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今週の一言

 

積極的護憲のために、いくつものアメーバが「大同大異」で団結を

2010年9月6日

北村肇さん(「週刊金曜日」編集長)

 

――「週刊金曜日」は護憲を掲げる貴重な週刊誌であり、その影響力は大変大きく、各層の方々が注目しています。護憲の核心的な理由をお聞かせください。
(北村さん)
 憲法は本来、国の柱です。基本となる柱がなくなったら、国は崩れます。憲法を守るということは当たり前のことです。
 しかし、多くの国民・市民は、実は、25条を含めて憲法の主要な部分についてあまり関心がなかったのではないかと思います。「護憲」派でも、憲法の肝心の中身をあまり読んでいない人がいたのではないでしょうか。ところが、安倍総理の時に明確な改憲の動きが出てきて、相当数の人たちが憲法をじっくり読んでみて、憲法の素晴らしさに気付いたのだと思います。「週刊金曜日」も、憲法の核心的な部分である、すべての人の尊厳と人権を守ること、戦争をしないで平和を創ることなど、憲法をしっかり読みましょう、あるいはもう一度読み直しましょうということを呼びかけてきました。

 そして、憲法を読んだら憲法の理念が具現化されていない現実を知りましょうと訴えてきました。9条など、矛盾しているという以上に安楽死させられているという極めて異常な現実になっています。25条があるにもかかわらず餓死する人がいるということも憲法違反そのものです。
 そのうえでさらに、理念を具現化するにはどうしたらいいか考えましょう、ということでやってきました。「護憲」と言った場合、単に明文改悪されないという意味での消極的護憲ではだめで、憲法の内容を統治権力者に実現させるという積極的護憲を主張してきました。

――先の参院選の結果を踏まえ、また、民主党の代表選の動きなどをご覧になって、政治や生活における大きな問題はどこにあるとお考えでしょうか。
(北村さん)
 国政選挙の時も、また実質的には次期の総理大臣を決める今回の代表選に際しても、一番大きなポイントは、本来ならば9条など憲法に基づいた政治をするにはどうしたらよいかということであるはずです。しかし、本当に深い所にあるそのようなことはテーマになっていません。これは、統治権力者の側の問題であると同時に、彼等の憲法遵守義務違反をきちんと追及してこなかった私たちの側の問題でもあります。とはいえ、国民に考えてくださいよ、と言っても情報がなければ難しいことです。ところが、メディア、特にマスメディアが国民にていねいに情報を提供していないということ、権力者にいいように使われているということも大きな問題の一つです。

――2大政党は、国会議員定数の大幅な削減を主張しています。これについてはどのようにお考えでしょうか。
(北村さん)
 それはものすごく象徴的な問題です。国はおカネがないと言われると、国民は定数削減も仕方がないと思ってしまいます。メディアは本質的なことを伝えませんから。しかし、よくよく考えると、憲法が存在するのは民主主義国家だからです。民主主義を実現するには民意がきちんと反映されなければなりません。定数削減をし、なおかつ比例代表の部分を削るというのは、民意の反映でなく少数政党を排除して2大政党制を確立したいという思惑によるものであり、手段に過ぎません。しかもその2大政党が、新自由主義対社会民主主義というふうに、確固とした理念と根本的な政策を国民に投げかけるものになっていません。憲法の理念の具現化について論じないような2大政党制が確立してしまったら、大連合=野合になりかねません。このような情報が伝わっていませんので、多くの人が、“それでいいんじゃない”ということになってしまっています。「週刊金曜日」は、これから、小選挙区制は止めて中選挙区制に戻せというキャンペーンを行います。

――9条を中心とする改憲を主張している2大政党が両院で圧倒的な多数派を占めています。解釈改憲が既定となっている政治運用を含めて、改憲問題についてはどのようにご覧になっておられますか。
(北村さん)
 民主党と自民党が大連立しかねません。そうなったら、@憲法の改悪は直ちに可能な状況になります。A消費税10%もすぐに実現できます。B辺野古沖への基地移設もたちどころに進みます。憲法に違反したアメリカへの従属化という構造は変わらなくなってしまいます。9条については、両党は最低限自衛隊を合憲化しようという点では一致していますし、集団的自衛権の行使を認めるというところまで多分間違いなく行くでしょう。今の2大政党の下でも可能なことが、議員定数削減までやるとその可能性が一層濃密になります。もはや国会の中に一つの政党があって、それが自民派閥と民主派閥に分かれているに過ぎないと言えるでしょう。

 もっとも、改憲についてはすぐに手をつけるとは思いません。しかし、消費税や辺野古の問題が片付いたら、次は改憲しましょうという話しになります。それが2年後か3年後かはわかりませんが、マスメディアを使ってキャンペーンすれば、改憲の環境はすぐに整います。

