰しにかかった。
 その後、菅首相に代わり、野田首相に代わり、野田首相の場合、歴史に見ない従属ぶりを示している。代表的なのはオスプレイ配備に対する対応で、7月16日、「配備自体はアメリカ政府としての基本的な方針で、それをどうこうしろという話ではない」と言い、7月31日、「オスプレイの国内での低空飛行訓練で地上の人や物件の安全のために低空飛行を制限する航空法は適用されない」とする政府答弁書を閣議決定した。
 野田首相のこうした対応は決して彼一個人の問題ではない。ある意味日米関係そのものを現している。その理解には現在の動きだけではなく、歴史的背景にも十分配慮すべきである。その点、多分私の『戦後史の正体、1945−2012』が理解に貢献すると思う。

◆孫崎 享(まごさき うける)さんのプロフィール 

 1943年旧満州国鞍山生まれ。1966年東京大学法学部中退、外務省入省。英国、ソ連、米国(ハーバード大学国際問題研究所研究員)、イラク、カナダ(公使)勤務を経て、駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。2002年より防衛大学校教授。この間公共政策学科長、人文社会学群長を歴任。2009年3月退官。著書に『日本外交―現場からの証言―』(第2回山本七平賞受賞、中央公論新社)、『日米同盟の正体』、『情報と外交』、『日本の領土問題―尖閣・竹島・北方領土―』『不愉快な現実』、『戦後史の正体』等。

<法学館憲法研究所事務局から>
 9月15日(土)、「平和と憲法―"武力なき平和"のリアリティ」と題して水島朝穂氏(早稲田大教授)が講演し、当研究所の浦部法穂顧問(=神戸大学名誉教授)と対談します。こちら。尖閣諸島やオスプレイの配備などをめぐる緊張関係の中で、日本国憲法第9条を活かす道が語られることになります。多くの方々にご参加いただきたいと思います。



 
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