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今週の一言

 

憲法9条をめぐる攻防とこれからの課題(2)

2011年1月10日

内藤功さん(弁護士・元参議院議員)


* 2011年新年にあたり、法学館憲法研究所・伊藤真所長が内藤功さんにインタビューし、憲法9条をめぐる歴史や今後の課題について語っていただきました。

前回からの続き>

(伊藤)
 こんにち、米軍は日本と極東を守るということを超える役割を果たし、日本の自衛隊がそれを支援する動きが広がっています。内藤先生はどのように見ておられますか。

民主党政権の安全保障をめぐる情勢分析と方針の危険性

(内藤さん)
 2009年9月に民主党政権ができました。その際民主党は沖縄の県民世論を十分考慮せざるを得ず、鳩山代表は選挙の演説で「普天間基地は国外、少なくとも県外へ移設」との明確な公約を言いました。民主党中心の政権は発足後、その公約を守れという県民の大きな世論と、日米同盟・合意を守れというアメリカとの間に立って迷走を繰り返しました。そして、ついにアメリカ側に屈服して、2010年5月28日に普天間基地の代替施設を辺野古崎地区及びおよびその近辺の水域に持っていくという日米共同声明を出すわけです。
 実は、5・28共同声明の内容はそれだけではないのです。よく読むとその後に、沖縄の米軍訓練及び活動を日本の本土の自衛隊基地に移動することを拡充するとあります。5・28声明の翌日には防衛大臣の名前で、本土の自衛隊基地のある地方自治体の長に、"おたくにも米軍が行くよ"という連絡をしています。日本政府は米軍に対して、本土をどうぞお使いくださいという約束をしたということです。
 それから日米の基地の共同使用です。日本の自衛隊の基地は米軍がどんどん使っていい、米軍の基地も自衛隊が使っていい、米軍と自衛隊が一体の基地になるということなのです。
 そして日米同盟、安全保障協力の深化です。自民党・公明党政権のときは日米同盟の「進展」と言っていましたが、民主党中心の政権は「深化・発展」としました。
 日米同盟の深化がどういうかたちで表れているのか。それは「防衛計画大綱」策定にむけた一連の動きで明らかです。2010年秋、「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(新防衛懇)の提言(8月27日)、防衛省が提出した2011年度防衛省予算概算要求(8月31日)、防衛計画大綱に関する民主党の提言(11月30日)、が出され、年末12月17日に防衛大綱がつくられました。それと時を同じくして、12月3〜10日に実施されました日米共同統合実動演習、2010年2月1日に出されたアメリカ国防総省のQDR(4年ごとの国防戦略の見直し)、これらの動きを注視しなければなりません。
 新防衛懇の報告は自公政権もやれなかった内容です。そこでの情勢認識は、@アジア太平洋におけるアメリカの圧倒的な優位はもはや絶対的なものではない、A中国が台頭してきている、B故にアメリカは同盟国日本に多大な期待をかける、ということです。これは2月1日に出されたアメリカ国防総省のQDR(国防戦略の見直し)の中の情勢認識の大筋と同じです。
 この情勢認識に基づいて、民主党は5つの方針を出しています。第一は、従来の基盤的防衛力と決別して、動的防衛力、動的抑止力をつくるということです。この動的というのは実際に軍隊を動かすことによって、相手の侵略を抑えるのだという考え方です。それから南西諸島の防備を強化するということです。しかし、これは「抑止」どころか、軍備拡張競争、軍事対抗の悪循環の危険をはらみます。第二は、それを支える人的基盤です。自衛官の若返りをはかり精強な自衛隊をつくるということです。第三は、武器輸出三原則の緩和です。中国対策の新鋭ステルス戦闘機の国際共同開発などをねらっています。第四は、国際活動、海外派兵をやりやすくするためPKO5原則を緩めるということ、第五は、それらを支える内閣の安全保障機能の強化です。
 11月30日の民主党の提言は、新防衛力懇の提言のポイントをほぼ承継しました。そして、12月17日、基本的にはこれらの流れに沿った防衛大綱が閣議決定されました。
 日本における新防衛大綱の背景にはアメリカの国防計画があります。アメリカの国防計画は、昨年初めて、中国を名指しでライバルとしました。アメリカは、外交と軍事の二面政策を常に用いていますので、その表明の仕方は非常に慎重ではありますが、接近拒否能力を持った中国を打破する軍事力を持たなければならないということをアメリカ国防の六目標の一つにしたのです。そして、統合空海戦闘構想(Joint air-sea battle concept =JASBS)を中国に対する軍事戦略として打ち出しました。それは、あと10年ないし15年経つと中国の経済力、軍事力は強大なものになる、その時に台湾で何か起きたときには中国軍がアメリカの空母打撃部隊を襲ってくるだろう、また沖縄と日本本土の米軍基地を攻撃してくるだろう、それに対抗しなければならない、これがJASBCです。とくに大事なのは、「南西バリア」構築を打ち出していることです。南西諸島の防衛というのは日本の沖縄を守るためのものだと思われていますが、実は、宮古島と沖縄本島の間の宮古水道から太平洋へと中国の潜水艦が出てこないようにする、そのために、日本の海、空、陸の自衛隊にきっちりと壁を作ってもらうというアメリカの戦略が「南西バリア」構想なのです。
 これは絵空事ではありません。12月3〜10日の日米共同統合実動演習には陸海空の自衛隊全て参加しました。参加人数は米日あわせて4万5千人、艦艇60隻、航空機400機でした。重大なのはその数だけではなく、演習の想定が今まで話してきた米戦略と全く符合しているということです。演習内容の想定は、全てアメリカの中国による接近拒否戦略への対抗、それとJASBCの線に沿っているわけです。これが日米同盟の深化の実相なのです。
 民主党中心の政権は、普天間基地問題がなかなか進展していかないことへの「罪償い」に、アメリカに対して、一生懸命「これでいかがでしょうか」と代償を出している、という情けない状況になっているのではないでしょうか。こんにちの民主党政権は、アメリカの要請にもとづく防衛計画が日本の防衛のためだと思いこみ、また国民に思いこませているわけであって、私はこれほど危険な道はないと思います。

