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NPT再検討会議に向けての日本の法律家の取り組み

2010年5月31日

大久保賢一さん(日本反核法律家協会事務局長・弁護士)

 

問題意識

 5月3日から28日までの日程で、NPT再検討会議が行われた。昨年4月のオバマ大統領のプラハ演説以降、「核兵器のない世界」に向けての気運が高まっている中での会議であった。この会議の結果が、「核兵器のない世界」を大きく前進させるかどうかは、期待はしたいが、楽観はできない。なぜなら、オバマ政権は、ブッシュ政権と比較すれば、核軍縮を進め、核兵器の役割を低減させる方向にあるとはいえ、「核抑止論」の立場をとり続けているからである。加えて、NPT自体のもつ不平等性が非核兵器国の不満を昂じさせる恐れがあるからである。
 既に、再検討会議の結果が公表されているが、本稿執筆時点では、その帰趨を予想することは難しい。けれども、私は、再検討会議の結論がどのようなものであれ、「核兵器のない世界」に向けての努力を継続し続けたいと考えている。超核兵器大国の政治リーダーが、核兵器の恐怖を言い、「核兵器のない世界」を目指す道義的責任を公言している有利な条件を生かしたいからである。

日本の法律家グループの取り組み

 ところで、私たちも、「唯一の被爆国」の法律家として、何らかの情報発信と行動をしたいと考えていた。具体的には、@)NPT事務局に意見書を提出すること、A)被爆者援護や核兵器廃絶に向けての日本の法律家の取組の報告書を作成し、米国の法律家と交流すること、B)独自のチラシをニューヨークで配布することなどである。NPTへの提言の骨子は、2020年までに核兵器を廃絶すること、そのために「核兵器禁止条約」に向けての交渉を即時に開始すること、核兵器使用の違法性を再確認すること、非核兵器国への核兵器使用を禁止すること、「非核地帯」を拡大することなどであった。そして、特に強調したことは、被爆の実相を基礎に置き、「力の支配」から「法の支配」への国際社会の転換であった。また、米国法律家との意見交換では、「原爆症裁判」の到達点と今後の課題などをテーマとした。「原爆症裁判」については、彼らも高い関心を示すテーマであった。なお、独自チラシ5000枚を短時間で配布できたことも報告しておきたい。(意見書や報告書の内容は、日本反核法律家協会のホームページを参照。)

克服されるべき課題

 私たちの想いは、被爆者や反核NGOと同様に、単に核兵器の拡散防止だけではなく、核兵器を廃絶することである。被爆者の主張は「ふたたび被爆者をつくるな」である。この背景にあるのは、彼らが体験し、今も体験しつつある原爆被害の凄惨さである。戦闘員・非戦闘員の区別なく、大量かつ残虐に人々を殺傷し、65年を経てもその肉体的・精神的痛苦から解放されていない原爆被害の実相を知れば(決して全貌を知ることはできないであろうが)、核兵器が人類と共存できないことを確認できるであろう。にもかかわらず核兵器廃絶が国際社会で本格的な動きになっていない主な原因は、核兵器国とそれに同調する国家が主張する「核抑止論」である。ここで「核抑止論」とは、「我が国に攻撃を仕掛ければ、核兵器による反撃を受け、貴国は消滅するぞ」という威嚇を背景として、国家の安全保障を確保しようという発想である。更にその根底にあるのは、国家の安全を武力で確保しようという観念である。核兵器は人知では制御できない「最終兵器」である。武力で紛争解決を肯定する限り、「最終兵器」を手放すことはできないであろう。私たちは、この「核抑止論」という倒錯した価値と論理を克服しなければならないのである。

どのように克服するか

 核兵器廃絶運動の源泉は、第1に原爆被害の実相である。その非人道性、犯罪性を広く知らせることである。第2は、核兵器の使用は一般的に違法とされているし(国際司法裁判所勧告的意見)、広島と長崎への原爆投下は国際人道法違反とされていること(東京地裁判決)を再確認することである。むき出しの「力の支配」から「法の支配」へと、人類社会は着実に変化しているのである。第3に、日本政府の欺瞞性を暴露し、その姿勢を転換することである。日本政府は「唯一の被爆国」として核兵器廃絶を求めるとしているが、他方では米国の「核の傘」に依拠しているのである。この二枚舌的対応が「核密約」である。第4に、武力で国際紛争を解決しようとすれば、核兵器が排除されず、その廃絶は実現しないであろうから、武力での紛争解決を止め、全面的軍縮への道を指し示すことである。憲法9条の世界化である。

 このような問題意識を背景に、日本弁護士連合会は、6月14日(月)午後6時から、霞が関の日弁連会館で、NPT再検討会議を踏まえ、「核兵器のない世界」を展望するシンポを企画している。皆さんの参加を心から呼び掛けるものである。

(2010年5月17日記)

◆大久保賢一(おおくぼ けんいち)さんのプロフィール

1947年生まれ。東北大学法学部卒業。弁護士。埼玉弁護士会所属。日本反核法律家協会事務局長。



 
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