法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

最大の不公平税制、消費税を震災復興財源にあててはならない

2011年6月20日


湖東京至さん(元静岡大学教授・税理士)



◆「消費税増税」の大合唱

 政府・与党は2011年6月に成案を得るとしている「社会保障と税の一体改革」のなかで、消費税の税率を段階的に10%まで引き上げる方針を明らかにしている。あきれたことに、どうせ税率を引き上げるのなら、それを前倒しして復興税にすればよいという暴論も散見される。つまり、震災復興を口実に消費税の税率を引き上げてしまおうというのだ。私は消費税を社会保障や震災復興のためにあてることは国家百年の大計を誤る愚策だと指摘したい。

◆消費税がもつ二つの性質

 しばしば消費税を増税すると「被災者にも負担が及ぶ」として反対する人々がいる。この主張はそのとおりだが、ただし消費税の性質が単純明快な間接税だという前提が必要。
たとえば、消費税がアメリカの小売売上税のように単純で透明性が高い間接税であれば、たしかに消費税分が全て価格に転嫁され、消費者の負担増額ははっきりする。被災者に負担増となることについて、「認定された被災者に対しては事後的に還付を行うなど、被災者に負担を求めない仕組み」にすればよいという人がいる。いったい還付金額はどうやって計算するのだろうか。買物の領収書をすべてとっておき、その合計額の1%を返すというのだろうか。これは現実には不可能だ。こうした議論も消費税が単純明快な間接税であることを前提にしている。多くの人々は「消費税は物やサービスに課税される間接税」だと思っている。だが、消費税は物に課税する単純な間接税ではない。消費税の本質的性質はむしろ企業に課税する直接税であるといってもよい。それは消費税タイプの税金の生い立ちを見ればはっきりする。

 消費税タイプの税金が広く世に知られるようになったのは1943年で、シャウプ勧告で名高いカール・S・シャウプ博士が生みの親であるといわれている。シャウプは実際に1949年、「日本税制の勧告」のなかで、当時わが国で実施されていた事業税(道府県民税)にかえて「附加価値税」という名前の税金を採用するよう提唱した。事業税はいうまでもなく直接税。シャウプの「附加価値税」は企業の付加価値を課税標準とするもので、価格への上乗せも、消費者への転嫁も、輸出企業への還付金も認められていなかった。これに対し1954年、フランスで採用された「付加価値税」は、シャウプの「附加価値税」と基本的な計算方式がまったく同じ仕組みであるにもかかわらず、「物に課税する間接税」であると定義付けたのだ。その理由は、直接税ではガット協定に違反するため輸出還付金制度が認めらないからだ。
 間接税であれば輸出還付金が認められる。つまり、輸出企業に還付金という補助金を与えるため本来直接税である「付加価値税」を無理矢理間接税に見せかけたのだ。だから消費税(=付加価値税)は直接税の性質と間接税の性質を合わせもっており、そのことが消費税の不公平性・不透明性を招いているのだ。

◆消費税は典型的な不公平税制

 消費税が二つの性質(二つの顔)をもっているため、その不公平性を指摘する際にも二つの側面から見なければならない。
 一つはフランスで無理矢理性格づけられた間接税の側面からみた不公平。この不公平はすべての物に消費税がかかっているという前提に立つから、生活必需品にもぜいたく品にも同じ5%の税率で課税する不公平があるといえる。だいたい揺りかごから墓場まで、何から何まで課税すること自体不公平。また、赤ちゃんからお年寄りまで、モノを買う人の事情を考慮しないことも不公平だ。消費税の持つこの間接税としての不公平性はわかりやすいものだから、消費税賛成論者も否定することはできない。
 二つ目の側面は消費税の本質的性質=直接税の側面から見た不公平性。消費税の納税義務者は消費者ではなく、全国350万の事業者である。消費税が直接税である証拠として価格への転嫁が法律的に義務付けられていないことがあげられる。そのため力の弱い事業者・下請け企業などは価格への完全転嫁ができず、消費税を自己負担せざるを得ない。まさに弱肉強食、事業者間に不公平をもたらす税制なのである。
 そのうえ、トヨタ、ホンダ、日産、パナソニック、キャノンなどの巨大輸出企業は、下請に払ってもいない消費税を払ったものとして税務署から還付を受けている。これは輸出還付金制度というもので、外国に売った場合、外国の顧客から日本の消費税を貰えないため、免税(ゼロ税率)にし、下請などに払った(とされる)消費税を還付する仕組みだ。還付金額は国・地方併せて約3兆4千億円(平成22年度予算)にのぼる。これは消費税の全税収12兆円の28%に相当する。中小事業者は常に納税しているのに、輸出大企業は常に還付、こんな不公平税制はない。

