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普天間基地爆音訴訟控訴審判決−「世界一危険な基地」との実態を認定−

2010年8月16日

加藤裕さん(普天間基地爆音訴訟弁護団事務局長)

 

1 2010年7月29日、福岡高等裁判所那覇支部において、普天間基地爆音訴訟の控訴審判決が言い渡された。判決の枠組は、飛行差止等を棄却して損害賠償のみを認めるもので、従来の他の基地騒音訴訟と同様であり、目新しいものではない。しかし、判決の認定は、普天間基地の「欠陥」に正面から向き合うとともに、これに対する政府の無策を厳しく批判する内容となっており、結果的にこれまでの基地訴訟判決での水準の2倍の損害賠償額の認定へつながったといえる。

2 判決が、普天間基地の爆音の深刻さとその危険性について具体的に指摘している点は、次のとおりである。
 第1に、判決は、普天間基地所属のヘリ騒音特有の低周波音被害について、通常の騒音被害と比べて、「心身に対する騒音被害が一層深刻化するという経験則」があるとし、航空機騒音のこれまでの評価基準であったうるささ指数(W値)では評価できない被害があることを認定した。低周波音公害については通常の騒音と比べてまだ研究の蓄積は多くないが、判決は、住民が訴えている被害から出発し、このような認定に至ったのである。
 第2に、墜落などの事故の恐怖を現実に即して正面からとらえたことである。一審判決も、墜落への不安や恐怖は慰謝料算定の要素になると述べていたが、抽象的なレベルにとどまっていた。しかし、高裁判決は、米軍機の墜落への恐怖は単なる不安ではなく「現実的」なものとし、この不安感や恐怖感は、「ひいては生命又は身体に対する危険への不安感」であるとした。
 そして、判決は、普天間飛行場の立地について、アメリカで航空施設整合利用ゾーンプログラム(AICUZ)が運用されていることをとりあげ、同プログラムで設定されるべきクリアゾーン(障害物を排除しなければならない区域)内に「学校、病院その他、本来建築されるべきでない施設が存在する」、「そのため、普天間飛行場は『世界一危険な飛行場』と称されている。」と述べている。
 第3に、判決は、1996年に日米合同委員会で合意された騒音防止協定による夜間早朝の飛行禁止や、住宅地上空を回避した場周経路の設定についても、「午後11時までの飛行が常態化」している、「被告は、米軍に運用上の必要性について調査・検証するよう求めるなど…適切な措置をとってはいない。そのため、平成8年規制措置は、事実上、形骸化している」と断じた。

3 判決は、このように普天間基地による住民被害を正面から認定したにもかかわらず、結局飛行差止については、第三者である米軍の飛行を規制する権限は日本政府にはない、という従来の最高裁の「第三者行為論」によって棄却をしたが、極めて残念である。原告らは、国は「第三者」などではなく、安保を締結して基地を提供している共同妨害者なのだと主張したが、これに対しても、基地提供の拒否などの根源的な措置は、国の「政治的責任を伴った広範な裁量」であるとして判断を回避したのであった。
 判決は、こうして「差止請求という法形式による司法的救済を求めることはできない。」としながら、さらに引き続き、「しかし、このことは、もとより、被告に普天間飛行場周辺の騒音の状況を改善する責務がないことを意味するものではなく、…より一層強い意味で本件航空機騒音の改善を図るべき政治的な責務を負っている。」と判示した。最高裁判例があるもとで高裁の裁判官なりの努力はされたのであろうが、そうであるならば、判例を一歩前進させる判断をすべきであった。

4 本件訴訟の提訴は、2002年10月であるが、提訴に至るまで島田善次訴訟団長を初めとした20年以上にわたる普天間飛行場の撤去を求める運動の前史がある。「普天間基地撤去をめざす宜野湾市民協議会」は1983年の結成以来、毎年正月の自動車デモを行うなどの取組を続けてきてもいる。
 普天間飛行場周辺の住民の願いは、米軍による被害の根絶であり、普天間飛行場の即時閉鎖こそが必要である。また自らの被害を沖縄県内の基地たらい回しで「代替」させることも拒否している。一方政府は、辺野古移設によって普天間の危険は除去されると宣伝している。しかし、辺野古の新基地計画の環境アセスメントでは、米軍が約束どおりの時間帯と経路で飛行するという前提で評価されており、普天間の実態からすれば画餅といえよう。普天間の被害は、辺野古周辺でも同じく被害となるのである。訴訟団は、差止についてはさらに上告申立をし、普天間飛行場の移設条件のない即時閉鎖のため、たたかい続けるつもりである。

◆加藤裕(かとうゆたか)さんのプロフィール

現在 弁護士(沖縄弁護士会所属)
沖縄合同法律事務所

 岡山県出身  45歳
 1992年4月   沖縄弁護士会に弁護士登録(芳澤法律事務所)
 1997年4月〜  沖縄合同法律事務所所属

【弁護士会での現在の主な職務】
 日本弁護士連合会憲法委員会委員
        同公害対策・環境保全委員会特別委嘱委員
 沖縄弁護士会公害対策及び環境保全特別委員会委員長
【過去に関与した主な事件、弁護団】
那覇市情報公開訴訟、東京HIV(薬害エイズ)訴訟、大田知事職務執行命令訴訟、琉大セクハラ訴訟、沖縄靖国訴訟など
【現在関与している主な事件】
 普天間基地爆音訴訟、ジュゴン訴訟、辺野古アセス違法確認訴訟、高江通行妨害禁止訴訟など
【その他】
 日本司法支援センター沖縄地方事務所副所長
 沖縄県憲法普及協議会事務局長
 ネットワーク九条の会沖縄事務局長
(2010・7・21現在)



 
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