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今週の一言

 

東電原発事故被災者の苦悩と怒り

2011年5月23日


中里範忠さん(20キロ圏内の被災者)


現在東京電力福島第一原発から半径20キロ圏内は立ち入り禁止で、無人になっています。
日本の歴史上、こんなに広い範囲が人ひとりいない状態になったことがあるでしょうか。この範囲は仮に渋谷駅を中心とした場合、南から時計回りで、新子安・百合ヶ丘・府中・朝霞・鳩ヶ谷・亀有・小岩・浦安・東京湾を結んだ線内で、主要な市街がすっぽりと入ります。首都圏に住む方にもその広さが感覚的におわかりいただけるかと思います。さらにこの20キロの外側に計画的避難区域と緊急時避難準備区域が設定されています。
私たち避難者はこの中で、田植えをし、トマトやチンゲンサイを育て、杉の枝打ちをし、牛の乳を搾り、草を刈り、山菜を採り、魚介類を捕り、子供を学校に送り出し、入院患者を見舞い、挨拶を交わし、互いに酒を呑み、語りあってきました。農業者にしてみれば田んぼの畦の石ころ一つひとつにも見覚えと愛着があります。猿や猪との知恵くらべもしてきました。結婚式や通夜・葬式もしてきました。
これらの日常の行為は地域と一体でこそ成り立ちますが、他では代替できません。
それが、あの日突然「原発が危険になったから避難しろ」と「まるで豚を車に載せるようにホラ乗れ、ホラ乗れ」とバスに押し込められ、行き先も分からないまま、集団避難所につれて行かれて、さらにそこも危険になったからと二次・三次の移動を強いられました。
集団避難所には犬・猫は連れていけない、たぶんすぐ戻れるだろうと有りだけの餌を与えてきた人も多い。牛や馬・豚・鶏も然り。
田園地帯の穏やかな日常が一方的に断ち切られました。夢も希望も踏みにじられました。集落や町そのものが無くなってしまいました。
いったいこんなことがあっていいのか。無念です。
あの日から60日になろうとしている。高齢者の多くがもう疲れ切っています。
「東北がんばれ」「ふくしまガンバレ」という声がしきりに聞こえます。しかし原発被災者にとっては、「さあ、復興のために立ち上がろう」という気持ちにはまだなれません。何事も手につかないのです。何を食べてもおいしいとは思わないのです。放心状態です。震災五月病と言われるかもしれませんが、苦悩で悶えているのです。
いまだに、原発からは高濃度の放射線が出ていて、いつ収束するのかもわからないのですから。

こういう事態になってみると、原子力発電所とは人権とか動物愛護とか国土保全とは無縁のもので、土も海も空も汚し放題、環境破壊の最たるものではないでしょうか。
現在生きている人々だけでなく、将来の日本を背負う子や孫たちに大変申し訳ないことをしたことになります。
政府高官や電力会社社長らが土下座して原発立地自治体の長に申し訳ないと言ってみたところで、免罪される筋合いではありません。 
そこで言いたい。
 政府や電力会社が私たち被災者及び風評被害を被った生産者・流通業者すべてに対して経済的な補償をするのは当然ですが、この事態を招いた者すなわち原発推進の旗を振った戦争犯罪人的人物一人ひとりの政治的社会的責任・道義的責任を追求する必要があるということ(さらに、刑事責任の追及の可能性も考えられると思います)。
「安全だ」と言ってきたことが安全でなかったわけだから、彼らの論理からしても「安全」に維持するための対策のどこかに手抜きがあったことになります。
引き起こした結果の重大さからみて、想定外などと言って許してはなりません。
東電のパンフレットでは、五つの壁で多重防護をしているから放射性物質が外に漏れ出ることはないと説明していますが、1基のみならず4基も同時にダウンするとは、根本に問題があったといわざるをえません。
福島第一原発が大津波により制御不能になる危険性は90年代から指摘されていました。2007年7月には、原発の安全性を求める福島県連絡会等は、「福島原発はチリ級津波が発生した際には機器冷却海水の取水が出来なくなることが、すでに明らかになっている。これは原子炉が停止されても炉心に蓄積された核分裂生成物質による崩壊熱を除去する必要があり、この機器冷却系が働かなければ、最悪の場合、冷却材喪失による苛酷事故に至る危険がある。」としてそのための対策を講じるよう東電に求めて来ましたが、東電はこれを拒否してきました。 
 先の国会審議のなかでも津波と原発事故の因果関係を想定した質問と提案がなされていたのですから安易に想定外などと言うのを許してはなりません。

報道によると、経産省の関係部局の幹部が天下りしていたことが公表されました。また原子力の分野では政・官・学・財が溶融しあって、原発の安全性に疑問を投げかける人々を排除してきたことは半ば公知の事実です。彼らがそこで食んだ高給を追徴して補償金に組み入れるべきだと思います。受章・叙勲など受けていたとしたらそれを取り消すべきです。
これを見逃したのでは被災者の感情が許しません。
日本社会はそういうところを曖昧にしてきた嫌いがあります。

◆中里範忠(なかざとのりただ)さんのプロフィール

1938年福島県双葉郡双葉町生まれ。1957年〜2004年東京地裁、千葉地裁勤務。この間裁判所速記官、裁判所書記官、裁判所事務官、裁判所執行官を遍歴。退職後福島県南相馬市小高区に定住。小高九条の会事務局長を務める。避難先 埼玉県三郷市。





 
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