日本の平和運動には力と可能性がある

(伊藤)
 このような危険な状態だということを政治家もあまり言わないし、メディアもあまり報道しない現実があります。内藤先生はこのことをどのように考えますか。
(内藤さん)
 やはり日本の平和運動の力がまだアメリカや日本の政府を追いつめるまでに至ってはいない、ということがあります。しかし、決して弱いわけではありません。まず先頭に立っているのは沖縄です。沖縄は戦後65年の苦難のたたかいの中から、たたかいの方向を学んできたわけです。暴力を用いない、非暴力でねばり強くやる、戦争体験・占領体験がひろく語り継がれている、これはいかなる理屈よりも強い。たたかいの中で団結の力、尊さも学んできました。大事なところでは、県民大集会を開いて10万人に近い人びとが集まります。昨年の知事選では三つの党派が一緒になって伊波洋一氏を応援したことも、その表れです。選挙のたたかいも非常に重視しています。米軍占領時代でも主席公選選挙では平和を唱える候補が勝ったことがあります。同じく占領時の那覇市長選挙で沖縄人民党の瀬長亀次郎氏が当選しています。こういった沖縄のたたかいの豊かな教訓から私たちは学ぶべきだと思います。本土はいまのところ沖縄に比べると少し遅れているように見えますが、北海道矢臼別、東冨士、北冨士、相模原、座間、岩国、等々でのたたかいが起きています。
 もう一つやらなければならないのは、これらの問題の根本に安保条約があるということをしっかり踏まえ、ことある毎にこれを学習して広げていく。そして、安保条約は憲法と矛盾するもので憲法上許されないものであり、憲法9条を実現することが安保をなくす道であるという大義をもっともっと広げていく必要があるだろうと思います。
 希望はあるのです。昨年春の琉球新報と毎日新聞の沖縄での共同世論調査では、日米安保条約をなくすべきという人と日米友好条約に変更すべしという人を合わせると60%を超えていました。これは非常に重要です。この方向に本土での世論・運動を引き上げていくということが大切です。
 安保条約をなくすことは黙っていては絶対に50年、60年経っても実現できないかもしれません。意識的に国民的論議を開始する必要があります。これは草の根の運動から開始するということです。
 日本には、@「九条の会」があります。それから古い歴史をもった、A原水爆禁止運動があります。広島・長崎の世界大会には多くの若者が参加します。それから先ほど申し上げた、B沖縄の運動です。そして長い歴史をもつ、C基地闘争です。それと、D軍事費を削って暮らしにまわせという運動です。この点はもっと声高に言う必要があると思います。今こそ軍事費を暮らしにまわせと言うべきです。「事業仕分け」を本当に徹底的に真面目にすすめるならば、まず軍事費にメスを入れるべきでしょう。
 こういう5つの運動が結びつくと、平和勢力は国会の議席以上の力を発揮すると思います。平和勢力の国会の議席が少ないことは残念ですが、私は草の根の力があれば、それを補って必ず押し返せると思います。
 その中で法律家の担う役割は大きいです。法律家は憲法9条の歴史、意義、これを最も妨げている安保条約の危険性というものを法制面から正面から対置して学習と訴えを精力的に展開する必要があると思っています。


