法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

「ビキニ事件と福島の原発事故」

2011年10月3日


大石又七さん(ビキニ水爆実験被爆者・元第五福竜丸元乗組員)


――大石さんは、57年前の3月1日、太平洋・マーシャル海域のビキニ環礁において漁船「第五福竜丸」で操業中、アメリカの巨大な水爆実験で、多数の方々とともに被爆されました。詳しいことは、「原子核兵器の全面廃棄を!」でお話しいただきました。今年の3月に福島の原発が事故を起こし大変なことになっています。
(大石)23人の乗組員中、既に半数の14人が被爆が原因でガンなどにより亡くなりました。私もガンを発病し、現在36種類もの薬を飲んでいます。この時の教訓が共有されることなく隠され、全く生かされなかったことが今回の大事故に大きな影響を与えています。残念であり、悔しいですね。

――ビキニ水爆実験のことはどの程度知られているのでしょうか。
(大石)私は今、いろいろな所から呼ばれて講演していますが、内容については知っている人が驚くほど少ないです。1000隻の漁船が被爆し日本列島に放射能の雨が降るなど空も海も汚染されたのに、日本政府はアメリカ政府の顔色を見ながら、被爆者や被害者の頭越しに補償請求もしないで政治決着を図り、世界最大級とも言える地球環境汚染を引き起こしたこの核実験に蓋をしてしまったからです。「決着」したからという理由で、私たち乗組員22名(久保山愛吉さんは入院中死亡)は、病気を抱えたまま全員退院させられました。そして現在に至るまで被爆者健康手帳も治療費も受けていません。操業中の被爆なのに船員保険さえ支給されていません。他の1千隻に及ぶ漁船員たちも被爆しているのに放置されたままです。
 当初、核実験で作り出された放射能の恐ろしさが原爆マグロや放射能雨で知れ渡り日本人の3人に1人(世界では6億7千万人)が核実験反対の署名をするなど運動は大きく盛り上がりましたがアメリカの圧力によって、ビキニ事件は急速に消えていきました。憲法9条を持つ日本なのに、核兵器によって世界を支配しようというアメリカに政府が加担したのです。
 そのため、私たちの受けた内部被爆の恐ろしさが伝わりませんでした。

――日本が原子力発電所を導入するのもその頃ですね。
(大石)アメリカは、ビキニ事件で日米関係に亀裂が入ることと水爆開発でソ連(ロシア)に先を越されることを極度に恐れていました。アメリカの圧力に屈した日本政府は、この機を利用して窮地に陥っているアメリカに、ビキニ事件で被っている膨大な被害額も見舞金だけでいい、アメリカの核実験には協力する、国際法にも違反しないと国会で言い、水面下で大きな取引をしていました。それが原子力技術と原子炉の導入です。反対運動で燃え盛っている最中、その矛先を変えるにはこれしかない、といって打ち出したのが核の平和利用という言葉でした。「この強力な反対運動をつぶすには核の平和利用を大々的にうたいあげ覆い尽くすしかない」と影の仕掛け人、読売新聞社社主の正力松太郎氏や、当時日本テレビの重役だった柴田秀利氏を使って水面下で原発導入を図ったのです。原発のエネルギーは敗戦国の日本の復興にもつながると大々的に正力氏は読売新聞や日本テレビをフルに使って宣伝を始めました。
 そして表舞台の政界では、すでにビキニ事件が起こった3日後に中曽根康弘代議士らが先頭に立って危険を伴う原発を調査もしないで2億3千500万円の原子力予算を通過させています。中曽根氏の原発の中にはすでに核兵器が存在していたのかもしれません。日本も核兵器を持つべきだとさかんに言っていますから。また正力氏は、初代原子力委員長となり総理の座も目指していたというのです。
 原発導入には、当時大勢の人たちが日本列島は地震大国で活断層が網の目のように走っている、危ない危険だと反対しました。しかし、日本政府は、ビキニ事件をわずか9ヶ月で政治決着させ、翌年の1955年9月にアメリカと原子力協定を結び東海村に原発を導入したのです。
今回、もし直下型だったら、原子炉が破壊され北海道から沖縄まで、いや世界中に被害が広がっていたはずです。

――事故の責任という点についてはどのようにお考えでしょうか。
(大石)原発導入と拡大に半世紀以上も関って、原発に有利な計らいをしてきた政権政党はその見返りに利権、政治資金や地位など、甘い汁にたっぷりありついてきたはずです。
 自分たちが犯した間違いで大勢の人たちが今苦しんでいるのです。これからまだまだ膨大な財源が必要になり病気など、たくさんの問題が起こってくると思います。責任を感じるなら、溜め込んだ財産などすべて差し出し(世襲たちもせめて50%は)、頭を下げて仮設住宅に入り事故現場で陣頭指揮を取るのが筋だと思います。そうでないと帳尻が合いません。
 ビキニ事件の時もうやむやにしました。指導者たちの無責任さは太平洋戦争のときも同じです。これが日本人の特徴なのでしょうか。
また、イラク戦争についても言えると思います。
英国では戦争支持に至ったブレア元首相らを喚問、オランダでも。当時の日本の小泉首相は、閣内議論もせずに公明党と一緒になって憲法も無視して「国益にかなう」といって海外派兵に踏み切り、給油で戦争に加担しました。その先でイラクの民間人が9万人も殺されているといいます。
 


2011年9月15日武蔵野書房より刊行

――大石さんは、最近新刊「矛盾」を刊行されましたね。ビキニ事件の他、人類の起源まで遡って世界と日本の歴史を叙述されたスケールの大きな力作で、大変勉強になりました。
(大石)アフリカの北東部にいた150人ほどの類人猿が人間の先祖だとも言われます。やがて地球上あちこちに拡散し定住化、専門化、生産の向上、私有財産、交易が発展して行きました。それとともに欲望も拡大してきました。目先にとらわれて我が国だの他国だのと戦争ばかり繰り返していてはいつまでたっても人類に平和はありません。意識を地球単位に早く切り換えなければなりません。幸い、21世紀はコンピュータが世界を身近なものに繋ぎ始めています。これからの若い人たちが広い視野をもって地球単位の方向に進むことを期待しています。

――今日は大変ありがとうございました。ご健康が回復されることをお祈りいたします。

◆大石又七(おおいし またしち)さんのプロフィール

1934年、静岡県生まれ。53年から第五福竜丸に乗り込む。54年ビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験で被爆。第五福竜丸平和協会評議員。著書に「ビキニ事件の真実」「ビキニ事件の表と裏」「矛盾」など。


<法学館憲法研究所事務局から>
福島第一原発事故をも引き起こした東日本大震災の復旧・復興が急がれる中で、当研究所は11月3日(木・祝)にシンポジウム「震災と憲法」を開催します。ここで浦部法穂顧問が「被災者支援と震災復興の憲法論」と題して講演します。こちら


 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]