 但し、お利口さんの政治家が明文改憲は得策ではないとして集団的自衛権の行使を認める解釈改憲をすれば、実質的に改憲したのと同じ状況が生まれます。それに、「週刊金曜日」は対米自立を主張していますが、その流れの延長で一歩間違えると自前の核兵器を持てるという解釈改憲が出てきそうです。すぐには改憲されることはないだろうと安心するのは、非常にまずいと思います。憲法は現在でも実質的には変えられてしまっている、それがさらに進行するということをきちっと考えないと足元をすくわれます。

――憲法の理念を実現することが大事だと考えている人たちから見て、これからの運動では何が大切だとお考えでしょうか。
(北村さん)
 民主党の代表選の結果、小沢さんが当選するとどうなるか分かりませんが、菅政権が続くとどこかで大連立をやらざるを得ないでしょう。
 一方、9条の会や行脚の会など9条を守ろうというグループはいろいろ含めると1万を超えているかもしれません。これは大変なことです。改憲試案を出した読売新聞の世論調査でも9条改憲に賛成の人はどんどん減っています。市民の力は強いものだということが証明されたと思います。そういう力をどうやってまとめていくかということが問題になります。

 その場合、ある政党が無理やりに、“私たちがまとめて行きますのでここに集まってください”というやり方を採ることは無理だと思います。それをやると必ず内部分裂が起きるのはこれまでの経験から明らかではないでしょうか。渡辺治先生が言われるように、「大同小異でなく大同大異で行こう」、9条を守るという1点で団結しようという意識が広がらないと、改憲に対抗するのは難しいです。1986年のチェルノブイリの事件の後に、反原発の集会がありました。ある労組が中心になって呼びかけたのですが、その日にそこで集会があるという情報だけで、予想をはるかに越えて万を超える人たちが集まりました。デモ隊の先頭が解散地点に到着しても後列はまだ日比谷公園にいるほどでした。
 市民が本当に起ち上がるときというのはそういうものです。
 アルジェリアがフランスから独立した時の一斉蜂起もそうでした。「アルジェの戦い」の映画のとおりです。1人ひとりの心の中に炎があれば、ある時一斉に火がつくということはあるものです。
 世論の多数がそうなった時には、マスメディアは世論の側に付くでしょう。今のマスメディアは世論の多数派に付くものです。

 憲法を守るというのは手段に過ぎません。戦争をしないで平和を創るというのが目的です。憲法を守るということを手段にして、その手段の所でけんかしてはいけません。今、目的と手段を区別するという視点を見失っている面があります。民主党の代表選もそうです。どっちが勝つかが目的ではありません。政権交代は目的ではありません。

――明文改憲が具体的に提起されるというせっぱつまった状況になる前の段階で、辺野古の問題とか解釈改憲の問題とかで問題意識を共通にする人たちやグループが共闘関係を構築することはできないのでしょうか。
(北村さん)
 理想はそうです。しかし、いい社会を作ることでなく自分たちの勢力を伸ばすということが目的になっていると、現実問題としては無理ですね。しかし、これから先変わってくるでしょう。ロスジェネ世代の人たちと話していて感じるのは、連合赤軍事件のように内ゲバをやって無意味な足の引っ張り合いをすることが社会を悪くするというかなり強い意識を持っていることです。最近では「派遣村」の時も多くの人たちが同じテーブルに付きました。9条改憲が日程に上るときも、30代、40代のそういう党派性のない草の根の人たちのところに、いろいろな人たちが集まってくるしかないのではないでしょうか。但し、中選挙区制に戻すことができれば、改憲反対の議席が増えますので、状況は変わってくるでしょうけれども。
 そうは言っても、政党やNGOなどのしっかりした複数の核がアメーバ的に存在することが必要です。真ん中に1個のコアがあるというのではありません。小さなコアがいくつかあって、いざという時に同じテーブルに付き大きなアメーバになるというイメージです。それが当面の理想的な状況でしょう。何よりも、大きなアメーバとなる味方の中に敵を作ってはいけません。

――長時間にわたり率直なご意見をいただき、大変ありがとうございました。

(8月27日インタビュー)

◆北村肇(きたむらはじめ)さんのプロフィール

1952年、東京生まれ。『週刊金曜日』編集長。74年『毎日新聞社』入社、社会部デスク、『サンデー毎日』編集長、社長室委員などを経て、04年1月退職、同2月より現職。95年8月から2年間、新聞労連委員長を務め、「新聞人の良心宣言」をまとめる。
 著書は『新聞新生』(現代人文社)、『新聞記事が「わかる」技術』(講談社現代新書)、『腐敗したメディア』(現代人文社)、『新聞記者をやめたくなったときの本』(同)、『なぜかモテる親父の技術』(KKベストセラーズ新書)など。



 
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