(伊藤)

 私たちは「戦争をしない国 日本」というドキュメンタリー映画の製作に協力し、全国各地の方々に観てもらっています。この映画についてのコメントもいただけないでしょうか。
(内藤さん)
 映画「戦争をしない国 日本」は日本国憲法とその平和主義をめぐる動向を歴史的に追うものとなっています。砂川事件の伊達判決がその後の恵庭事件のたたかいに結びついたこと、三矢作戦計画の危険な本質、恵庭事件でのたたかいが長沼事件の裁判で実ったこと、百里基地のたたかいで農民たちが「絶対に戦争のためには土地を渡さない」との立場を貫いたこと、等々私が実際に関わったたたかいの本質を突く内容になっています。よい作品ができて喜んでいます。私はこの映画をみて感動しました。

平和と福祉の運動を広げる

(伊藤)
 ありがとうございます。
 さて、先ほど砂川事件のお話をうかがいましたが、あの時も憲法25条の生存権をめぐって朝日訴訟が提起され、「大砲からバターへ」という主張が展開されました。軍事費を削って平和にまわせということは、50年前から主張され続け、今また同じような現象が起きつつあるということですね。
(内藤さん)
 戦争、軍隊ほどの浪費の最たるものはないのです。戦争の本質は一定期間長期継続する大消耗戦なわけです。戦闘で勝つためには、たとえば100人と100人の軍隊が対峙した場合は撃ち合いになります。そうすると弾が早くなくなった方が敗走するわけですから、勝負は弾薬の補給量で決まるわけです。そしてその弾薬量は国力に比例するわけです。補給・増産する予算があるかどうか。そうすると戦争に勝とうという道に国家が踏み出しましたら膨大な軍事費が必要になります。その場合、弱い者から削っていくのは明らかです。戦争屋の論理は、必ず社会保障・福祉の切り捨てということにつながります。
(伊藤)
 今まさに貧困・格差の時代といわれて、生存権をめぐる問題も深刻です。実は憲法25条の背後に9条の問題、軍事費増強の問題があるのだということを理解することが必要だと思います。9条と25条が一体となって、平和国家・福祉国家という本来の憲法のあるべき姿に近づけることができるということだと思います。
(内藤さん)

 私はどちらかといえば憲法9条と軍事の分野で活動している立場です。いわばプールのこちら側の第1コースを泳いでいるようなもので、ときおり横の第3コースを見ながら、あちらコースではあの人も頑張っているなと思ったりしています。平和の問題を主に取り組んでいる人たちと福祉の問題に主に取り組んでいる人たちが、それぞれのコースでまっしぐらに進んでいいのです。そしてときどき意識的に合流し励ましあっていくということです。私が申し上げた五つの運動(@「九条の会」、A原水爆禁止運動、B沖縄の運動、C基地闘争、D軍事費を削って暮らしにまわせという運動)は、それぞれの独自の伝統と歴史と個性をもっていますので、それぞれ前進させて、自然に合流し呼応し、励ましあっていく。日本の底力はここにあると思います。そして法律家は積極的に裁判を起こして、勝敗だけに拘泥せず、たたかいのプロセスを重視して、その中で憲法の理念を徹底的に活かしていく。その表れの一つが名古屋高裁で出たイラク訴訟での自衛隊派遣違憲判決でした。

(伊藤)
 貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。ありがとうございました。
 今年も一年、よろしくお願いします。

◆内藤功(ないとういさお)さんのプロフィール

1931年生まれ。弁護士として、砂川事件、恵庭事件、長沼事件、百里事件の基地訴訟にたずさわる。
1974年からは参議院議員を二期務める(日本共産党から)。
現在、日本平和委員会の代表理事も務める。
イラク派兵違憲訴訟全国弁護団の顧問も務める。
最近の著書に『よくわかる自衛隊問題』(学習の友社)がある。


◆伊藤真(いとうまこと)

1958年生まれ。弁護士。
法学館憲法研究所所長。伊藤塾塾長。
『伊藤真の憲法入門』(日本評論社)、『憲法の力』(集英社新書)、『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)など著書多数。





 
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