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今週の一言

 

民主主義の根幹が問われる公務員の政治的行為の規制事件

2011年10月10日


加藤健次さん(弁護士・国公法弾圧事件弁護団事務局長)


 表現の自由(憲法21条1項)は自分が言いたいことを言うという極めて重要な権利です。個人の尊重(13条)に直結します。かつ、民主主義を支えるための基幹的な権利です。
 今、この表現の自由の規制の合憲性が鋭く問われている事件が最高裁に2件係属しています。いずれも、公務員の政治的行為を一律・全面的に禁止する国家公務員法102条1項・人事院規則14-7に違反して刑事責任を問われている事件です。1つは、2004年3月、休日に自宅周辺の住宅の郵便受けに政党機関紙号外等を投函したとして、社会保険事務所に勤務する厚生労働省事務官が逮捕・起訴されたものです(堀越事件)。もう1つは、2005年9月の厚生労働省職員による同様の事件です(世田谷国公事件)。
 日本が果して憲法が予定しているように基本的人権を保障し民主主義を大切にする国であるのかの根幹が問われている重大な裁判です。


公共訴訟研究会(2011/9/10)で加藤弁護士が報告

 欧米諸国では、日本と異なり、公務員も一人の市民として、政治活動をする権利が保障されています。日本の国公法のように「人事院規則で定める政治的行為」という包括的な概念で広範に禁止している例はありません。違反行為に刑罰をもって臨むなどというのは論外です。
 日本がこの面でも「先進国」の仲間入りをするかが問われた判決が1974年にもありました。北海道の猿払村の郵便局員(当時は国家公務員)に関する有名な猿仏事件最高裁判決です。
 およそ表現の自由を規制する法律の合憲性が裁判所で争われる場合は、冒頭に記載した権利の性格に鑑み、裁判所は規制の必要性を根拠づける社会的・経済的等の諸事実(立法事実)、即ち法律が掲げる目的が正当か、規制手段が必要最小限度かを厳格に審査しなければならないのは当然のことであり、学界でも通説とされています。
 しかし、猿仏事件最高裁判決は厳格な審査基準を採用することを否定しました。猿払最高裁判決は、「行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼確保」という曖昧な規制目的を設定した上、これをさらに「公務員の政治的中立性の確保」に置き換え、規制目的を重視して政治的行為の一律・全面禁止を合憲としました。猿払最高裁判決は、「合理的関連性の基準」を採用したと言われますが、極めて形式的・名目的なもので、合憲性審査の名に値しないものと言わざるを得ません。
 勤務時間外に国の施設を利用することなく職務と全く関係がなくした行為まで禁止されることになると、公務員は普通の市民としての意見表明もできないことになります。判決が「行政」だけでなく「公務員」自身の中立性までも要求していることと関連性があると思われます。

 猿仏事件判例はその後精神的自由権に対する規制を合憲とした数々の裁判に極めて安易に引用され、精神的自由を守る上で、大きな重石となってきました。
 しかし、堀越事件の控訴審は昨年3月、国公法を本件に適用するのは違憲だとして無罪の判決をして注目されています。この間の「国民の法意識も変容し」たことなどを重視しています。
このことは、多くの国民が人権や民主主義、そして裁判に関心を持つことの重要性を示していると思います。
 占領下にできた国公法体制は歴史的にも国際的にも遺物化し時代錯誤的なものになっています。堀越、世田谷の事件では、猿仏判決を変更して厳格な審査を行い違憲無罪とする判決をすることを求めたいと思います。
 そのために二つの事件を大法廷に回付することを求めています。現在は両事件とも第2小法廷に係属しており、ここには立川事件、葛飾事件、戸別訪問禁止に関る大石事件という21条1項違反を争う事件も集中しておりいずれも合憲とされました。
 公務員の人権制限に舵を切った全農林判決や猿払判決以来40年近く経っています。この間国際的な権利水準との乖離はますます強まっています。また、公務自体が政府自身の手で民営化されたりして劇的な変化を遂げています。
 国公法は、本来行政組織を民主的かつ能率的に運営するための法律です。しかし、実際の国公法違反事件は、公安警察が、行政組織とは無関係に、勝手に逮捕し立件した後、行政庁の上司が知るというのが実態です。行政目的に沿うどころか、かえって混乱を広げ、法の目的を阻害しています。
 公務員の権利という場合、公務員も一市民だという言い方がされてきました。もちろんこのことの確認は重要です。しかし、それだけでは、不十分だと考えています。
 今年の大震災や原発事故は、公務員といえども自分の意見を持ち、間違ったことや危ないことについては言うべきことは言う、という公務員にならないと、日本はそれこそ沈没してしまうことを強烈に教えてくれました。自立した意見を持つためには、公務員は職務以外の私的生活の領域では周囲の人たち、世界の人たちとの様々なコミュニケーションを活発に行い、見識を広げることが不可欠です。
 その意味でも、公務員の言論・表現の自由の保障は、改めて喫緊の課題となっています。


◆加藤健次(かとう けんじ)さんのプロフィール

1988年4月 弁護士登録(第二東京弁護士会)
新宿区内の東京法律事務所所属
2004年3月から堀越事件弁護団事務局長として事件に取り組む
2007年10月〜2009年10月 自由法曹団事務局長




 
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