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今週の一言

 

憲法理念による税制改革を

2010年12月20日

浦野広明さん(税理士・立正大学教授)

―――2009年、長年続いた自民党中心の政権から民主党中心の政権への交代がありました。まずは浦野さんに、新政権の税制改革をどのように評価されるかをお聞きしたいと思います。
(浦野さん)
 税制を含めて社会を変えてほしい、という国民の期待によって政権交代がおこなわれました。いま新政権が2011年以降の税制についての検討をすすめていますが、新政権が実際にすすめてきた税制改革を検証する場合、2010年度税制「改正」大綱(2009年12月22日に閣議決定=新政権として初めての税制に関わる閣議決定)とそれにもとづく2010年度税制改定がその判断材料になります。
 この2010年度税制改定では、所得税・住民税の扶養控除(16歳未満)が廃止されました。所得税・住民税の課税対象は所得の金額です。所得にはいろいろな種類がありますが、サラリーマンの収入は給与所得に区分されます。給与所得の金額は受け取った給与から給与所得控除額を控除した額です。扶養控除は、基礎控除や配偶者控除などとともに憲法25条の生存権を具体化する課税最低限を保障するものです。すでに自民党中心の政権のもとで、老年者控除や配偶者特別控除の原則廃止がなされましたが、新政権は年少分扶養控除を廃止し、庶民増税を断行したのです。
 2010年度税制改定では、このほかに、特定扶養控除(16〜22歳)の高校生部分(16〜18歳)も縮小しました。また、相続税における小規模宅地等の評価減の縮小による庶民増税もはかりました。そして、税の滞納者への罰則を強化しました。
 新政権は、一方で、大企業向けの法人税減税(研究開発税額控除)の2年延長、証券優遇税制の拡大・維持、住宅取得資金の非課税限度額を500万円から1500万円に拡大、など大企業・資産家減税をすすめました。
 2010年度税制「改正」大綱には「納税者主権の確立に向けて」というタイトルがつけられました。そして、その中では納税者権利憲章の制定なども述べています。一見納税者の権利を守る施策が講じられるかのように見せかけています。ところが実際には庶民に対する増税をすすめ、一方で大企業・資産家減税をはかるものとなっているのです。また、円滑に徴税をしていくという名目で国民総背番号制をめざす納税者番号制度を設けたり、新たに税の取立てを強化する歳入庁の設置なども謳うものとなっています。
 新政権の税制改革には極めて重大な問題点があるのです。

―――憲法理念に則った税制改革はどうあるべきでしょうか。
(浦野さん)
 日本国憲法が考えている税金の取り方は、応能負担原則にもとづくものでなければなりません。税は支払能力に応じて負担するという考え方です。これは、憲法第13条(個人の尊厳、幸福追求の権利の尊重)、第14条(法の下の平等)、第25条(生存権、国の生存権保障義務)、第29条(財産権の保障)などを根拠としています。国税も地方税も、また社会保険料なども応能負担原則にもとづいて課さなければなりません。
 具体的には、所得課税については、@高所得者には高い負担を、低所得者には低い負担を求める累進課税にする、A同じ所得であっても、給与などへの課税よりも利子・配当・不動産などの資産所得への課税を重くする、B最低生活費・生存権的財産には課税しない、ということが原則とされるべきです。
 最近税の累進性が後退していることは重大です。所得税・法人税の累進性を強化するよう税率構造が見直されるべきです。
 資産課税については、相続税の基礎控除縮小や小規模宅地の負担軽減縮小などの動きがすすんでいます。これも庶民増税となり、応能負担原則に反するものとして警戒しなければなりません。
 消費課税については、菅首相が消費税増税を検討していますが、そもそも日本の消費税は世界に類のない、異常に高いものとなっていることを指摘しなければなりません。実は、標準税率が17.5%であるイギリスよりも税率5%の日本のほうが国税収入に占める消費税の割合は高いのです。イギリスでは、日本と違い、食料品、上下水道、書籍、障がい者・視力障がい者用具、住宅建設、旅客運賃、医薬品、子供服などの消費税率は0%です。日本では、すべての消費に消費税を均一に課しているため、税収に占める消費税の割合が世界最高水準となっているのです。よく北欧は、福祉の水準は高いが、税金も高いと言われます。ところが、日本の場合は生活必需品などにももれなく消費税を課していますので、低所得者の税負担は北欧の人々の負担よりも大きいのです。消費課税も負担能力に応じて課す個別消費税を中心に抜本的に見直されるべきです。

―――こんにちの税制が大企業・富裕層を優遇し、庶民に厳しいものになっている背景には、国民に対して税についての情報や考え方があまり伝わっていない状況があるのではないでしょうか。
(浦野さん)
 税の負担者の多くを占めているのは勤労者=サラリーマンですが、税は源泉徴収=天引きされますから、税への関心は低く、その負担の重みをあまり感じなくなります。
 税は専門的な知識がないとわかりませんから、税務署の職員や税理士を除いてはあまり理解されていません。国会議員や裁判官、弁護士にもあまり税情報は伝わっていません。税の問題はいわば暗闇の中にあります。その方が課税する側にとっては都合がよいのでしょう。労働組合なども税の問題へのとりくみはまだこれからとなっています。国民の中に税の問題点が浸透していない中で、こんにちの税制になっているのです。

―――ところで、いま理不尽な税の取立てへの異議申し立てが広がっているそうですね。
(浦野さん)
 いま国民生活が危機的な状況になり、納税が困難な人々が増えています。2010年の税金の滞納は国・地方で4兆円にもなっています。
 このような中で、いま地方自治体が地方税の滞納者からの取立てに躍起になっています。たとえば、滞納者の銀行預金などの差し押さえをしています。生活費に関わる給与や年金を差し押さえることは違法です。当局は給与が振り込まれ預金債権になったらは差し押さえられると解釈し、差し押さえをしているのです。今年私は、給与差し押さえの取り消しを求める訴訟で「給与の預金債権は差押禁止財産」であり「差押処分は違法」とする鑑定書を提出し、原告の勝利的和解を勝ち取ることができました。私の鑑定書の全文が業界団体の機関紙に掲載されたところ、理不尽な税の取立てに不服申し立てをする全国各地の方々から協力依頼を受けています。これは、憲法に明記された生存権を保障させる取り組みです。私に対するマスコミなどからの取材も増えています。多くの人が税を払えないのは、憲法にもとづく応能負担原則の則った税制になっていないからです。このことを広く伝えていきたいと思います。

―――税については、そのとり方とともにその使い方も注目されるべきですよね。
(浦野さん)
 日本国憲法は平和と福祉を重視するものとなっています。国民の「納税の義務」は、国民が平和に生存するために税金を使うことを前提にしています。つまり、憲法上はすべての税金は「福祉社会保障目的税」なのです。
 この視点からも政府の予算などが吟味されなければなりません。

―――本日は有意義な問題提起をしていただき、ありがとうございました。

※以上のインタビューは2010年12月13日におこないました。

◆浦野広明(うらのひろあき)さんのプロフィール

税理士。立正大学法学部教授(税法学担当)・早稲田大学社会科学部講師(税法学担当)。日本民主法律家協会常任理事。日本租税理論学会理事。
『納税者の権利と法』(新日本出版社・1998年)、『税民投票で日本が変わる』(新日本出版社・2007年)、『日本税制の総点検』(勁草書房・共著・2008年)など著書多数。




 
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