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今週の一言

 

「外国軍事基地の禁止」を実現した中南米諸国の「平和憲法」

2010年6月7日

笹本 潤さん(日本国際法律家協会事務局長・弁護士)

 

――先月(2010年5月)、笹本さんは『世界の「平和憲法」 新たな挑戦』(大月書店)という本を上梓されました。
 まず、この本の中で紹介している中南米の新しい「平和憲法」の動向について教えてください。

(笹本さん)中南米諸国では、1990年代から2000年代にかけて、経済格差をひろげてきた新自由主義的な政策が破綻し、その大元であるアメリカの支配を脱しようとする大統領を擁する左翼政権が次々と誕生しました。ベネズエラのチャベス大統領、ボリビアのモラレス大統領、エクアドルのコレア大統領などです。
 それらの新しい政権のもとで、パナマではコスタリカ同様に「軍隊を撤廃」し(94年)、ベネズエラ(99年)、エクアドル(08年)、ボリビア(09年)では「外国軍事基地の禁止」を条項に書き込んだ「平和憲法」ができたのです。
 なかでもエクアドルは、99年にアメリカとの間で10年間の基地使用協定を結び、民間空港であるイーロイ・アルファロ国際空港は米軍基地として使われるようになりました。基地周辺では米軍による犯罪が多発し、次第にエクアドル国民にも基地の実態が明らかにされていきました。基地に反対する市民の運動は年々高まり、ついに07年には米軍基地撤去を掲げるコレア大統領が誕生し、その翌年、国民投票によって、「外国軍の軍事基地を禁止する」憲法が制定されたのです。
 この憲法に基づいて、エクアドル政府はアメリカに基地使用協定の更新拒否を通告し、米軍は国外へ出ていきました。
 エクアドルは、政権が変わったことを力にして、「平和憲法」を作り、政府も市民も、アメリカに対して堂々と、基地撤退をつきつけました。その結果、米軍基地撤去が実現したのです。
 09年に日本も新しい政権に変わりましたが、まだ中南米ほどに変わってはいません。基地問題に関しても、アメリカの言うことばかり聞いていてはだめだと思います。政権交代を成し遂げた国民の力をよりパワーアップしていき、政権交代の流れを逆戻りさせないようにしなければなりません。

――笹本さんは、9条世界会議終了後、コスタリカに留学されました。また世界各国で開催される国際会議などに出席され、世界の法律家や市民とのネットワークをひろげる活動を続けていらっしゃいますが、世界に出て気づいたことはなんですか? 
(笹本さん)コスタリカは、憲法上も実際も「軍隊のない国」です。コスタリカの人たちには「日本は9条があるのに、なぜ自衛隊がいるのか?米軍基地があるのか?」とよく聞かれました。改めて、日本の今の状況は9条違反だということに気づかされました。
 また米軍基地の問題についてもそうですが、世界が連帯すれば、共通に取り組める問題はたくさんありますし、アメリカに対しても有効だと思います。「武力によらない平和」を掲げる9条の価値は普遍的なものでありますし、9条は世界の平和運動の理念として目標になっているのです。
 いま、アジアに「人権裁判所」をつくることが必要だと思っています。中南米にもヨーロッパにもある地域の「人権裁判所」がアジアにはありません。
 一国ではどうすることができない問題でも、人権裁判所にもっていけば、外国や国連などの水準から、その国の判決がくつがえされ、解決の道が見つかるものもあるでしょう。中南米では軍事政権で裁判所も政府寄りに偏った国が多かったのですが、そのようなところでは米州の人権裁判所ではじめて救済されたという事例が多くありました。日本の場合でも例外ではありません。日本の裁判所ではなかなか救済されない「米軍基地」や「表現の自由」の問題、また時効や国家無答責を理由に最高裁で勝つことができない「戦後補償問題」などが、人権裁判所で救済される可能性もあると思います。
 
――この本で一番伝えたかったことはなんでしょうか? 法律家をめざす人たちに送るメッセージがあったらお願いします。
(笹本さん)『世界の「平和憲法」新たな挑戦』という本のタイトルにその思いをこめました。中南米諸国のように「平和条項」をおりこんだ「平和憲法」をもつ国を世界に一つでも多くふやすことも、もちろん新たな挑戦ですが、コスタリカのように「平和憲法」を実現している国でも、常にそれを法律家や市民が監視していかなければやぶられてしまうのです。それを守らせることも、また「平和憲法」の新たな挑戦なのです。
 そして、私たちにとっても9条のように「平和憲法」があっても、平和条項が実際にはやぶられている国では、平和憲法を実現させることもまた「挑戦」です。またそういう意味で、「平和憲法」をもつ私たちにとっても、いまは挑戦のときです。
 これからの法律家は、目の前の事件を一生懸命やるのと同時に、ひろい視野でものをみて活動することが求められていくでしょう。国際的といえば若くて優秀な人材が渉外弁護士になっていますが、世界の平和や人権の問題を扱う弁護士がもっと必要です。特に、今後数十年かけて議論される「アジア共同体」の中でそういった問題に取り組むことは、意義もあるし、やりがいもあると思います。結局はそれが日本の平和や人権にも影響してくるのですから。

(聞き手・文=フリー編集者・北川直実)

◆笹本潤(ささもとじゅん)さんのプロフィール

1962年東京生まれ。東京大学法学部卒業。あかしあ法律事務所所属・弁護士。日本国際法律家協会(JALISA)事務局長。9条を世界にひろめる「グローバル9条キャンペーン」に取り組み、毎年世界各地で開催される国際会議や市民集会に積極的に参加し、海外の法律家やNGOなどとの交流・ネットワークづくりを進めてきた。「9条世界会議」発起人の一人。2008年6月〜12月には、コスタリカに留学、中南米の憲法問題を調査・研究してきた。
共編著書に『5大陸20人が語り尽くす憲法9条』グローバル9条キャンペーン編(かもがわ出版)、『9条は生かせる』9条世界会議国際法律家パネル編(日本評論社)。今年5月に上梓したばかりの近著に、『世界の「平和憲法」新たな挑戦』(大月書店)がある。



 
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