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このまま施行してよいのか?!憲法改正手続法

2010年5月3日

菅沼 一王 さん(弁護士・日本弁護士連合会憲法委員会事務局長)

 

目前に迫った憲法改正手続法施行

 憲法改正について、憲法96条1項は「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と規定しています。
 この憲法改正のための具体的手続を定める憲法改正手続に関する法律(憲法改正手続法。法案立案段階では「国民投票法」と言われていました。)は、2007年5月18日に公布されましたが、附則1条は「この法律は、公布の日から起算して3年を経過した日から施行する。」と規定していますので、このままでは2010年5月18日に施行されることとなり、その施行期日は目前に迫っています(なお、憲法審査会の設置など国会での審議手続に関する部分は既に公布と同時に施行されています)。

欠陥だらけの憲法改正手続法

 憲法は、国民の基本的人権を保障するために権力を制限する根本規範であり、改正には憲法改正権者である国民の意思が的確に反映されなければなりません。
 しかしながら、憲法改正手続法は、(1)最低投票率の規定がないため、少数の投票者の意思により憲法改正が行われるおそれがあること、(2)改正案の発議について、「内容において関連する事項ごと」に区分して行うとされているが、どのような場合に内容において関連するのかの基準が曖昧であり、国民の意思が正確に反映される投票方法となっていないこと、(3)公務員及び教育者の地位利用に対する規制について、罰則の定めはないものの運動自体を禁止しており、国民が広く憲法改正の議論をすることについて萎縮効果を与えること、(4)改正案の発議から投票まで60日以上180日以内とされているが、憲法改正という重大な問題について国民が十分に情報を得て議論を尽くすには短かすぎること、(5)メディアの報道や有料広告のあり方についても十分な審議が尽くされておらず、このままでは資力のある者のみがテレビ・ラジオや新聞を使った運動が出来ることとなりかねないこと等、多くの重大な問題点をはらんでいます。
 憲法改正手続法が十分な審議を経ていない不十分なものであることは、法案成立の際に、参議院憲法改正に関する調査特別委員会において18項目にも亘る附帯決議がなされたことからも明らかです。しかも、18項目のうち、特に、「成年年齢」、「最低投票率」、「テレビ・ラジオの有料広告規制」の3点については、「本法施行までに必要な検討を加えること」とされているのです。
 また、憲法改正手続法には、国民投票運動を規制するのみならず、違反に対しては刑罰も科すことができるという規定もあります。憲法改正国民投票について、はたして選挙違反と同じような行為がなされるのかは疑問ですし、選挙運動と同じように刑罰をもってしてまで規制をすることは、そもそも国民が憲法改正について自由に議論をすることについての萎縮効果をもたらすのではないかという危惧もありますが、さらに問題なのは、どういう場合に処罰されるのかが規定上必ずしも明確でないことです。だからこそ、附帯決議には「罰則について、構成要件の明確化を図るなどの観点から検討を加え、必要な法制上の措置を含めて検討すること」という項目まであるのです。これは、憲法改正手続法の規定が「どのような行為が犯罪であり、どのような刑罰が課せられるかを、予め法律に規定しておかなければならないという、近代自由主義刑法の基本原則である罪刑法定主義に反することを、参議院憲法改正に関する調査特別委員会みずからが認めているからにほかなりません。このように、憲法改正手続法は、このままでは、欠陥だらけの法律と言わざるをえないのです。
 そこで、憲法改正手続法が公布されたときから、弁護士会などの団体や、国民の中から、国会に対し、施行までの3年の間に、附帯決議がなされた事項にとどまらず、憲法改正権者は主権者である国民であるという視点にたち、真に国民の意思を反映した国民投票ができるような法律にすべく抜本的な見直しがなされるべきであるという声があがっていたのですが、結局、そのような検討はほとんどなされないまま、3年が過ぎようとしているのです。

必要な法整備もまだ

 また、憲法改正手続法は、附則において、「この法律が施行されるまでの間に」、投票年齢の問題に関しては、「年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」とし(附則3条)、公務員の政治的行為に対する制限に関しても、「公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」としていますが(附則11条)、これらのいずれについても、いまだ必要な法制上の措置は全く講じられていません。

抜本的見直しを

 そこで、日本弁護士連合会や各地の弁護士会では、このような憲法改正手続法の問題点や、附則および附帯決議が求めている検討がほとんどなされておらず、必要な法制上の措置が講じられていない現状では、同法の施行は延期されるべきであるとの会長声明を出しており、マスコミからも、「国会は与野党協議の場を設け、同法の扱いを論議すべきだ。」という意見も述べられています(北海道新聞4月18日朝刊)。
 このまま憲法改正手続法を施行するのではなく、早急に、同法の附則1条を改正して、同法の施行が延期されるべきであり、そのような改正が間に合わなければ、施行を事実上凍結してでも、その内容について抜本的な見直しをすることが必要です。

※日弁連・憲法改正手続法の施行延期を求める会長声明はこちら
※東京弁護士会・憲法改正手続法の施行延期を求める会長声明はこちら

◆菅沼 一王(すがぬま いちおう)さんのプロフィール

1950年 東京都生まれ
弁護士 日本弁護士連合会憲法委員会事務局長、東京弁護士会憲法問題対策センター委員長代行憲法に関する主な著作として、笠松健一と共著「Q&A 国民投票法案」大月書店2005年10月、「このまま通しちゃいけない国民投票法案」週刊金曜日2007年3月2日号、「憲法改正をめぐる問題状況について」自由と正義2004年3月号、「切迫する憲法改正問題」自由と正義2004年9月号など



 
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