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イスラム教をテロのインフラと決めつける公安警察

2011年11月21日


山本志都さん(弁護士・ムスリム違法捜査弁護団)


 警視庁公安部外事三課など(以下「公安警察」という)が作成した捜査資料114点(字数にして約70万字)がウィニーを通じてインターネット上に流出、全世界に拡散したというニュースが報じられたのは、昨年(2010年)10月30日のことだった。
流出したことにも驚愕したが、情報の内容には「ここまでやるか」と心底驚かされた。闇の中にあった公安警察の活動の一端が、文書によって赤裸々に暴かれたといえる。公安警察は、イスラム教徒(ムスリム)を狙い撃ちして、組織的に違法捜査を展開していた。モスクやイスラム・コミュニティーを徹底的に監視し、レンタカー会社・ホテル・金融機関・大学等から個人や団体情報を収集し、さらには情報収集目的での「事件化」まで。

 2007年に作成された「実態把握強化推進上の要点」という文書によれば、実態把握の対象とされている「ムスリム」は、「言動、服装等からムスリムと認められる者」と定義され、外見上、ムスリムと思われる者はすべて対象。「安価なアパート」「外国人を雇用している企業、会社」「イスラム諸国出身者が経営する店舗」「学生寮」などを巡回して、決まった書式で報告が上げられる。
こうした活動については「ポイント制による特別表彰」まで用意された。2008年5月現在で「都内のイスラム諸国外国登録数の約89%」にものぼる「約1万2677人」の個人情報がデータ化され、その後、OIC(イスラム諸国会議機構・世界57カ国)諸国出身者のうちの「7万2000人(把握率98%)を把握」するに至ったとされる。

このような組織的「実態把握」が行われたのは、イスラムコミュニティー=「テロのインフラ」という、ありえない根本的に誤った性格づけがなされているからである。
公安警察は、洞爺湖サミットに伴う国際テロ対策として称して、捜査員43名の「モスク班」を構成し、東京都内にある全てのモスクについて、早朝から夜まで、場所と出入りした人の両面から監視し続けた。また、流出文書の中には、モスクに来る人の「面割率」(公安警察官が外見を見て個人を特定できる割合)を記載しているものすらあった。ムスリムにとっての精神的な支柱たるモスクの礼拝に対して、徹底的・継続的な監視を行っていることは本当に許し難い。
また、公安警察は、モスク以外の、外国人支援団体、イスラム関係食料品店、エスニック料理店、ムスリムが関係している中古車会社・貿易会社など、考えられる限りの団体(もはやムスリムとすらほとんど関係がないと思われるような団体を含む)などの情報を収集していた。

 公安警察は、「都内に本社を置くレンタカー業者大手4社」から照会文書なしで「利用者情報の提供」を受ける関係を築いていると報告。他にも、ある大手銀行から取得した某国大使館の職員給与振込履歴や、ある大学から入手した留学生名簿なども、流出情報の中に含まれていた。
さらに、文書の中では、実態把握のために「積極的に事件化」すると明記している。つまり、場合によっては、事件をでっちあげて捜査と称して情報収集をするということを推奨していた。実際にも、軽微な形式的容疑で逮捕状を取得して逮捕・勾留する、情報収集目的で、別人の逮捕に連動して捜索・差押えによりパソコン等を押収するなどの違法捜査が行われている。たとえば、別人の「入管法違法幇助」の被疑事実で逮捕し、携帯電話・パソコンのデータを収集するという手法だ。
流出情報の中には、個人のもっともセンシティブな情報を履歴書形式でまとめたものが数多く存在した。ムスリムの名前、写真、家族・交友関係、入国・在留関係、住所歴・学歴・職歴などの個人情報に、「モスクへの出入り状況」「行動パターン概要」「取組概要」などが、データ化されていた。「立ち寄り徘徊先」にはものものしく喫茶店が記載されているなど、記載内容はいささかもその個人の危険性を窺わせるものではないのだが。

 公安警察により、イスラム教がテロのインフラと決めつけられ、その信者はテロリストもしくはその予備軍として網羅的に個人情報を収集され、モスクも継続的に監視され、ときには違法な別件逮捕まで行われるとすれば、ムスリムとして信仰に帰依することは多大な不利益を伴うことになる。これは、信教の自由に対する不当な圧迫・干渉に他ならない。
また、この捜査が、ムスリムやその家族のプライバシーや名誉を害するものであることは明らかである。ムスリムらは、イスラム教徒であるということだけでテロリスト扱いされ、そのような捜査の行われた日本に住み続けることに、(かつて日本社会に対する信頼感を持っていたからこそ)日々精神的苦痛を感じている。日本人である家族との間の関係にひびが入りそうになったケースもある。周囲の好奇や警戒の視線を感じながら異国で生活するということがどれだけ辛いことか。失職や経営している店からの客離れなど経済的な損害も多大だ。情報が海外情報機関に渡っていることから海外渡航にも不安がある。

捜査の対象とされたムスリムたちは、本年5月16日、東京地方裁判所に対し、警視庁、警察庁及び国家公安委員会が、人権を侵害する態様で被害者らの個人情報を収集し、収集した個人情報を正当な理由無く保管し、かかる個人情報を漏洩させ、さらに、漏洩後に適切な損害拡大防止措置を執らなかったことを理由として、国及び東京都に対して、被害者らに生じた損害を賠償するよう求める国家賠償請求訴訟を提起した。11月6日の第2回口頭弁論期日に至っても、被告らは、これらの情報を公安警察が作成したものであるかについて、認否を「留保」した。昨年12月に警視庁参事官が、流出情報が警察由来のものであることを事実上認め、謝罪したという報道があったにもかかわらず(被害者らに対する直接の謝罪は全くなされていないが)。
一方で、政府は、外交や治安などに関する国家機密の保全のために、「秘密保全法案」を通常国会に提出する方針であるといわれる。恣意的に「秘密」の範囲が拡大されるなど、国民の知る権利、情報公開や報道の自由を制限する、きわめて大きな問題のある法案だが、このような法律が必要であるとする事情(立法事実)の中で、本件流出事件が掲げられている。つまり、本件の被害者に対しては全くの頬被りをしたまま、「焼け太り」がもくろまれている。
このような対応は、被害者らをさらに苦しめ、被害を拡大するものだ。厳しく追及していく。
本件は、公安警察活動による信教の自由・プライバシーの侵害、監視社会における個人情報の収集・利用など、きわめて現代的でかつさまざまな観点からの問題を含んでいる。国家による個人の尊厳への挑戦を許してはならない。

 弁護団は、こちらで情報提供しています。また、流出資料を解説し、公安警察の実態、ムスリムへの敵視政策などに関する多角的な論考と、被害者の証言などを内容とした「国家と情報〜警視庁公安部『イスラム捜査』流出資料を読む」が本年10月に現代書館から刊行されています(2200円+税)。

◆山本志都(やまもと しづ)さんのプロフィール

1966年生。2002年に弁護士登録した。東京弁護士会。下町亀戸で事務所開設。




 
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