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これからの日本の防衛政策を考える

2010年10月4日

天木直人さん(元駐レバノン大使、外交評論家)

 

1.私が「さらば日米同盟」(講談社)を出版した理由


 私は6月下旬講談社から「さらば日米同盟」という書き下ろしを出版した。その理由は民主党政権が進めようとしている「対等な日米同盟の深化」という政策がいかに間違っているかを国民の一人でも多くにわかってもらいたかったからだ。
 政権交代を成し遂げた民主党政権もまた日米同盟を最優先する対米従属外交を進めようとしている事が決定的に明らかになったのは鳩山首相が普天間基地の移転先を辺野古にする日米合意を行なって総理を辞任した時である。
 その後を引き継いだ菅首相に至っては、自民党の頃よりももっと対米従属的な外交を推し進めようとしている。
 このままでは菅民主党政権の下で年末にも決定される「新防衛計画の大綱」は、かつてないほど憲法9条を否定するものになりそうだ。
 それにもかかわらず護憲政党の政治力はどんどんと小さくなっていく。
 このままでは憲法9条改正は時間の問題である。いや、憲法9条など改正する必要はない。憲法9条を否定した日米軍事協力関係が固定化されていく。
 そんな事が許されていい筈はない。いまこそ日米同盟の呪縛から解放され、日本国民は本来の平和外交を取り戻すべきだ。
 その事を一人でも多くの国民に知らせたい思いに駆り立てられて私は「さらば日米同盟」(講談社)を書いて世に問うた。
 これは、イラク戦争に反対して外務省を追われた私が最後に辿りついた結論である。渾身の平和外交論である。以下その要旨を述べることとする。

2.日米同盟から決別しない限り日本の将来はない

 自民党も民主党も日米同盟重視をあたかも当然のように唱える。しかし日米同盟の本当の姿を国民が知れば有益どころか、日本を奪い取り、日本を危うくするものであることがわかる。
 我が国は1951年にサンフランシスコ講和条約を締結して国際社会に復帰した。そしてその時同時に(文字通り講和条約を締結した同じ日に)、米国との軍事同盟協定である日米安保条約を締結し、米国を頂点とした自由主義陣営の一員となった。この時、共産主義国を含む全世界との講和を主張する全面講和論者との間にイデオロギー対立が起き国論が二分された。
 どちらが正しかったかを今議論しても意味はない。日本は共産主義国家にならなくて済んだし、奇跡的なスピードで戦後復興を成し遂げた。結果的にはその選択は正しかった。
 しかし1989年に冷戦が終わった時点で日米安保条約の役割は終わった。その時、日米安保体制に代わる新しい防衛政策を国民的合意の下に構築すべきであったのだ。
 冷戦が終わってもなお米国との軍事同盟を続ける事が日本の安全にとって重要だというのならそれでもいいとしよう。
 しかし、そうであればそれを国民の前で説明し、あらたな日米同盟関係をつくって国会承認を得るべきであった。政府と官僚は日米同盟という曖昧な言葉の下に日米共同声明という政治宣言で日米安保条約や憲法9条を否定する合意を行なった。法の下克上が起きたのである。
 これからの日米同盟とは何か。それは米国の軍事政策に一方的に協力させられる対米従属関係である。日本とは何の関係も無いアラブの反米抵抗組織と米国とのゲリラ戦に協力させられ、米国の対中国牽制政策の肩代わりをさせられる対米軍事協力なのである。
 米国が日本を守ってくれるどころか、日本は自らを犠牲にしてまでも米国の戦争に加担する事になるのだ。
 このような日米同盟から自立しなければ日本の将来はない。

3.憲法9条を改正して軍事力を強化する防衛政策は間違いである。

 日米同盟から自立する以上、日本は自らの手で日本を守らなくてはならない。どうするか。この問いに正しく答えることができない限り「さらば日米同盟」と叫んでも説得力はない。
 自主、自立した防衛政策を求める時、突き詰めれば答えは二つに一つである。憲法9条を変えて強い軍隊を持つ事で日本を守るのか、それとも憲法9条を堅持して平和外交で日本を守るか、のどちらかである。

 強い軍隊を持って日本を守るという選択肢はない。強い軍隊を持とうとすれば終わりのない軍備拡張となり、その行き着く先は核武装である。実際のところ核兵器なくしては現代の戦争には勝てない。あの北朝鮮さえ核実験をしてからは米国が一目置かざるをえなくなったのだ。
 しかし日本に核武装をする選択肢はない。アジアの反発を招き、世界から制裁を受けて孤立し、そして何よりも米国がそれを認めない。
 核兵器保有までいかなくても、今から強い軍隊を持って日本を守ろうとすれば膨大な予算が必要になる。戦争に負ける前に国民は経済的困窮で滅びる。
 それに、兵器の発達によって今日の戦争はあまりにも犠牲の大きいものになった。勝者のない戦争の時代になった。
 現代の戦争はミサイル戦争である。日本はミサイル戦争に勝てない国だ。国の機能が東京に集中している。世界一多い原子力発電所を国中に持っている。人口密度の高さは世界有数だ。そんな日本は一発でもミサイルを急所に受ければ国の機能が停止する。どんなに迎撃ミサイル体制を強化したところで、すべてのミサイルを撃ち落すことなど不可能だ。日本は戦争の出来ない国、してはいけない国なのである。

