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日米地位協定と米兵犯罪をめぐる密約

2010年5月24日

吉田敏浩さん(ジャーナリスト)

 

 核持ち込み密約など4つの日米密約について、外務省による調査がおこなわれた。
 しかし、政府がまだ事実解明に踏み切っていない日米密約がある。それは日米地位協定に関する密約群である。
 その密約群のうち、米兵犯罪をめぐる刑事裁判権と民事裁判権に関する様々な密約について私は調査し、事実を明らかにした。それをまとめたのが、今年3月末に出版した『密約 日米地位協定と米兵犯罪』(毎日新聞社)である。
 まず、国際問題研究者の新原昭治さんが米政府解禁秘密文書から発見した、米兵犯罪の裁判権放棄の密約がある。「(日本の当局は)日本にとって著しく重要と考えられる事件以外については、第1次裁判権を行使するつもりがない」として、事実上、裁判権を放棄するものだ。
 それは1953年の日米合同委員会裁判権分科委員会刑事部会での日本側部会長(法務省官僚)の声明として非公開議事録のかたちで残された。
 本来裁かれるべき米兵の犯罪が、密約によって見逃されているのである。これは頻発する米兵犯罪の被害者の命と人権、刑事裁判権の行使という主権の根幹にも関わる重大な問題である。
 この密約の存在を裏付けるように、法務省による米兵犯罪統計からは、米兵犯罪刑法犯の起訴率が驚くほど低い実態が浮かび上がる。2001年〜08年の米兵犯罪刑法犯の起訴率17.3%に対して、同時期の全国の一般刑法犯の起訴率48.6%。このように米兵犯罪に対する甘い処理が、後を絶たない米兵犯罪の温床になっている。
 また、米軍人・軍属の逮捕と身柄引き渡しをめぐる密約もある。「公務執行中であるか否かが疑問であるとき」、つまり公務中なのかどうかはっきりしない場合でも、被疑者の身柄を米軍側に引き渡すとされている。
 しかしそれは、「公務執行中だと明らかに認められたときは身柄を米軍側に引き渡す」という、安保刑事特別法第11条の規定と食い違っている。なんと法律よりも密約を優先させているのである。
 さらに、米兵の通勤途中や公の催事での飲酒後の交通事故も公務執行中に含まれる、という公務の範囲の拡大解釈を認めた密約もある。
 民事裁判権に関しても、米軍の事故や米兵犯罪の被害者が賠償責任を求める民事裁判に、米軍は米国の利益を害する情報や軍事機密に属する情報は証拠などのために提供しなくてもいいという密約である。
 日米地位協定の密約群を生み出したのは、軍事優先・米軍優位の論理である。それは不平等な日米地位協定に基づいている。
 米兵による強盗殺人事件やレイプ事件の被害者たちは、密約が米兵犯罪の温床になっていると訴える。横須賀で金目当ての米兵によって妻を惨殺された夫は、「人の命よりも日米同盟が重いのか!」と悲痛な声をもらす。
 しかし、歴代の政権はこれらの密約の存在を否定してきた。密約が記された「法務省秘密資料」が国会図書館に所蔵されているのを知った法務省が、外務省とも連携しながら、それを非公開にするよう国会図書館に要請するなど、国家による情報隠蔽もおこなわれてきた。国家機関の秘密主義によって「知る権利」が侵されている。
 日米安保・地位協定と密約群。密約群の存在は、軍事優先の闇の核心を持つ日米安保体制の構造を炙りだしている。
 今年は日米安保条約改定50周年である。日米関係のあり方を根本から考えるためにも、日米地位協定の密約群の解明、日米合同委員会の合意事項全文や過去の米兵犯罪・事故統計すべての情報公開が必要だ。そして、密約を破棄すべきである。
 密約問題を通して、日米関係のあり方だけでなく、日本の民主主義のあり方も問われている。

◆吉田敏浩(よしだとしひろ)さんのプロフィール

 1957年、大分県生まれ。ジャーナリスト。アジアプレス所属。
 ビルマ北部のカチン人など少数民族の自治権を求める戦いと生活と文化を長期取材した記録、『森の回廊』(NHK出版)で96年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
 近年は現代日本社会の生と死の有り様、戦争のできる国に変わるおそれのある日本の現状を取材。
 著書に、『北ビルマ、いのちの根をたずねて』(めこん)『夫婦が死と向きあうとき』(文春文庫)『生と死をめぐる旅へ』(現代書館)『民間人も「戦地」へ』
(岩波ブックレット)『ルポ 戦争協力拒否』(岩波新書)『反空爆の思想』(NHKブックス)『密約 日米地位協定と米兵犯罪』(毎日新聞社)『人を“資源”と呼んでいいのか』(現代書館)  など。



 
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