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中国と日本の刑事手続き・司法を検証する(その2)

2012年2月6日


陳有西さん(中国弁護士)、欺偉江さん(中国弁護士)、阿古智子さん(早稲田大准教授)、伊藤真さん(弁護士)、土井香苗さん(ヒューマンライツ・ウオッチ日本)


 *2011年12月20日に開催された座談会の内容を紹介します。
前回からの続き)

<被疑者・被告人の権利の擁護、そして弁護士活動の保障>

(伊藤真弁護士)
 ところで、10年くらい前に上海の地方裁判所を訪問したのですが、法律家でない裁判官がたくさんいるという話を聞きました。最近の状況はどうなのでしょうか。
(陳有西弁護士)
 この約20年間で中国の法学教育は大きく発展しました。まだ地方の裁判所の下級審には資格を持っていない人がいますが、全国の裁判所が努力を続けており、裁判官の資格は基本的に国家試験に合格した、一定期間の経験を有する人に与えられることになっています。
(伊藤真弁護士)
 いま中国では弁護士の数は足りているのですか。
(陳有西弁護士)
 中国の弁護士はいま20万4000人ぐらいです。中国の人口は約14億人ですから、国民約7500人に1人が弁護士です。アメリカは270人に1人が弁護士です。中国で国民1000人に1人の弁護士が必要だとすると、弁護士は約140万人必要になります。裁判官は約24万人おり、実は弁護士よりも数が多いです。私は140万人の弁護士から24万人の裁判官を選ぶようになればよいと思います。いま毎年2万人が弁護士になっていますが、より速く、より多くの弁護士を育てることが必要です。
(伊藤真弁護士)
 法律家になる試験には何人くらい受験するのですか。
(陳有西弁護士)
 毎年、17万人から25万人ぐらいが受験しています。合格者は2〜3万人です。私は弁護士がもっと増えればよいと思っているのですが、実は弁護士になっても法律事務所への就職が難しい状況があります。中国では以前よりも権利を主張する人々が大幅に増えているのですが、実は多くの人々はいろいろな紛争を法律で解決しようとはしない、という状況があるのです。
 刑事事件においても、被疑者の30%にしか弁護士がついていない現状があります。先ほど述べたように、証拠を偽造したとして10年間に100人以上の弁護士が拘束されるというような状況を変えていかなければ、なかなか弁護士が定着していきません。
(欺偉江弁護士)
 中国では弁護士や裁判官よりも公安の力が強いという現状があるのですが、日本でも被告人のほとんどが有罪になると聞きました。そのような中で弁護士の役割はどのように考えられているのですか。
(伊藤真弁護士)
 日本でも起訴された被告人の99.9%が有罪となっています。しかし、日本でもいまなお冤罪や誤判があり、弁護士にはそれを防ぐ役割が求められます。また、実際に被告人が有罪である場合でも弁護士は裁判所に対して不適切な刑罰を課さないよう求めなければなりません。また、裁判において被告人の権利が侵害されることなく、裁判所が適正な手続きをすすめるよう監視する役割も求められます。

―――中国と日本の刑事手続きの現状と課題を概観しましたが、最後に、世界の人権状況を監視するヒューマンライツ・ウオッチ日本代表の土井さんに、お話しを聞いての感想などをお聞きしたいと思います。
(土井香苗弁護士−ヒューマンライツ・ウオッチ日本代表)
 中国の人権弁護士さんたちは、すごく勇気があると思います。残念ながらまだ「法の支配」ではない中国では、人権弁護士が、資格剥奪や投獄、逮捕、軟禁、暴行などの嫌がらせなどに直面しているからです。中国で弁護士資格を継続するには、当局による毎年一回の更新許可を得なくてはなりません。いわゆる「弁護士自治」がないのです。
 ノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏をはじめとする政治犯の弁護などを当局が「敏感」と見なして弁護士に圧力を加えるのはもちろん、政府による出版差止被害にあった作家の代理、薬害の被害者の代理や地震で倒壊した学校校舎で死亡した子どもの遺族の代理、一人っ子政策の下の強制的な不妊措置の被害者の代理、土地の強制収用の被害者の代理など、日本でしばしば行なわれている類の集団訴訟事件の弁護を行なうことが、中国政府からは、「敏感」とみなされ、時に、投獄を含めた重大な犠牲を払うことを余儀なくされるのです。
 とくに、2011年は、オンラインで「中国版ジャスミン革命」の呼びかけがあったこともあって「予防拘禁」的な拘禁が頻繁に行なわれ、特に多くの弁護士が突然に当局に拘束され、その後裁判もないまま拘束され続けるという国際法上の「強制失踪」に該当する事件が複数起こりました。
 日本の戦前にも、治安維持法の下で、弁護士資格を剥奪されたり逮捕・投獄されたりしながらも、「法の支配」のために一貫した自分の立場を貫いた弁護士さんたちがいました。中国の人権弁護士さんたちは、そうした困難に、今「現在」立ち向かっています。
 先人たちの苦労と達成の上に、現在の私たちの安全で安定した法曹界があります。日本の法曹も、プロフェッションを同じくする者同士、中国の状況を勉強したうえで一緒に手を取り合うべきではないかと思います。中国が「法」の支配する国になることは、中国国民の福祉にかなうことはもちろん、日本社会にとってもよい影響があるはずだと思うのです。

―――本日は貴重な交流ができたと思っています。ありがとうございました。

◆座談会出席者略歴

陳有西さん:
 弁護士。京衝弁護士集団社長、中華全国弁護士協会憲法人権委員会副主任、知識財産権委員会委員などを歴任。中国人民大学、上海交通大学などで兼任教授を担当。
欺偉江さん:
 弁護士。上海大邦弁護士事務所パートナー。華東政法大学や同済大学で兼任講師を務める。
阿古智子さん:
 早稲田大学国際教養学部准教授。現代中国の政治・社会変動を研究。
伊藤真さん:
 弁護士。伊藤塾塾長。法学館憲法研究所所長。
土井香苗さん:
 弁護士。ヒューマンライツ・ウオッチ日本代表。





 
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