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ディーセント・デモクラシーの思考始め
〜大阪から民主主義のあり方を考える〜

2012年6月11日


白藤博行さん(専修大学法学部教授)

 労働法学者の西谷敏さんは、著書『人権としてのディーセント・ワーク』の中で、「ディーセント・ワーク」を「働きがいのある人間らしい仕事」と定義して、雇用と労働の中心的な法問題に据えておられます。社会保障法学者の井上英夫さんも、著書『住み続ける権利』などの中で、「人権としての社会保障」の具体化として、とくに東日本大震災のあと、「住み続ける権利」を一層強調しておられます。これは、西谷先生流にいえば、「生きがいのある人間らしい生活」としての「ディーセント・ライフ」の追求といえるものでしょう。いずれも、人間の尊厳のために、日本国憲法が保障する基本的人権や実体的価値を大切にしようという主張です。
 ところが、最近、あちらこちらの自治体で、このような基本的人権や憲法的価値をより良く実現するための手段であるはずの民主主義が暴走しているようにみえます。橋下徹大阪市長を中心とする維新の会の動きが、その典型です。連日報道される橋下維新の会による「公務員バッシング」あるいは「自治体改造」等についての一連の言説と行動には、憲法問題を孕んださまざまな法律問題がありそうです。
 私は、橋下維新の会の民主主義は、とても民主主義いえる代物ではないと考えています。しかしあえて民主主義の範疇で表現するとしたら、自分の支持者だけを「友」とし、いかなる批判者も「敵」とする、ナチスのヒトラーを支えたカール・シュミットの「友敵理論」を想起させる「友敵民主主義」というしかありません。しかも、愚かにも、 橋本維新の会の言動を起爆剤にして、既成政党が、改憲競争を始めております。「惨事便乗型改憲」を梃子に、本格改憲に繋げようという目論見がみえみえです。問題は、もはや大阪だけの問題にとどまらないところまで来ています。ニーメラーの詩『彼らが最初共産主義者を攻撃したとき』の警告が、現実的に聞こえます。「自分とは関係のない大阪の話だ」「自分とは関係のない公務員や教員の話だ」と知らぬふりをしていると、取り返しのつかない事態に陥る危険が、いまそこにあるのです。
 私は、個人的には、一足飛びに立派な民主主義を求めるというより、「ディーセント・デモクラシー」から始めたいと思っております。「ディーセント」は、直訳すれば「ほどほど」「そこそこ」「それなり」といったさまざまな意味がありますが、ここでは、「まっとうな」とか、「きちんとしたよい」という積極的な意味で使用したいと思います。これを民主主義との関係で表現すれば、議会の内部でも、議会と長との間でも、行政の内部でも、そして市民・住民同士の間でも「まっとうな議論」あるいは「きちんとして良い議論」ができる「ディーセント・デモクラシー」(まっとうな民主主義)といえるのではないかと考えています。大阪府・大阪市の民主主義が、この「ディーセント・デモクラシー」にすら及ばず、いわんや討議民主主義には遥かに遠い現状にあることを明らかにできればという含意があります。法学的にはとても熟した概念ではありませんが、気持ちをわかっていただけたらと思います。
 さいごに宣伝になりますが、私が所属する法律学会である民主主義科学者協会法律部会では、2012年度の秋の学術総会のプレシンポジウムとして、別添のような市民公開のシンポジウムを企画しております。学会会員だけでなく、市民のみなさんとともに大阪府・大阪市の民主主義の現在を検証し、憲法が保障する民主主義のあり方について、ゆっくり考えてみたいというのが開催の趣旨です。できれば、ちょっと覗いていただいて、一緒に民主主義を語りませんか。

◆白藤博行(しらふじ ひろゆき)さんのプロフィール

専修大学法学部教授。専修大学法学研究所所長。弁護士。行政法、地方自治法などを研究。自治体問題研究所副理事長。共著書『新地方自治の思想−分権改革の法としくみ−』(敬文堂、2002年)、『現代自治体再編論』(日本評論社、2002年)、『地方自治制度改革論―自治体再編と自治権保障 シリーズ地方自治構造改革を問う』(自治体研究社、2004年)、『アクチュアル地方自治法』(法律文化社、2010年)、『地方議会再生―名古屋・大阪・阿久根から』(自治体研究社、2011年)など。




 
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