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国の責任が問われるアスベスト問題

2010年3月8日

南雲芳夫さん(首都圏建設アスベスト訴訟弁護団・弁護士)


○ 首都圏建設アスベスト訴訟とは?

 首都圏建設アスベスト訴訟は、 2008年5月16日に東京地裁、同年6月30日に横浜地裁に提訴されました。原告である数は、患者単位で、計212名です。被告は、アスベストによる健康被害をもたらした国とアスベスト含有建材の製造メーカー45社です。原告らは、被告らに対して、健康や命を奪われたことに対して、謝罪と損害賠償を求めて立ち上がったものです。

○ 建設作業従事者にアスベスト疾患が多発する理由は?

 原告らは、いずれも建設作業従事者です。わが国においては、アスベストはほとんどが輸入にたよっていますが、その7割以上が、建材に使用されてきました。そのため、建設作業に従事する職人は、建設現場において鉄骨への吹付材や、保温材、内装材、外装材など多種多様のアスベスト含有建材を切断等する中で、アスベスト粉じんを繰り返し吸い込みました。そして、肺がん、中皮腫、石綿肺などの重篤な石綿関連疾患に罹患し、健康や生命を奪われたのです。わが国の石綿ばく露作業による労災認定件数の内、約2分の1は建設業に集中しています。労災認定件数が建設業に集中しているのは、建材メーカーが、建材の製造・販売に際して多量のアスベストを利用してきたことの結果といえるのです。

○ 国とアスベスト建材製造企業は危険性を知っていたこと

 アスベストの危険性については、1955年のドール報告によって肺がん等のがんを引き起こすことが知られるに至りました。また、1965年には、ニューヨーク科学アカデミーの報告により、少量のアスベスト曝露によっても中皮腫という特異ながんに罹患することも知られるに至りました。さらに、1972年には、ILO・WHOという国際機関においてアスベストの発がん性が公式に明らかにされたのであります。
 こうしたアスベストの危険性が知られるに至った以上、建材メーカーとしては、建設作業従事者や建物に居住する住民の健康への悪影響を避けるために、アスベストの危険性を警告する、または建材製造に際してアスベストを使用しない義務を負うべきことは当然といわなければなりません。
 また、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障した憲法25条、及びその趣旨を受けた労働安全衛生法や建築基準法において、労働者など建設作業従事者の健康保持のための施策を採るべきことを義務づけられている国においては、アスベストの使用を禁止する措置を取ることが当然に求められるものです。
 しかし、わが国のアスベスト輸入量は、まさに、アスベストの発がん性が広く知れ渡るその時期に急激に増加したのです。そして、その7割以上が建材に投入されたことは前記の通りです。
 規制を行わなければならないその時期に、まさにアスベストを大量に輸入し、特に建材に大量に使用するに至ったものであり、識者は、これを「ブレーキを踏まなければいけないときに、逆にアクセルを踏み込んだ」と評しています。

○ 法律上の争点と訴訟の経過

 裁判の主要な争点は、1,憲法25条、及び労働安全衛生法や建築基準法に基づいて必要な規制を行うべきであったにもかかわらず、国が規制を怠ったことが国家賠償法上で違法と評価されるか。2,多種多様の建材からの複合的な曝露について、建材メーカーが共同不法行為責任を負うか、などです。既に主張整理と並行して医学者の証言、作業に伴う粉じん曝露の実態を示すビデオの検証、代表的な職種についての曝露実態に関する原告本人尋問などが進められています。提訴時に半数の原告が死亡に至っていましたが、その後も、肺がん・中皮腫という重篤な疾患のため、多くの原告が裁判の結果を見る前に他界しています。原告団としては、来年早期に結審することを目指しています。

○ 泉南国賠訴訟と連動して、制度的な解決へ

 これまでアスベスト被害については、おもに、雇用契約に基づく安全配慮義務違反を理由としての損害賠償を求める裁判が闘われており、多くの成果が積み上げられてきました。これに対して、本件では、建設作業従事者が、多くの職歴を経験していること、雇用されることなく一人親方の形で就労する者も多いことなどから、国と建材メーカーの責任を追及する新しい訴訟となっています。
 国の責任を追及する訴訟としては、石綿産業の集積地であった大阪府泉南地域における大阪・泉南アスベスト国家賠償訴訟が先行的に提訴されており、既に結審し、本年5月19日には判決を迎えます。
 泉南事件の判決と連動し、国と建材メーカーの責任を明らかにする判決を梃子として、アスベスト新法の抜本的な改正、さらには被害救済基金の創設など、恒久的な救済制度の確立に向けて、力を集中すべき時期が近づいているといえます。

◆南雲芳夫(なぐも よしお)さんのプロフィール

1959年、埼玉県生まれ。
1986年 弁護士登録(横浜弁護士会)
1995年 埼玉弁護士会に登録替え(けやき総合法律事務所)
川崎大気汚染公害裁判、東京大気汚染公害裁判、東京電力思想差別裁判、東京海上横浜支店長付き運転手くも膜下出血事件などを担当。自由法曹団埼玉支部幹事長。



 
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