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今週の一言

 

被爆者はすみやかな核兵器廃絶を望む

2010年8月2日

田中煕巳さん(日本原水爆被害者団体協議会事務局長)

 

1.被爆者として2010年NPT再検討会議に参加して
 2007年1月のアメリカ4賢人の「核兵器のない世界」をめざす提言やオバマアメリカ大統領の登場により、核兵器のない世界を求める国際世論は、核保有国も含めこれまでになく高まりました。
 このような国際情勢の中で開催された第8回核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議は、全会一致で最終文書に合意し、「核兵器のない世界」に向けて新たな一歩を踏み出しました。再検討会議の成功の陰にはバン国連事務総長、カバクチュラン再検討会議議長の並々ならぬ熱意と努力が感じられました。非同盟諸国や新アジェンダ連合の役割は言うまでもありません。核兵器国も核兵器削減・廃絶に向けての日程を決めることや核兵器(禁止)条約の討議開始についてはかなりの抵抗を示しましたが、2015年の再検討会までの努力は約束せざるをえませんでした。
 再検討会議に向けてのNGOや市民社会の声や提言、国際会議や2万人近い世界からの市民のラリーも大きな役割を果たしてといえます。この役割をバン事務総長やカバクチュラン議長が高く評価し、励ましたことも会議の成功のあらわれと言えます。

2.なぜ 被爆者は核兵器廃絶を望むのか。

 自らの体験から一発の爆弾で警告なしに数十万人の人間の命を奪うことなど人道的に許せるものではありません。私も5人の身内の無惨な死を目撃しましたが、生き残った被爆者の多くが、身内、知人、友人など多くの命を奪われています。しかも、核兵器はかろうじて生きながらえることができたものも放射能で生涯苦しめつづけます。このような残酷な兵器があるでしょうか。
 このような兵器の使用は国際法上禁じられているはずです。しかし、現実はそうではありません。法の支配は国際政治ではまだ確立していないことを思わせられます。
 核兵器は絶滅だけを目的とした兵器です。被爆者は、核兵器は人道法に反し、国際法にも反する兵器だと固く信じており、すみやかに使用禁止条約が締結され、廃絶に向けての日程を議論し、すべての国が合意してほしいと願っています。NPT再検討会議には大きな期待をかけてきました。核兵器の削減・廃絶について条文があり、5年ごとの再検討会議できちんと議論できるからです。
 日本被団協は2005年NPT再検討会議を目前に平和市長会議が提案した「2020ビジョン」とその実現にための緊急行動提案を全面的に支持し、その実現のためにさまざまなとり組みをしました。それは核兵器廃絶への行程が明確に提案されたからです。
 被爆者は核廃絶を願い、目の黒いうちに、自分が生きている間に廃絶を見届けたいとの強い思いがあります。廃絶への日程が示されれば、たとえ見届けることができなくても安心ができるということでもあります。
 しかし、残念ながら2005年NPT再検討会議はブッシュ政権の妨害によって何の成果もあげることができませんでした。「2020ビジョン」と緊急提言も顧みられることはありませんでした。被爆者が強く願っているのは日程に対する国際社会の合意です。そのプロセスに重要な役割をもつ核兵器(禁止)条約です。モデル核兵器条約が存在し、すでに国連総会と2010NPT再検討会議第1回準備委員会に提出されています。それを土台に、核兵器(禁止)条約の検討を開始することはそれほどむずかしいことではなかったのではないかと思えてなりません。しかし、非同盟諸国や新アジェンダ連護国の努力にもかかわらず、これらが今年のNPT再検討会議で日の目を見なかったのは非常に残念でした。
 2015年NPT再検討会議を待つことなく、早速、今年の国連総会に向けて運動を作り上げなければならないでしょう。

3.再検討会議に向けて、日豪政府がサポートし、世界の賢人による「核不拡散・核軍縮国際委員会」の議論においても、アメリカの4賢人にしても、核兵器国やその同盟国のリーダーも「核兵器のない世界」を唱えながら核抑止論を否定していないことがあらためて明らかになりました。被爆者にとって核抑止力は認めがたいことです。

 核攻撃に対して核兵器で報復する思想は核兵器の存在と使用を容認しない限り成り立たないからです。被爆者とって核兵器の使用は人道に反する行為で、核兵器は絶対に使用されてはならないと考えるからです。
 これらの国の指導者が求める「核兵器のない世界」は無くなればいいという願望であって、なくさなければならないという「意志」でなないことをあらためて痛感させられました。これらの指導者、その指導者を選ぶ市民が、被爆者が願う「人類と共存できない兵器」「すみやかに廃絶すべき悪魔の兵器」と同じ認識に至ることが必要です。そのために「核兵器が人間にもたらす惨状の真実」、「核兵器の非人道性」を人々の心に訴えていく被爆者の果たす役割と責務がますます重要になっていると痛感しています。

4.核抑止論の立場を克服するためにも、戦争放棄と戦力不保持・交戦権を否定した日本国憲法第9条は核時代の人類の規範となるべきでしょう。1999年のハーグ世界市民平和会議で、すべての国の国会が日本国憲法第9条のような決議を採択することを「公正な世界秩序のための10原則」に加えたことをあらためて想起したいと思います。
 核時代の戦争は必ずや核戦争に発展するでしょう。だとすると、国家間の戦争を無くし兵器を使わないことが最大の安全保障であり、それこそが日本国憲法第9条の規範だと考えます。あわせて、徹底した人権の保障を追求すべきでしょう。相互の不信から戦争は生まれます。不信は人権をふみにじられた貧困、差別、恐怖の支配から生まれます。21世紀の人類は生き方の転換、新たな思想の創出が求められていると思います。

◆田中煕巳(たなかてるみ)さんのプロフィール

1932年 中国東北部(旧満州)生まれ
1945年8月9日 県立長崎中学1年在学時、原爆被爆。5人の身内の命を一挙に奪われ、伯母を野原で荼毘に付す。
1960年より1996年まで東北大学工学部で研究・教育にあたる。工学博士。
1974年から 被爆者運動に関わり、宮城県原爆被害者の会、日本被団協の役員を歴任。
2000年から 日本被団協事務局長に。
1978年の第1回国連軍縮特別総会をはじめ、国の内外での、被爆の実相証言活動を行う。
2005年、2010年 NPT再検討会議期間中の国連本部での原爆展を主催(日本被団協) 
2007年、2008年 2010年NPT再検討会議第1回、第2回準備委員会NGOセッションで発言。



 
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