4.今は非武装中立を唱える時ではない

 こう考えた時、軍事力の強化では日本を守れないことがわかるはずだ。憲法9条を堅持した平和外交による自主防衛しかない。

 しかし私は憲法9条を守れと唱えるだけの平和主義者ではない。一切の軍事力を持つべきでないという非武装中立論者でもない。

 平和を唱える事は正しい。そのような平和主義者とともに平和な世界の実現に向けて力を合わせていきたいと思う。非武装中立は人類が到達する理想である。その理想に向かって人類は努力すべきであると考える。

 しかし現実の国際政治はいまだそれを許すところまで到達していない。平和を唱えたり自衛力までも捨てろと唱えるだけでは不十分である。何よりも多くの国民を納得させる事はできない。

 重要な事は、日本国民を説得できる自主、自立した防衛政策を提示することである。

5.日本が目指すべきこれからの防衛政策

 詳しくは「さらば日米同盟」を参照願いたいが、私が主張する日本の自主、自立した防衛政策とは、専守防衛の自衛隊の再構築、アジア集団安全保障体制構築に向けた外交努力、それらの支柱的精神である憲法9条の堅持、この三位一体の政策で構成されるものである。

 護憲論者の中には今でも自衛隊を認めない人々がいる。たしかに憲法9条が出来た時は自衛隊を持つ事は想定されていなかった。その意味で自衛隊は違憲だ。しかし米国によって作らされた自衛隊はその後の半世紀あまりの時の経過を経て、国民に受け入れられるところとなった。自衛隊は一方において戦争に巻き込まれることなく、他方において災害救助など国民生活に貢献してきた。国民はその自衛隊を受け入れた。私はそんな国民の判断を尊重したい。
 重要な事は日米同盟の名の下に米軍の軍隊になり下がってしまった自衛隊を、日本を守る事に専念する日本の自衛隊に取り戻す事である。自衛隊は日本領土から一歩も出してはいけない。自衛隊は他国の脅威になってはならない。他国の攻撃を受けた時に日本の国土と国民を守る最後の砦としての専守防衛に専念する自衛隊を構築するのだ。

 自衛隊だけで日本を守る事はできない。日本を守る国際的枠組みを作らなくてはならない。人類は長らく軍事力で国益を実現する時代を経験してきた。その行く先は、軍事拡張と軍事同盟の乱立であり、二度にわたる世界大戦であった。

 その反省から戦後の国際社会は出発した。軍事力で国益を実現したり、軍事力で紛争を解決する事を禁じ、平和共存のルールを作って皆でそれを守る。それに違反する国が出て来ないように皆で監視し、違反する国を皆で取り締まる。そのような集団安全保障体制へと人類は安全保障政策を進化させたのである。

 残念ながら国連による集団安全保障体制は今日まで有効に機能しなかった。その最大の理由は東西冷戦の勃発である。国連の安全保障理事会は米ソ二大国の拒否権の応酬の場となり、平和実現のための有効な議決が出来なくなった。

 1989年に冷戦が終わり、その意味で大きな障害がなくなったにもかかわらず、やはり国連の安全保障機能は不十分のままである。なぜか。それは冷戦に勝利して圧倒的な超軍事大国となった米国が、その巨大な軍事力を「世界の警察」の役割のために正しく使おうとしなかったからである。

 しかし人類は歴史を後戻りしてはいけない。日本の安全保障は中国・南北朝鮮を含めたアジアの集団安全保障体制を確立してこそより良く確保できる。その実現のために全力を傾けて外交的努力を行うべきだ。

 専守防衛の自衛隊といい、アジア集団安全保障体制の確立といい、それが正統性を持つ根拠は日本が憲法9条を持つ国であるからだ。憲法9条を世界に掲げて平和を訴える時、それに正面から反対できる国はない。

 憲法9条こそ最強の安全保障政策であると私が言う理由がそこにある。

◆天木直人(あまきなおと)さんのプロフィール

1947年、山口県生まれ。1969年、京都大学法学部中退、外務省入省。中近東アフリカ局アフリカ第二課長、内閣安全保障室審議官、在マレーシア日本国大使館公使、在オーストラリア日本国大使館公使、在カナダ日本国大使館公使、アメリカ在デトロイト日本国総領事などを経て、2001年2月〜2003年8月、駐レバノン日本国特命全権大使。
8月末、アメリカのイラク侵攻に反対して意見具申を行ったが聞き入れられず、解雇処分となる。その後、評論・執筆活動を続ける。日本ペンクラブ会員。著書には『さらば外務省!』(講談社)、『怒れ、9条!』『アメリカの不正義』(展望社)、『さらば小泉純一郎!』『ウラ読みニッポン』『さらば日米同盟』(以上講談社)など。
ブログはこちら

<法学館憲法研究所事務局より>

天木直人さんの近著『さらば日米同盟!平和国家日本を目指す最強の自主防衛策』(講談社より2010年6月刊 定価1500円)をご紹介します。内容は以下のとおりです。
■序 章 いまこそ対米従属から自立すべき時
■第一章 国家主導の「対米従属政策」
■第二章 日米同盟ありきの外交が日本の未来を閉ざす
■第三章 米国は日本を守らない
■第四章 戦争を「つくり出す」米国
■第五章 「パレスチナ問題」の真実
■第六章 日本独自の安全保障政策はあるのか
■第七章 自主、自立した安全保障政策を求めて
■終 章 日本が日米同盟から解き放たれる日


 
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