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原子力発電と日本国憲法 

2012年5月21日


飯島滋明さん(名古屋学院大学)

第1章:はじめに

 「国策民営」で実施されてきた原子力発電。自民党中心の歴代政府や電力会社は「原発は必要・安価・安全」と、原子力発電の長所を大々的に宣伝してきた。しかし原子力発電はさまざまな憲法上の問題を抱えている。

第2章:福島第一原発事故と「憲法上の権利」

 まず、平時でも原発から排出される放射性物質により、「原発労働者」や周辺住民の生命や健康などが脅かされる。さらに福島第一原発事故の際、普段の原発稼働時以上に大量の放射性物質が放出された。そのため、とりわけ子どもや女性の生命や健康が格段に脅かされている。こうして「平和的生存権」(憲法前文)や、公権力により個人の生命や健康が脅かされないことを求める「生存権の自由権的側面」(憲法25条)が侵害される。福島第一原発事故で先祖代々の土地を離れざるを得ない状況に追い込まれ、自分の居住を自由に決定できるという「居住の自由」(憲法22条)が奪われた。出荷制限や深刻な風評被害で農家や漁師が損害を受け、「職業選択・営業の自由」(憲法22条)や「財産権」(憲法29条)が奪われた。将来を悲観し、「原発さえなければ」と書き置きした自殺者も出た。福島第一原発事故のため、福島を中心に日本各地の土壌、空気、海などが汚染されている。「良好な環境を享受し、これを支配する権利」は「環境権」(憲法13条、25条)といわれるが、「環境権」も侵害された。チェルノブイリ事故でも結婚や出産をためらう人がいるのと同様、福島第一原発事故は、結婚、出産などの私的事項について決定する「自己決定権」(憲法13条)を脅かしている。すでに結婚や出産に不安を感じる女性がいる。福島第一原発事故が原因で離婚や別居に至るなど、家族や親せき、地域のきずなが引き裂かれる事例も多い。

第3章:「平和主義」と原発

 「核の潜在的抑止力を維持するために、原発をやめるべきとは思いません」(石破茂自民党議員)、「反原発はわが国の核武装を封じようとする反核運動でもある。原発は危険だという認識は、第2の(誤った)歴史認識だ」(田母神俊雄元航空幕僚長)と政治家や自衛隊のトップだった人物が主張する。核兵器の保有は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」(憲法9条)に反して許されないが、核兵器の潜在的保有能力を持つために原発が必要というのであれば、「平和主義」に反する。

第4章:「地方自治」と原発

 明治憲法と異なり、日本国憲法では「地方自治」が保障されている。「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」といった憲法の基本原理にとって「地方自治」は不可欠だからである。しかし原発は財政的基盤の弱い冶自体に対し、住民意志に関係なく押しつけられてきた。金の力にものを言わせ、地域住民の意志を無視して原発を押しつける政策は「地方自治」を踏みにじってきた。

第5章:主権者としてどうあるべきか

 国のあり方を決めるのは国民という「国民主権」が憲法の基本原理である以上、最終的には原発のあり方も国民意志に由来すべきである。ところで、いままでの日本では、原発推進派の見解がメディアで大々的に宣伝される一方、脱原発派の見解は露骨に封じられてきた。教育の場でも、文部省の教科書検定を通じた教科書などで偏った原発の知識が植えつけられてきた。脱原発を主張していた佐藤栄佐久福島県知事や反原発の立場の人物が逮捕・起訴されるなど、警察や検察により犯罪をでっち上げられることも多い。こうした状況では「国民主権」は健全に機能しない。ナポレオンやヒトラーといった独裁者が国民投票を多用し、ヨーロッパ全土に戦争と壊滅をもたらした歴史が示すように、適切な教育や正確な知識、倫理観の欠けた国民による政策決定はかえって危険な事態をもたらす。国民主権が正常に実現されるには、正確な情報、脱原発派と原発推進派の見解が十分かつ公平に国民に行きわたり、適切に議論が深められる必要がある。たとえば原発は「エコ」「温暖化対策」といわれるが、原子力発電の過程でもC02は排出される。原発を稼働すれば放射性廃棄物も排出される。原発から排出される「温排水」は原発周辺の海水を異常なまでに温める。原発がないと電気不足になる、原発は安価ともいわれるが、原発がなくても十分に電力を賄うことができ、火力発電より高コストとの見解もある。政府や専門家、メディアの主張を信用できないことも、福島第一原発事故で多くの国民が気づいただろう。
 福島第一原発事故後、スイス、ドイツ、イタリアでは「脱原発」への政策変更がなされた。原発事故が起これば生命、健康、幸福、財産、職業、そして「人のきずな」が失なわれ、さまざまな憲法上の権利が侵害される。なにより日本は「地震大国」であり、外国よりも原発事故の危険性がある。思考停止に陥らず、原発に関して主権者として適切な対応が求められる。


2011年6月、福島県いわき市内の小学校にて飯島が撮影。土壌汚染のため、子どもの生命や健康も脅かされる状況にある

2011年10月、南相馬市の警戒区域付近にて飯島が撮影

政府による子どもへの宣伝活動の一環。2010年1月に飯島が撮影。経済産業大臣賞を受賞したのは13歳の子ども。個人情報保護のため、氏名は黒塗りにしてある

◆飯島滋明(いいじま しげあき)さんのプロフィール

1969年生まれ。名古屋学院大学准教授。専門は憲法学、平和学、医事法。著書・論文などには『国会審議から防衛論を読み解く』((三省堂、2003年)、前田哲男氏と共著)、「冤罪と国家権力・メディア」『法と民主主義462号』(2011年)、「原子力発電と日本国憲法」『法と民主主義466号』(2012年)など。




 
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