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「政治主導」のための国会改革?

2010年6月14日

井口秀作さん(大東文化大学大学院法務研究科教授)

 

はじめに

 5月14日、「国会審議の活性化のための国会法等の一部を改正する法律案」が、議員立法として衆議院に提出された。その内容は、内閣法制局長官を政府特別補佐人から外し、副大臣・政務官の数を増員するというものである。同時に、政府参考人制度をなくし、新たに意見聴取会を設けるとする衆議院規則改正案も提出されている。これらの改正案も、鳩山政権の崩壊、とりわけ法案提出を主導してきた小沢一郎民主党幹事長の辞任によって、今国会での成立は絶望的となり、廃案となる可能性が高い(6月10日現在)。しかし、改正案の背景には、民主党が昨年の政権交代前から主張してきた「政治主導」という理念があることは明らかであるから、問題はこれで終わるわけではなかろう。

どのような「政治主導」か?

 民主党の主張する「政治主導」の「政治」とは、専ら政権与党による「政治」だけが念頭に置かれているように思える。とすれば、与党内の意思決定のあり方を括弧に入れたままで、「政治主導」を語ることはできないはずである。大臣・政務官の数を増やし、政府に入る与党議員が多くなれば「政治主導」が実現するというものではない。
 与党による「政治」主導という捉え方は、一方で、野党による「政治」の重要性を無視し、他方で、行政組織を「政治」のシーンから放逐することによって、かえって「政治主導」の意義を失わせる危険があるのではないかと思われる。

官僚の国会からの閉めだしは「政治主導」を実現するか?

 民主党は、政府参考人制度をなくすことが、国会議員の真剣な議論に資すると考えているようである。国会議員である政治家が、国会で責任をもって十分な議論をすべきであることは言うまでもない。現行制度においても、政府参考人は、議長の承認や委員会が必要とされた場合にだけ答弁できるとされているのであるから、必要がないのであれば、政府参考人に答弁させないことはできる。それが政府委員を廃止し、政府参考人制度を設けたことの意味であったはずである。
 問題なのは、必要な場合であっても官僚から「説明を聴く」機会をなくしてしまうことである。おそらく、「政治主導」が実現することによって、官僚は政治家の命令に従うだけなのであるから、官僚に答弁させなくとも、大臣・副大臣・政務官等の政治家が答弁すれば十分であって、官僚に答弁させることが必要な場合などはない、ということなのであろう。しかし、いかに「政治主導」が実現しようとも、政治家が行政組織に100%取って代わることができるわけではない。
 結局、政府参考人制度の廃止は、国会から官僚を閉め出すことによって、野党による官僚の責任追及する機会を失わせ、政府と官僚の関係をベールで覆うことによって、かえって、「政治主導」の実現の妨げとなるのではないだろうか。法案審議と切り離された意見聴取会が、その代替物となりうるかは、大きな疑問がある。
 政治主導については、モデルとしてイギリスのことが引き合いにだされるが、イギリス議会でも官僚答弁が禁止されているのは本会議だけであって、委員会では禁止されていないということのようである。

憲法解釈は「政治主導」の適切な場面か?

 内閣法制局長官を政府特別補佐人から外し、その国会での答弁を禁止することは、既に、1月の通常国会の開会に際して、内閣法制局長官については、内閣は政府特別補佐人の申請を行わなかったので、事実上、既に実現されている。
 内閣法制局の答弁禁止については、憲法解釈の変更の意図があるとする指摘は枚挙にいとまながない。憲法解釈も内閣法制局に縛られず、「政治主導」で内閣が行う、というのである。内閣法制局長官は、内閣が是とした政府の憲法解釈を国会で答弁してきたに過ぎない。要するに、内閣が、内閣法制局長官の口を通して、国会で政府の憲法解釈をしてきたのである。したがって、内閣法制局の憲法解釈に縛られないとは、従来の政府の憲法解釈には拘束されないという意味なのであって、問題は、政府による憲法解釈の変更の可否という問題に帰着する。

 昨年、習近平・中国国家副主席が来日した際、いわゆる「1ヶ月ルール」をめぐって、宮内庁と政府・与党が対立し、「政治主導」の下、ルールを破って、政府が、天皇との会見が実現させた。おそらく、「1ヶ月ルール」について何か合理的根拠があるかといえば、そうではなかろう。問題の本質は、ともかく天皇についてそのようなルールがある以上、政府であってもそのルールに従うべきではないのか、という点である。つまり、「政治主導」を発揮すべき場面ではなかったのではないのか、ということである。

 憲法解釈の変更について同様のことがいえる。憲法解釈は、政府が政治判断で自由に変更をしてよいというものではない。ましてや、違憲のものを合憲と解釈を変更することは、憲法改正に匹敵する。とすれば、本来、その是非を国民投票による主権者国民の同意を得るべき事柄である。安易な憲法解釈の変更は、国民投票の意義を失わせる。
 実は、憲法解釈は政府の自由な政治判断で変更できるものではない、という見解は、内閣法制局長官が繰り返し答弁してきたところである。このような見解にすら拘束されないという意思表示が、内閣法制局長官の答弁禁止の意味なのである。

◆井口秀作(いぐちしゅうさく)さんのプロフィール

1964年新潟県生まれ
一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得満期退学。大東文化大学大学院法務研究科教授
共著書『いまなぜ憲法改正国民投票法なのか』,論文「フランス型『立憲主義と民主主義』論の一側面」「『国民投票法案』の批判的検討」「『民主過程』をめぐる憲法学説」 等



 
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