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「かっこいいとはこういうことさ!」などと……。

2010年2月22日

高畑 勲さん(アニメーション映画監督)

※以下は、ドキュメンタリー映画「しかし それだけではない。――加藤周一 幽霊と語る」(2010年2月27日(土)より渋谷シネマ・アンジェリカにて公開、他順次ロードショー)映画紹介チラシに掲載された高畑勲さんの文章を、許可を得て転載したものです。(法学館憲法研究所事務局)


 加藤周一氏がなくなって一年有余、氏を惜しむ声は絶えるどころか、氏からあらためて学ぼうとする人はますます増えている。書物だけではない。NHKでも追悼番組やインタビュー番組が流され、九条の会などでの講演記録もDVD化されている。その一部は、この映画にも含まれている。
 けれども、この映画はそれらの映像とはまるで違う。これは禁欲的な数少ない映像とたっぷりした思弁的時間によって、加藤周一が、なぜ加藤周一になりえたのかを、そして加藤周一がついに何者だったのかを、加藤氏みずからの言葉で浮かび上がらせようという、いや、観客に考えさせようとする、きわめて野心的な作品だ。私はあたかも一冊の書物を熟読するかのように、貧弱な頭の中をいっぱいにしながら、これを「熟視聴」しないわけにはいかなかった。
 加藤氏の主著は『日本文学史序説』など数冊の日本文化論である。氏は、世界の人々に(ということは私たち現代日本人にも)理解できる言葉で、「今=ここ」に生きる日本人と日本文化の本質、その具体的な特性を見事に解き明かした。
 いったい、あれほど論理的で緻密な思考を自分のものとし、西洋的なるものが肌に合っているようにみえた加藤氏が、どうして飽きもせず、あれほど日本の文化のなかに深く分け入ることができたのか。なぜ日本文化批判一辺倒や冷たい分析だけになってしまわないで、皮肉を交えつつも、同時にそれを愛することができたのか。『羊の歌』を読んだからといって、必ずしも充分に納得できなかったその根本のところが、この映画のおかげで、私にも少しはわかったような気がした。戦中、未来のない、いつ死が訪れるかもしれない学生時代に、これまた失ってしまうかもしれないものとして味わった文楽や夢幻能について、そして自分たちと重ね合わせずにはいられなかった悲劇の人、源実朝について語った後、氏は言う。
 「若いときに一番心を揺さぶられたものは、そういう、失われた文化に対する強いノスタルジーみたいなもの、郷愁みたいなものが、なんていうかな、自分の中に入ってくるというか、心情の形成に強い役割を演じて、そして今に至るまで、ついにだから一生の間、それから完全には離れませんね。」
 しかもこれが、戦争で失った友への思いから発する絶対的な反戦主義と根っ子で結びつき、滞欧経験がそれを鍛え上げて、加藤氏の終生のテーマ、反戦(および自由)と日本文化の相対化という二つの大きな柱を形成することになる。
 この映画では、生と死など、さまざまな対比が話題となるが、そこに彼岸と此岸の対比はなく、あるのは生きている者(加藤氏)と幽霊(対話さえできる死者)の対比だ。加藤氏に「幽霊と語」らせようとしたのはおそらく映画制作者のたくらみだが、この対比は、夢幻能のように優れて「今=ここ」的であり、それにやすやすと乗る加藤周一氏は、あれほど一見西洋的でありながら、同時に日本人の一人であることの自覚がはっきりあったのだと思う。
 この映画を見て、加藤周一氏の人生のあまりの一貫性・整合性に感嘆し、思わず「かっこいいとはこういうことさ!」などと言ってみたくなるのだった。

◆高畑 勲(たかはた いさお)さんのプロフィール

1935年生まれ。三重県出身。大学卒業後東映動画に入社。「狼少年ケン」などを演出した後、1968年「太陽の王子・ホルスの大冒険」を初監督。いくつかのプロダクションを経て1985年、宮崎駿氏らとともに、スタジオジブリ設立に参加。この間、「アルプスの少女ハイジ」「じゃりん子チエ」「セロ弾きのゴーシュ」「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」「ホーホケキョ・となりの山田くん」などの劇場用映画、 TVアニメを監督した。「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」のプロデューサーでもある。
 著書に「映画をつくりながら考えたこと」「同U」「木を植えた男を読む」など。最近、ジャック・プレヴェールの詩集「ことばたち」を全訳した。
 2004年11月には、神山征二郎監督らとともに、「映画人九条の会」の結成に呼びかけ人として参加。


※映画情報
ドキュメンタリー映画「しかし、それだけではない。――加藤周一 幽霊と語る。」
出演:加藤周一
製作: 加藤周一映画製作実行委員会 矢島翠 / 桜井均
プロデューサー: 桜井均 / 石紀美子 / 河邑厚徳
監督: 鎌倉英也
協力: スタジオジブリ / ウォルト・ディズニー・ジャパン
2009年 日本映画 ドキュメンタリー 95分(予定)
公式サイトはこちら

※映画製作に携わられた桜井均さんには、加藤周一編『憲法9条新鮮感覚―日本・ドイツ学生対話』(法学館憲法研究所双書)出版記念講演会で語っていただきました。その内容を当サイト「今週の一言」でご紹介しています。



 
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