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「暮らし」を改善し安心して生活できる社会を―消費税は増税すべきでない(その1)

2011年12月12日


山家悠紀夫さん(「暮らしと経済研究室」)


――先生は最近、『暮らし視点の経済学―経済、財政、生活の再建のために』を上梓されました。経済の問題は、経済成長や国際競争など国の視点で論じられていることが多いと思います。「暮らし視点」ということは、個人の尊重こそ究極的な目的であるという憲法の理念を踏まえた考え方だと存じます。
(山家)経済の最終目的は暮らしを良くすることです。しかし、経済学はそのための中間段階である経済成長とか経済の活性化ということの方に目が行って、それが目標になってしまっています。「暮らし」と「経済成長」は別問題であり、経済は成長したけれど暮らしはひどいことになったという例はこれまでたくさんあります。経済学は、憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を実現するためにあります。従って、暮らしを良くするということを正面に掲げることが必要です。

――「健康で文化的な」人間らしい「暮らし」を実現するためには何が必要でしょうか。
(山家)第1は賃金の問題です。今の日本経済の根本の問題は、働く人の賃金が最近14,5年の間下がっていることです。賃金が下がっているので暮らしが厳しくなり、購買力が落ちて物が売れなくなり値下げをする、それでも売れないのでまた賃金を下げる、という悪循環になっています。賃金が下がったことから問題は始まっています。
 なぜ賃金が下がったかというと、「構造改革」により派遣労働をどんどん認めるなど雇用規制を緩和したり、企業経営は株主のためにあるということで労働者に厳しいことをしてもそれは間違ったことではないという考え方が普及したことなどが原因となっています。
 賃金を上げるためには、組合も頑張らなくてはいけませんが、経営者にとっても賃金が上がると物が売れて消費が伸び、回り回って企業の利益にもなるということをきちんと認識してもらわなくてはなりません。経営者はそれが分かっていないので自分の企業のことしか考えず、賃金を下げて利益を上げています。経営者が皆そう考えていると、日本経済にとって非常にまずいことになります。
 政府がやるべきなのは、企業が賃金を上げざるを得ないような環境を作り出すことです。すなわち、1つは雇用規制の強化です。1年間続いている仕事を細切れにして派遣、パート、あるいはアルバイトを使って雇止めをしてはいけません。2,30年前までは当たり前だったように、正社員として雇う制度に戻すことが必要です。2つ目は、最低賃金の引き上げです。今の全国平均730円程度を、組合が言っているように1000円以上にすべきです。政府がルールを作ることによって全体の賃金を上げることが可能になります。
 第2は、何らかの事情で働けない人のための社会保障制度を充実させて憲法で保障している生活ができるようにすることです。「構造改革」で社会保障制度もずたずたに改悪されました。こうした方向を変え、「北欧並み」は望まないまでもせめて「西欧並み」の水準を目標に描きたいです。日本の社会保障関係支出の合計の国民所得に対する比率はおよそ30%です。これをあと10%ほど、金額にして35兆円増やせばドイツやフランス並みの比率になります。
 その他にもたくさんありますが、この2つが基本です。

――しかし、そのための財源がない、あるいは不足していると政府や財界、多くのマスコミは言っています。財源の問題はどう考えたらよいのでしょうか。
(山家)確かに、先進国の中では政府部門の借金残高のGDPに対する比率は最大の数字です。ただ、この数字は割り引いて見る必要があります。日本政府が保有している金融資産残高のGDPに対する比率は世界で飛び抜けて高いです。さらに、土地や固定資産もたくさん持っています。政府は、借金にほぼ見合う資産を持っていますので、借金のストックについては、当面、問題にしなくていいということです。
 問題はフローであり、年々の財政資金の不足をどこまで抑えるかです。当面の目標としては、基礎的収支の均衡を目指して30兆円の収支改善を図るのが妥当だと思います。

――そうしますと、社会保障制度を拡充させ、また財政収支を均衡させるためには35兆円と30兆円の合計65兆円が必要になります。財源はどうしたら良いのでしょうか。社会保障制度を充実させる財源としてとりわけ消費税の増税が主張されています。
(山家)財源の問題は真剣に考えなければなりません。
 恒久的財源としては、軍事費など無駄な政府支出を削減しなければなりません。原発関連の予算や公共投資にも無駄があると思います。また、賃金を上げ消費支出を増やし内需拡大により景気を回復させて税収の自然増が生じる環境を作り出すべきです。これらで15兆円程度の財源が期待できます。
 しかし、現在の税制の下では限りがあり、大半は増税によらざるを得ないと思います。増税後の国民負担率は50%台に乗りそうですが、ドイツ並み、フランス以下の普通の水準の国になるという話ですから耐えられない水準ではありません。
 アンケート調査を見ましても、社会保障を良くするためには増税が必要だというコンセンサスは大体得られていると思います。
 ただ、マスコミも経済学者も、増税が必要となるとすぐ消費税増税の話になっています。ここには説明抜きの飛躍があると思います。消費税はきわめて問題が多い税です。
 第1に、所得のない人にも税をかけ、所得の低い人ほど税負担率が重いという逆進性の問題があります。
 第2に、中小・零細企業にとっての負担が重く、その経営を圧迫する税です。消費税は、企業の売上額と仕入額の差である付加価値に掛ける税です。日本の中小・零細企業の7割前後は赤字企業で法人税はかかっていませんが、消費税はかかります。また、それらの企業は買い手である消費者に税額を転嫁することは事実上困難です。消費税は最も滞納の多い税です。
 第3に、消費を抑制し、景気を悪くする税です。
 消費税は、多くの貧しい人の生活を成り立たせなくなる残酷な税です。それ以外の財源をまず考えるべきです。

(次週に続く)

◆山家悠紀夫(やんべ ゆきお)さんのプロフィール

 1940年生まれ。神戸大学経済学部卒業後、第一銀行入行。第一勧業銀行調査部長、第一勧銀総合研究所専務理事、神戸大学大学院経済学研究科教授を経て、2004年「暮らしと経済研究室」開設。
 著書に『暮らしに思いを馳せる経済学―景気と暮らしの両立を考える』(新日本出版社)、『偽りの危機 本物の危機』『日本経済 気掛かりな未来』(東洋経済新報社)、『「構造改革」という幻想―経済危機からどう脱出するか』『景気とは何だろうか』(岩波書店)、『「痛み」はもうたくさんだ! 脱「構造改革」宣言』(かもがわ出版)、『日本経済 見捨てられる私たち』(青灯社)、『暮らし視点の経済学―経済、財政、生活の再建のために』(新日本出版社)など




 
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