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今週の一言

 

人間らしい働き方を求めて−非正規労働者のたたかい

2010年3月1日

「 明玉さん(弁護士)


1.直接雇用求め、三菱電機を提訴

 2009年3月9日、三菱電機名古屋製作所(以下、三菱)で就労していた3名の派遣労働者が、三菱に対する雇用契約上の地位の確認等を求めて、名古屋地方裁判所に訴えを起こした。
 原告ら3名は、それぞれ派遣会社フルキャストファクトリー、ヒューマントラスト、インテリジェンスに所属して三菱に派遣されていた登録型派遣労働者であり、2009年1月から2月に掛けて、リーマンショック後の減産を理由とする「派遣切り」により職を失った。原告のうち2名は製造業への労働者派遣が適法とされる2004年以前から、別会社に所属して偽装請負状態で働いており、それぞれの就労期間を通算すると、6年8ヶ月、5年2ヶ月にもなっていた。両名は、一家の大黒柱でもあり、突然の失職は支えるべき家族がそろって路頭に迷うことを意味した。解雇通告は12月になされたが、同時に社員寮からの退去を求められ、真冬に家まで失いかけた原告もいた。
 正社員同様に三菱に貢献してきたのに、不況となれば真っ先に切り捨てられ、家族を抱えて何の保障もない、このような働かせ方が許されるなら生きてはいけない、そうした悲痛な思いが提訴につながっている。

2.常用雇用の代替としての派遣労働の実態

 原告らは裁判で、原告らと三菱との間には黙示の雇用契約が成立しており、解雇は適法な整理解雇に当たらず無効と主張している。
 派遣労働者が派遣先に対して直接雇用を求める、このような主張に対しては、「何故派遣元ではなく派遣先への提訴なのか」と疑問を持たれる方もいるかもしれない。
 しかし、原告らの就労実態を見れば、派遣先三菱が正社員雇用の代替として請負ないし派遣という形式を利用し、利益を蓄積した過程が顕著であり、大企業である派遣先こそ雇用責任を果たすべきであることがおわかりいただけると思う。
 三菱が偽装請負を行っていたことは先に述べたが、三菱は、請負会社の社員が請負会社との契約を結ぶ前に、三菱の社員による研修と実技試験を受けさせ、事前面接を行っていた。こうして自社の業務に適した人材を得た上、正社員と同様に指揮命令をし、三菱の社内資格を取得させ、独自の業務改善活動にも参加させるなど、三菱に最大限利益が上がるようにその労働力を活用した。
 途中、偽装請負の相手方会社が一般労働者派遣事業停止命令処分を受けると、契約形式を派遣に切り替えて人材を維持し、偽装請負時代と何ら変わらない態様で原告らを働かせた。そのため、派遣労働契約に明示された業務内容は原告らが実際に従事している仕事と異なっていた。派遣会社との団体交渉により、解雇される派遣社員を三菱が選定したことも明らかになっている。
 このように原告らの働き方は、「派遣」とは形式だけで、正社員のそれと何ら変わらなかった。しかし、正社員なら享受できたはずの労働者としての保障は何もなかった。対して、派遣労働者の使用で、労務管理コストを節約できたであろう三菱の純利益は、2003年以降急激な伸びを示している。これが多くの派遣労働の現場の実情であり、三菱で現実に起こっていたことである。

3.大企業の雇用責任を問う

 原告らのような派遣労働者の存在は、製造業務への派遣解禁以降、急速に広まりを見せ、比例するように大企業の利益は増大している。原告らの労働と解雇の実態は、労働者の中間搾取が放置されていた時代をほうふつとさせる。そこでは労働者は、「モノ」であるかのように取引され、不要となると切り捨てられる。
 原告の中には、解雇を告げられた後将来への不安から一家心中を考えた人もいる。「私たちは人間扱いされていない。三菱には死に直面した人間の気持ちは分からない」というその原告の言葉からは、労働は生活の根幹であること、その根幹を脅かすことは命そのものを脅かすものであることが切実に感じられる。一方で人の命が脅かされているというのに、その代価は一部大企業と株主の利益であり、労働者自身には還元されない仕組みに問題があることは明らかであろう。
 このような働かせ方を許す製造業への登録型派遣の問題性に加え、本件では、違法な偽装請負も問題となっており、三菱の雇用責任は厳しく追及されるべきである。本件裁判は、製造業派遣労働の実態を明らかにして、三菱の雇用責任を問い、原告らの生存権を実現していくと同時に、製造業派遣、登録型派遣の全面禁止に向けて世論を喚起することをも目指すものである。

◆「 明玉(ペイ ミョンオク)さんのプロフィール

1980年長野県生まれ
2008年弁護士登録(愛知県弁護士会)
弁護士法人名古屋北法律事務所所属
日本労働弁護団団員。青年法律家協会会員。



 
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