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今週の一言

 

歴史にけじめを

2012年1月9日


吉原泰助さん(福島県九条の会代表)


 師走16日、野田首相は、東京電力福島第一原子力発電所が「冷温停止"状態"」に達したとして、「事故の収束」を国内外に宣言した。専門家からは、「炉内の状況が全く判らないのに、<収束>を宣言するとは」との疑問の声も聴こえてくる。まして、ふるさとを追われて県内外に散り、劣悪な環境のなかで帰還の当てもなく歯を食いしばり耐えに耐えている被災避難民や、自宅にとどまって放射線に喘いでいる地元住民の間では、無責任な首相の「収束」宣言に、怒りの声すら挙がっている。除染に何年もの月日がかかり、廃炉には気の遠くなるような年月を要すると聞けば、なおさらである。
 首相の宣言には、政府の対処の拙さや遅さへの批判をかわそうとする思惑や、さらには、原発事故の深刻さを軽く見せようとする「安全神話」の後遺症が、そして、なによりも、一日も早く幕引きをはかり、原発の再稼働や輸出に漕ぎ着けたいという利権絡みの「原発推進共同体」の焦りが見え隠れする。少なくとも、そう勘繰られても仕方がない。
 これに引き換え、それまで「脱原発」の見直しを掲げていたドイツのメルケル首相は、FUKUSHIMA原発事故から、三月も経たぬうちに方針転換を打ち出し、閣議で、遅くとも2022年までに国内にある17基の原発すべてを廃棄すると決定した。もちろん、ドイツでも関連業界等の抵抗がなかったわけではない。それを押し切ってである。
 この両者の姿勢の違いを生み出すのは、すべてをそれに帰すことは出来ぬにしても、大きな背景の一つは、一国のリーダーの歴史に対する責任のとり方の差にあるような気がしてならない。かたや、戦後いまだにナチス犯罪追及の手を緩めず、ナチス時代の過去を反省する国、かたや、A級戦犯が首相になったり靖国に合祀されたり、負の歴史への反省を自虐史観とさげすむ国、この際立った対照。どちらの国のリーダーが真摯に歴史を直視し、どちらの国の指導者が未来に責任を負うか、火を見るよりも明らかである。
 今回の過酷「巨大人災」に関しても、その原因は、「想定外」の巨大地震や巨大津波に転嫁されている。一歩踏み込んでも、原発マネーに惑わされ原発を誘致した地元の不明とか、原発に依存して豊かな生活を謳歌した国民の責任とかは語られるものの、原発を推進した元凶の責任は、今のところ不問に付されている。
 とりわけ、憲法を護ろうとする運動に携わる私たちにとって、ワシントン発の「原子力の平和利用」(Atoms for Peace)に呼応し原発推進の旗振りをした自民党の大物政治家と、新憲法制定議員同盟の会長となっている大勲位の元首相とが同一人物であるという事実は、見過ごせない。私の知るかぎり、この九条改正の急先鋒である人物は、自分が先導した政策の結果、広さ日本第三位で首都圏にも匹敵する県域の福島県が、居住不能、居住困難、あるいは居住不安な状況に陥っている事態を前にしても、自分の責任に関しては黙りを決め込んでいる。
 戦争への歩みも原発事故への道も、ともに似た軌道である。日本を「戦争のできる国」にしようと旗振りをして、もたらされた戦争の惨禍を「想定外」と言ってすませられたり、一億総懺悔でけりをつけられたりしたのでは堪らない。
 私たちは、子供たちや孫たちを原発災害から護ることができなかった。この上、九条を変えられ、子供たちや孫たちを戦禍の犠牲にすることは、絶対阻止しなければならない。そのためにも、この際、歴史にけじめをつけることの大切さを再認識すべきであろう。

◆吉原泰助(よしはら たいすけ)さんのプロフィール

福島大学名誉教授・元学長。九条の会全国講師団メンバー。
1933年、茨城県古河市生まれ。東京大学法学部および経済学部卒、同大学院社会科学研究科(博)単位取得。専攻=経済理論・経済学史。
関連著述「『安全神話』の果てに」『法と民主主義』2011年6月号[福島県九条の会編『福島は訴える』(かもがわ出版)に再録]、他。




 
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