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今週の一言

 

消費税の問題性―納税者の権利という観点から

2010年7月12日

綿引文明さん(税理士)

 

――綿引先生は、税理士として地域の中小零細業者と苦労をともにされてきたとうかがっています。この間の経済危機、それに追い討ちをかけるような消費税増税問題が浮上している状況で、中小零細業者の現状をどうご覧になりますか。
(綿引さん)
 消費税が導入されてから21年になりますが、業者の営業と暮らしはずっと圧迫され続けています。売上単価が急激に落ち込んで、そこから回復しないのが現状です。中小零細の経営者さんの悩みには、社長一人が頑張って乗り切れる時代ではないから、職員・社員と現状認識を共有していくようにとアドバイスしていますが。

――消費税は、中小零細経営に具体的にどのような影響を及ぼしていますか。
(綿引さん)
 例えば小規模工務店が個人宅の建築を請け負ったとして、代金が2000万円なら100万円(10%になれば200万円)もの消費税が発生します。ところが、経済的余裕のない買主からは、消費税分をまけてくれという話になる。工務店側は、仕事を得なければ経営がなりたちませんから、それを断れません。条件をのんで仕事を請け負います。しかし取引が成立すれば、実際には買主(消費者)から消費税分をもらっていなくても預かったものとみなされますから、納税時にはその分を納めなくてはなりません。請負の下のほうにいけばいくほど立場は弱くなり、しわ寄せは大きくなります。
 中小零細業者は、大企業のようには消費税を価格に反映できないのが実情です。それから、輸出中心の大企業にとっては、消費税制度が有利に働くことがあるのですが、中小零細にとってはそんなメリットもない。

――消費税が大企業にとってメリットになるとは、どんな仕組みなのですか。
(綿引さん)
 輸出戻り税というシステムがあります。国内で生産した商品を海外に輸出して販売する場合、輸出売上については消費税がかかりません。さらに生産の際に部品等の仕入れのために国内で他企業に支払ったとされる消費税分5%(課税仕入れ)が、納税後還付されるという仕組みです。この還付金が、大企業1社につき何百億から何千億円にものぼるといわれています。ですから、消費税10%になれば輸出中心の大企業にとってはその倍額が戻ってくることになりますね。

――消費税は「究極の不公平税制」だといわれることがありますが、中小零細業者・大企業間の“不公平”でもあるのですね。
(綿引さん)
 そうですね。一般的には、消費税は所得のない人あるいは所得の少ない人にも課税されるという意味で、その逆進性から“不公平税制”といわれます。消費者にとって消費税が大きな負担であることは間違いないのですが、納税する中小零細業者に過大な負担を強いていることも強調したいですね。
 当初免税事業者の基準が年間課税売上高3000万円だったのが、1000万円に引き下げられてから、こんな事例が起こり得ます。例えば、一人親方の大工さんが4人のチームで仕事をする場合、1ヶ月の手間賃が1人あたり30万円だったとします。支払う側は4人のうちの代表者1人に120万円を渡します。代表者が30万円ずつ他の3人に配り、自分も30万円をその月の分として受け取りますが、いったん120万円支払われたと記録が残るので、120万円×12ヶ月、その代表者は1440万円の売上があったとみなされます。実際に受け取っているのは年間360万円ですから、本人には納税義務があるという自覚は全くない。にもかかわらず課税されてしまうわけです。
 そもそも所得税や法人税と異なり、「消費税のしくみ」そのものを今だに理解できずにいる人も少なくないのです。また、理解できたとしても、小まめに記帳するとか、請求書などの証拠書類を揃えておくといった手数をかけなければなりません。このことも、日常生活に忙しい納税者にとっては、なかなかおぼつかないのが現状であり、大きな負担になっているのではないでしょうか。

――納税者の権利という観点からも、消費税の問題性を指摘していく必要がありますね。
(綿引さん)
 そう思います。今、消費税の滞納が一番多いといわれています。先にふれたように、中小零細業者は実際には消費者から消費税を受け取っていないことも多いのですが、納税時にはそれを納めなくてはなりません。代金を受領したときに、消費税分は別途保管しておく建て前ですが、中小零細業者は明日の資金繰りに困っているわけですから、それを運転資金、場合によっては生活費に回さなくてはやっていけない。お金に色はついていません。元々これは売上、これは税金と明瞭に色分けされているわけではないですから。
 消費税の滞納で恐いのは差押です。いったん売掛金債権を差し押さえられてしまうと、次の支払いに回せなくなってしまいます。そこで何とかお金を工面して納税しようと、サラ金、ヤミ金などから高利の借金をして支払う。返せなくなって営業もくらしも破綻してしまうというケースが増えています。結果的には、納税義務者たる中小零細業者の生存権を脅かすものにもなっているんですね。
 いずれにせよ、租税の在り方については、逆進性の強い消費税の率うんぬんではなく、憲法が要請しているところの応能負担の原則に基づいて、議論を深める必要があると思います。今回の参院選では、消費税をどうするかが焦点になっていますが、軽々に消費税増税に踏み切るべきではありません。

――本日はお忙しいところ貴重なお話を有難うございました。

(2010年6月29日)
(聞き手・文責=法学館憲法研究所事務局)

◆綿引文明(わたひきふみあき)さんのプロフィール

1984年 税理士登録
現在に至る



 
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