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「慰安婦」問題の被害と加害を伝えるwamの活動

2010年7月5日

渡辺美奈さん
(アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)事務局長)

 

東アジアに平和をつくるために
 今年は2010年、日本が朝鮮半島を強制的に占領してから100年にあたるというのに、政治家もマスメディアも、日本社会全体もまるでそのことに気がついていないかのようである。政権は交代したが、在日外国人の地方参政権は実現せず、高校無償化から朝鮮学校が排除され、シベリア抑留者特別措置法からは同じ被害を受けた朝鮮人と台湾人がはずされた。一歩前進のように見える法案も、実は差別的で内外格差を強める結果になっている。
 普天間基地移設問題(沖縄への在日米軍基地過重問題)では、鳩山前首相は5月になってから、「抑止力の観点」から沖縄に、と間の抜けたことを言い出した。どこに対する「抑止力」が必要だと言っているのか? それが、かつて日本が植民地支配あるいは侵略した国々に対する「抑止力」だとしたら、やるべきことは「在日米軍基地の継続」ではない。過去の過ちを反省し、二度と繰り返さないという決意のもとに、日本軍の加害の実態を明らかにし、被害者に謝罪・補償し、その事実を記憶していくことによってアジア諸国から信頼を得る努力をすることこそ必要だ。憲法の前文にあるように、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」日本にとって、憲法9条を実現するために必要不可欠なのは、日米安保条約に拠る軍事的な抑止力を強化することではなく、近隣諸国からの信頼回復である。
 この課題の一つとして、「慰安婦」と名づけられた日本軍性奴隷制の問題もある。

wamの設立と活動
 アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(通称wam)は、敗戦から60年目の2005年8月1日にオープンした。東京・早稲田にビルの一角を借りた小さなスペースだが、「慰安婦」問題を中心に、戦時性暴力の被害と加害の証言や資料を集めた日本で初めての資料館である。ジャーナリストで女性運動家でもあった松井やよりさんは、2000年12月に開かれた「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」を発案して、実現のために奔走した人だった。しかしこの「法廷」を実現して間もない2002年に癌が見つかり、「女たちの戦争資料館を作ってほしい」という遺言を残して亡くなった。その遺志をついだ女性たちが建設運動を展開して実現したのが、アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」である。
 wamでは、特別展示スペースを使って年に1回のペースで特別展を開き、関連のセミナーやビデオ上映会などを行ってきた。また「女性国際戦犯法廷」に提出された証拠資料や証言、各国の「慰安婦」被害者による日本政府を相手取った民事訴訟関連の資料、支援者や研究者たちによって明らかにされた文書、書籍、ビデオや写真を収集・整理・保存して公開し、館内ではキーワード検索できるデータベースも設置している。また、「慰安婦」情報ホットラインの実施や、アジア各地に設置された慰安所の情報を取りまとめて「慰安所マップ」を制作するなど、調査活動も継続している。
 中学校の歴史教科書から「慰安婦」制度に関する記述が消されるなか、被害者が名乗り出て告発するまで「なかったこと」にされてきたこの「慰安婦」制度の事実を次世代に伝えていく。同時に、尊厳の回復のために自ら闘っている被害者、各地で活動する支援者と連帯して、日本政府が責任を果たすよう運動を展開するなど、活動する「アクティブ・ミュージアム」でもある。

女性国際戦犯法廷〜「慰安婦」制度の責任者と国家責任を認定した民衆法廷
 wamでは、被害を受けた国ごとに「慰安婦」制度や性暴力の被害実態を伝える展示を中心に、これまで7回の特別展を重ねてきた。各特別展の制作にあたっては、被害者が訴えた「慰安婦」裁判の支援グループ等によびかけてプロジェクト・チームを結成し、これまでに蓄積してきた記録や資料を持ち寄ってもらってパネルを作成。wamでの展示が終了すると、パネルは貸し出し可能となり、被害実態や加害兵士の証言などをリアルに伝えるメディアとして、国内外で活用してもらっている。
 開館5周年の今年、7月3日から始まった特別展は、2000年12月に開かれた「女性国際戦犯法廷」からこれまでの10年を振り返り、「法廷」とは何だったのか、そして「慰安婦」問題解決に向けた国内外の現状を伝える展示を予定している。
 「女性国際戦犯法廷」は、グローバルな市民社会の声によって発案され、設立された民衆法廷であり、模擬法廷とは思想的に違う。「国家が正義を保証する義務を履行しない場合、市民社会は介入することができるし、介入すべきである」と判決に書かれているように、「法は市民社会の道具である」と位置づけた「法廷」では、戦後の東京裁判で裁かれなかった日本軍性奴隷制に関して、証拠を調べ、正確な歴史的記録を作成し、認定された事実に国際法の原則を適用した。とりわけ、東京裁判の再開として位置づけられたこの「法廷」では、現在までの国際人権法の発展を使うのではなく、罪刑法定主義に基づき、当時の法によって性奴隷制度設置に対する個人の刑事責任を認定した。そして、日本国家の機関である日本軍が性奴隷制などの国際法違反を犯したとして、当時の違反行為とともにそれを放置した継続的違法行為に対して、日本政府の賠償責任を認定した。国連安保理が設置した国連旧ユーゴ法廷の元所長、ガブリエル・カーク・マクドナルドや、当時現職の旧ユーゴ・ルワンダ法廷のジェンダー法律顧問だったパトリシア・セラーズなど錚々たる国際法の専門家が厳格に法を適用した民衆法廷だった。「法廷は出来レースだった」という批判を耳にすることがあるが、そもそも、被害者がいいかげんな裁判を望むはずがない。「自分たちにこんな被害をもたらした責任者は誰なのか」という真実と正義に対する強い欲求から生まれた「女性国際戦犯法廷」なのだから。
 戦後日本の最大のタブーであった天皇裕仁の戦争責任も認定した「女性国際戦犯法廷」の判決は、色褪せるどころか、今、まさに読み返してもらいたいテキストである。国際法がいかに男性の視点で貫かれてきたか、ジェンダー正義ってどういうことか、少しでも関心のある方は、ぜひ特別展にいらしていただきたい。

特別展概要
第8回特別展「女性国際戦犯法廷から10年〜女たちの声が世界を変える」
会期:2010年7月3日(土)〜2011年6月26日(日)
wam開館日・時間:水〜日曜日 13:00〜18:00(月・火・祝日・年末年始は休館)
詳細はこちら
*wamは会員の会費で運営する民衆の資料館です。どうぞ会員になって支えてください!

◆渡辺美奈(わたなべみな)さんのプロフィール

1990年代より、アジア女性資料センター、VAWW-NETジャパンなど、女性の人権や戦時性暴力問題に取り組むNGOに関わり、現在は、アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」事務局長。「慰安婦」問題の解決に向けて、人権理事会や女性差別撤廃委員会等の人権機関に対する情報提供やロビイングも実践している。



 
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