◆「にせ間接税」による「焼け太り」と倒産

私がなぜ消費税の本質的性質にこだわるかといえば、消費税が消費者に物価をとおして負担増を強いるだけではなく、それと同じか、それ以上に中小事業者に壊滅的な打撃を与えるからだ。なぜなら、消費税は価格への転嫁の保証がない「にせ間接税」であり、転嫁能力のある大企業は税率引き上げの影響を受けないが、転嫁能力のない中小事業者は直接税として自己負担せざるを得ない。つまり、赤字でも被災事業者であっても売上があれば消費税の納税義務が発生するのだ。その結果、消費税の納税ができず、事業の再建どころか倒産、廃業に追い込まれる中小事業者が続出するおそれがある。
 現在でも消費税の滞納額は国税中第1位である。このうえ事業者に、大震災による直接・間接の被害が及べば、滞納額は膨大な額にのぼる。一方、トヨタなどの輸出大企業は税率引き上げによりその分還付金が増えるから、むしろ「焼け太り」になる。
 消費税を社会保障財源に使う場合も輸出大企業は「社会保障のために還付を受ける」ことになる。今まで社会保険料を企業に還付した国があったただろうか。消費税はこのように本来負担すべき企業が負担せず、逆に還付をしてもらう恐るべき仕組みをもった税制なのだ。残念なのは消費税のこの本質的不公平について知っている人がほとんどいないということだ。

◆震災復興財源・社会保障財源は憲法に適う税制で

 震災復興財源・社会保障財源を賄う税金は憲法の要請する「応能負担原則」に適う税制によることが大前提である。以下に震災復興財源としてふさわしい税を箇条書きに示す。これらの税制改正を政権与党が大胆に検討し導入することが緊急に求められる。そうすれば典型的な不公平税制である消費税によらず、公平で景気回復に有効な税・財政政策が可能になる。
@大企業・高額所得者に適用されている特恵的な租税特別措置・不公平税制を全廃すること。不公平税制の是正による増収額は毎年、不公平な税制をただす会・財源試算研究会が発表している。2011年度の増収額は国税で16兆7千億円、地方税で11兆3千億円、合計28兆円強にのぼる(不公平な税制をただす会編『福祉と税金』第23号)。
A大法人に対する法人税に付加税を課税すること。多年にわたる法人税減税や下請単価、人件費の押さえ込みにより大企業にはおよそ240兆円の内部留保があるといわれている。これを法人税の付加税として、とりわけ震災復興連帯税として課税する。付加税率20%で税収は毎年1兆円から2兆円になる(『税制研究』60号、湖東論文)。
B輸出企業に対する消費税の還付金制度を停止ないし廃止すること。これによる税収は毎年およそ3兆円強になる。少なくとも、震災復興連帯税として震災復興が終わるまで大企業に還付をしないこととする(商工新聞2011年4月25日、湖東論文)。
C資産家に対し富裕税を課税すること。富裕税は総資産額から負債額を差引いた純資産額に対し毎年一定率で課税する。税収は税率によって異なるが、相当な規模になると見込まれる(商工新聞2011年3月14目、富山泰一税理士論文参照)。
D国債整理基金特別会計など国の特別会計剰余金を活用すること。特別会計の剰余金(使いのこし)は2004年から2009年の間に9.2兆円から16.5兆円もある。これを一般会計に繰り入れれば相当の財源が確保できる(商工新聞2011年3月7日、醍醐聰東京大学名誉教授インタビュー記事)。

(2011年6月記)

◆湖東京至(ことう きょうじ)さんのプロフィ−ル

1937年(昭和12年)東京都生まれ。
1965年税理士一般試験合格、税理士事務所開設。
1972年以降毎年税制・税務行政・ヨーロッパの付加価値税制の実態を学ぶため、
フランス、ドイツ、アメリカ、カナダなどを歴訪、国際税制の研究を深める。
この間、全国青年税理士連盟会長、税経新人会全国協議会事務局長、東京税理士会理事を歴任。
1994年4月静岡大学人文学部法学科教授、静岡大学人文社会科学研究所(大学院)教授。
(税法担当)
1995年4月埼玉大学経済学部講師(税・財政法担当)
2001年4月関東学院大学法学部教授、同大学法学研究科(大学院)教授(税法担当)
2004年4月関東学院大学法科大学院教授(税法担当)
2008年3月同大学院定年退職
2008年4月中野合同税理士事務所所長・税理士
主な社会活動
「TCフォーラム(納税者権利憲章をつくる会)」事務局長 「不公平な税制をただす会(日本納税者連盟)」運営委員 「日本租税理論学会」理事
主な著書および論文
『世界の納税者権利憲章』(2002年12月、中小商工業研究所、編著)
『消費税法の研究』(2001年1月、信山社、単著)
『世界の税金裁判』(2001年8月、清文社、共著)
『日本税制の総点検』(2008年10月、勁草書房、共著)
「政府税調中期答申と憲法原則」(2003年11月、『関東学院法学第13巻第2号』)
「消費税15年を検証する」〔2003年11月、『福祉とぜいきん第16号』)
「二桁税率化・消費税はなぜ悪税か」(2003年11月、『経済No、98』)
「フランス付加価値税法」翻訳、(2002年3月、『関東学院法学第11巻上』)
「シャウプ勧告と給与所得者年末調整制度」(2008年8月、『税制研究No.54』)





 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]