法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

消費税問題と私たち99%の提案―財政の所得再分配機能を強化せよ―

2012年2月27日


山田博文さん(群馬大学教授)


 世界は動き始めたようだ。富を独り占めするウォール街に抗議する運動(Occupy Wall Street)や1%の富裕層でなく99%の多数の国民の利益を擁護する運動(We are the 99%)が欧米で急速な広がりを見せている。ヨーロッパ諸国につづいて、あのアメリカでさえ、大胆な国防費の削減によって、深刻化する財政赤字問題に取り組みはじめた。それだけではない、拡大する貧困と格差にも目を向けて、富裕層への増税にも踏み込んだ。他国にできて、日本にできないはずはない。

消費税増税は深刻な不況を誘発する

 ひるがえって、野田政権は、冷戦時代の防衛費の削減もしないし、富裕層への増税もしないまま、消費税の増税を最優先のテーマにし、「不退転の決意」で実行すると重ねて主張している。これは、中小零細企業の倒産と国民の生活苦を増大させ、日本の経済社会を今まで以上の不況と困難に陥れる。

 現代日本の経済社会は、政府の提案するような消費税増税を受け入れられる状況にはない。フルタイムで働いても、生活保護世帯よりも所得の低い働く貧困層(ワーキングプア)は、労働者の4人に1人なり、1000万人を超過した。完全失業者数も、ほぼ300万人に達している。貧困・格差も拡大し、OECD諸国の中でもトップクラス(相対的貧困率16%で、30カ国中第2位)になった。消費税は、低所得階層に厳しい逆進税であり、その上、10億円超の売上のある大手企業は消費税を価格に転嫁できるが、中小零細企業の70%は転嫁できず、税金の分納と延期を繰り返している現状にある。

 このような現状を無視して、消費税増税に踏み出すと、深刻な消費不況を誘発し、税収を激減させ、結果的には、さらに財政赤字を深刻化させる。それは、消費税率を3%から5%に増税した1997年4月以降の「消費税増税不況」を、もっと深刻に再現することになろう。

増税分のほとんどは財政赤字の補填に利用される

 にもかかわらず、消費税増税を掲げる根拠として、繰り返されているフレーズは、「社会保障と税の一体改革」であった。だが、今回の消費税増税分(5%)のうち、「社会保障の充実」に回されるのは、わずか1%の2.7兆円にすぎない。残りの4%は、「社会保障の安定化」のために、つまり、年金の国庫負担分、社会保障の自然増、財政赤字の穴埋めなどに回される。これは、いままで所得税や法人税でやってきた負担を、消費税が肩代わりすることを意味しているので、家計と国民諸階層の負担を一層増大させる。

 1989年4月、はじめて3%の消費税が導入され、97年に5%に引き上げられたが、逆に企業の支払う法人税は、40%から30%に引き下げられてきた。その結果、2009年までの20年間に、消費税は、213兆円の増収となったが、法人税は、182兆円(法人3税)も減額された。法人税の減収分を消費税の増収によって埋め合わせてきた歴史がある。これが、消費不況を長引かせた有力な背景の1つである。

 財政赤字の解決は、不要不急な歳出を削減し、歳入を拡大することにあるが、問題は、どこを削り、どこから取るか、である。そこには、国の政治と経済のあり方が映し出され、かつ将来のグランドデザインが投影される。

新しい財源と予算の抜本的な組み替え

 消費税増税にかわる財源と新しい経済社会を展望する予算の組み替えを提案しよう。
 第1に、防衛費を削減し、憲法第9条を守り、国際社会に対して「平和国家日本」を宣言する。これは、日本の貿易総額の50%以上が東アジア諸国に依存し、対米貿易額はわずか12%、対中貿易額は21%になり、東アジア諸国を抜きに日本経済は、成り立たない時代が来たことへのメッセージでもある。
 第2に、いわゆるリストラで稼いだ大企業の内部留保金260兆円に課税し、法人税を引き下げ前の40%に戻し、各種の特権的な減税措置を廃止する。新に金融取引税を設置し、グローバルな金融投機に歯止めをかけ、経済社会を安定化させる。
 第3に、所得税と相続税の最高税率(現行の50%と50%)も、引き下げ前の税率(75%と75%)に戻し、富裕層に応分の負担を強い、貧困と格差の拡大を抜本的に改善する。
 第4に、現行の消費税についても、衣・食・住といった生存の基本条件に関わる物品については無税とし、憲法第25条を実現する。賃金を上げ、消費不況から脱却する。

こうした提案のめざす経済社会は、原発安全神話だけでなく、経済成長神話も卒業した国民本位の経済社会にほかならない。これはまた、あと10年ほどで中国のGDPがアメリカを抜いて世界1となり、世界経済は、欧米ではなく、ASEANと日中韓の東アジア経済を中心に展開される新時代に対応した提案でもある。日本の未来はここにある。

◆山田博文(やまだ ひろふみ)さんのプロフィール

1949年新潟県生まれ、中央大学大学院商学研究科博士課程、(財)日本証券経済研究所研究員、八戸大学商学部助教授を経て、1996年から群馬大学教育学部教授。
著書に、『国債管理の構造分析』、『金融大国日本の構造』、『金融自由化の経済学』、『これならわかる金融経済』など。
ホームページで、「21Cの経済社会を読み解くSite」を運営し、激動する現代経済を解明している。

<法学館憲法研究所事務局から>
 法学館憲法研究所は3月23日(金)に公開研究会「消費税と憲法 −応能負担原則を問い返す」を開催します。ご案内します。
  関連情報「応能負担原則の理解の広がりが情勢を動かす!」
  関連情報「浦部法穂の憲法時評」〔税を考える〕
  関連情報「浦部法穂の憲法時評」〔消費税〕
  関連情報「憲法理念による税制改革を」浦野広明




 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]