法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

広津和郎さんと松川事件――『静かな落日』公演に寄せて

2012年1月16日


樫山文枝さん(女優・劇団民藝)


2011年は松川裁判全員無罪判決50周年でした。1961年8月8日、仙台高裁でおこなわれた差戻し審。私は、このニュースを報じるテレビを家族と見ました。
1949年8月17日未明に発生した松川事件。列車転覆の被告として若者ら20名が起訴され、第一審は死刑判決5名を含む全員有罪。第二審は死刑判決4名、無期懲役2名、有期懲役11名、無罪3名。しかし、59年、最高裁大法廷で原判決破棄、仙台高裁へ差戻されていました。
当時、私は俳優座養成所の2年生でした。白黒のテレビで、ちょっと猫背の広津和郎さんがインタビューに答えている姿に父が感動して、兄に「すごい人だね。こういう人がいるのだね」と言ったのを鮮明に覚えています。作家の広津さんは、第二審判決批判を『中央公論』に4年半にわたって連載していました。

戦後最大の冤罪事件と呼ばれる松川事件から63年。当時20代だった被告が、いまは80代ということになります。元被告20名のうち14名がお亡くなりになっているとうかがっています。松川のことがだんだんと忘れられていき、広津和郎さんのことも知る人が少なくなってきました。
広津さんは文芸評論家として執筆活動を始められたのですが、戦前は私小説家としてよく知られていたそうです。小津安二郎監督『晩春』(1949年9月公開)は、広津さんの『父と娘』(1939年)が原作です。
事件が起こった当時、広津さんも世のなかの人たちと同じように裁判に疑念を抱くことはなかったようです。ところが獄中からの無実の訴えである被告の文集『真実は壁を透して』を読んで、この文章に嘘はないと直感し、専門外の裁判批判に挑んでいったのです。

いまでこそ冤罪事件が報道で多く見受けられるようになりましたが、60歳を越えた広津さんが公正な裁判を求めた当初は「素人が口出しをするな」「文士裁判」「老作家の失業対策」などとはげしい非難中傷を浴びました。しかし、裁判批判は少しずつ世論を動かしていきました。広津さんの『松川裁判』は中公文庫版で3冊におよび、それはまるでシャーロック・ホームズのように、密室の取調べと自白偏重による判決の非論理性と非人間性を見事に明らかにしています。広津さんは生涯「正しさに対する誠実」を求めた人でした。

なぜ私小説家の広津さんが松川裁判にとりくんだのか――劇作家の吉永仁郎さんは、そのひとつの答えとして『静かな落日〜広津家三代〜』という戯曲をお書きになりました。これは父と娘とのおかしくせつない家族の絆を描いた作品です。広津さんは娘の父親としてはあまり褒められた人ではなかったようです。家を出て行った父への不信、戦争協力をしない父への憤り、自由にものが言える時代になっても仕事をしようとしない父への落胆。しかし、娘の桃子さんは、松川裁判をペン一本で粘り強くたたかう父のうしろ姿にだんだんと理解と愛情を深めていくのです。この『静かな落日』を2012年2月3日から14日まで、新宿南口の紀伊國屋サザンシアターで上演します。

私は広津桃子を演じます。あのときテレビに映っていなかったけれど、病身の広津さんに寄り添い傍聴席に座っていた桃子さんを演じられることに不思議な縁を感じています。

劇団民藝公演『静かな落日〜広津家三代〜』
作=吉永仁郎
演出=高橋清祐
出演=樫山文枝・伊藤孝雄 ほか
日時=2012年2月3日(金)→14日(火)
会場=紀伊國屋サザンシアター(新宿南口)
料金(全席指定・税込)=一般6,300円/ナイトチケット(夜公演・後部席)4,000円

≪お申込み・お問合せ≫
劇団民藝
電話044−987−7711
URL=http://www.gekidanmingei.co.jp/
E-mail=seisaku@gekidanmingei.co.jp

※5日終演後=出演者との交流会があります。
※11日終演後=元被告本田昇氏に広津和郎の思い出を語っていただきます。
※アクセス=http://www.kinokuniya.co.jp/store/theatre.html

◆樫山文枝(かしやま ふみえ)さんのプロフィール

1963年、劇団民藝俳優教室に入所。『アンネの日記』のアンネ・フランク役に抜擢される。66〜67年、NHK朝のテレビ小説「おはなはん」で一躍お茶の間の人気者に(2010年『朝日新聞』「心に残る朝ドラヒロイン」アンケート1位)。
その後はおもに舞台で活躍。2011年は『林の中のナポリ』『帰れ、いとしのシーバ』『十二月』『静かな落日』『海霧』で休む間もなく全国各地を飛びまわった。




 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]