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『きみはサンダーバードを知っているか』を知っているか?

2011年5月2日


愛敬浩二さん(名古屋大学大学院法学研究科教授)


 私に与えられたテーマは、憲法記念日を前にして、現在の改憲動向についてコメントすることである。しかし、この問題について語るとしても、3月11日の東日本大震災の体験を抜きにして、何かを語ることは難しい。そこで、ここでは、「政権交代」にかかわらず、そして、大震災の発生にもかかわらず、今もなお継続する「改憲問題」について、若干の事柄を述べてみたい。ただし、この文章の真の目的は、約20年前に公刊されたある書物を推薦することにある。


 「改憲問題」を憲法条文の改定(明文改憲)の問題に限定するのであれば、改憲問題の深刻さは幾分、弱まったといえるのかもしれない。しかし、「改憲」とは"constitutional change"の意味であり、「国の基本的なあり方=この国のかたち」の改変を広く含むと考えるのであれば(この観点の重要性を強調するのが、森英樹氏である)、「改憲」の危機は未だ去っておらず、より深刻なものとなっている。このことを如実に示すのが、防衛計画大綱の改定のために、自民党政権と民主党政権がそれぞれ設置した懇談会の報告書の内容上の類似性である。麻生内閣の下で設置された「安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書(2009年8月)と、民主党政権下で設置された懇談会の報告書「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会――『平和創造国家』を目指して」(2010年8月)を比べると、民主党の性格を反映して(?)、後者はスローガン先行で「新し物好き」という特徴があり、一読した際の印象はかなり異なるが、基本的な部分では、米国の国際的覇権が相対化したので、日本がその不足分を埋めるべく海外派兵体制を構築する必要があること(PKO参加基準の緩和や派兵恒久法の制定)、武器輸出三原則の「見直し」を具体的な提言としつつ、「専守防衛」や「基盤的防衛力」といった従来の政府の方針(自衛隊の「軍隊化」への「歯止め」になりかねない方針)の放棄を強く訴えることなど、ほとんど同じといえる。

 この二つの懇談会報告書の「類似性」から、次のことが帰結できる。@民主・自民のいずれが政権にあろうとも、日米安保のグローバル化に対応するための自衛隊海外派兵体制の完成が追求されること、Aそれは明文改憲という方法ではなく、憲法9条とそれを支持する国民意識との関係で従来の政府が余儀なく採用してきた「小国主義」的政策(「小国主義」については、渡辺治「高度成長と企業社会」同編『日本の同時代史27 高度成長と企業社会』を参照)、たとえば、「専守防衛」、「基盤的防衛力」、「武器輸出禁止三原則」等の概念や構想を、個別的な政策との関係で解体・放棄することを通じて追及されること、の2点である。そして確認しておきたいのは、@とAの変化は、たとえ9条の文言が一字一句修正されなかったとしても、戦後日本の「国のかたち」を根本的に変容させるものとして、"constitutional change"と認定されるべき事柄である点である。

 東日本大震災の後、福島第一原発の原子炉に対するヘリコプターからの水の投下や、被災地での遺体の搬送・埋葬等の災害支援活動における自衛隊員の活動がメディアを通じて伝えられている。そんな中、米軍は米軍横田基地内に「統合支援部隊」(JSF)を新設し、東日本震災の被災者支援や福島第一原発事故への対応を仕切ってきたとの報道を読んだ。米太平洋軍の前線司令部の役割を担う機関が日本に設置されたのは初めてのことであり、そこに自衛隊の防衛部長をトップとする10人の連絡チームが常駐するという(朝日新聞2011年4月7日朝刊)。東日本大震災という「日本有事」を梃子にして、「日米同盟」の「実効性」を高めるための組織的協力体制が構築されつつある。この動きは、震災への対応としてよりも、新ガイドライン以降の日米安保のグローバル化に向けた共同運用体制の構築のための動きとして把握すべきであろう。このように、"constitutional change"は様々なかたちで今もなお追求されている。

 ならば、私たちは今、何を考えるべきか。東日本大震災の経験からまずくみ取るべき点は、日本列島で生活する私たちは、自然災害に対する「備え=安全・安心」に対して、十分は配慮をなすべきということであろう。そして、その「備え」の経験の蓄積を海外へと広げていくべきであろう。これは、憲法前文が謳う「平和的生存権」の具体化のための試みでもある。ならば、今も継続する"constitutional change"の策動を止め、日本国憲法の可能性を拡げていくことこそ、私たちの課題であるといえよう。以上の問題について考察を深めるためにお薦めの本がある。サンダーバードと法を考える会編『君はサンダーバードを知っているか』(日本評論社、1992年)である。今から約20年前、水島朝穂教授がまだ「広島大学助教授」だった時代に、編集・執筆の核となって作られた書物であるが、自衛隊をサンダーバードのように、自然災害における人命救助のための専門組織に改編すべきことを、様々な角度から論じている。20年近く前の書物であるにもかかわらず、私たちは同書から、現在の諸問題への対応策について、多くの示唆を得ることができるだろう。そして、この本が出版されて以降、日本の憲法政治がどれだけ間違った方向に進んでしまったかを改めて痛感することにもなるだろう。

◆愛敬浩二(あいきょうこうじ)さんのプロフィール

1966年生まれ。早稲田大学大学院法学研究科博士課程修了。信州大学助教授等を経て、2005年から名古屋大学大学院法学研究科教授。主な著作として、『近代立憲主義思想の原像』(法律文化社、2003年)、『改憲問題』(ちくま新書、2006年)、『対論 憲法を/憲法からラディカルに考える』(共著。法律文化社、2008年)など。





 
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