法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

三権分立の重要性〜「請求権放棄と地方議会を考える」シンポジウムにご参加ください

2010年2月15日

丸山美子さん(檜原村住民訴訟原告・檜原村議会議員)

 檜原村は、山間の人口2700人の村です。過去のピーク時には6600人余りいた人口が年平均70人ほどの自然減と村を出ていく人とで、あっという間に2000人台に至っています。働く場所や学校、病院の問題などを心配して村を出る人々が後を絶ちません。
 将来を担う若者たちに、この村でずっと暮らしていくことが幸せなのだと胸を張っていえるだろうか、そんな思いで議員活動をしてきました。そういった観点からすると、村の行財政には首を傾けざるを得ないような問題がみえてきました。

 その象徴的な一つが、「過去、嘱託員(課長退職後)を1年契約で採用し年額200万から300万円の報酬であったものが、平成17、18年度については2年契約の年額1000万円と異常な高額になった」という問題でした。対象となった嘱託職員は、早期勧奨退職によって60歳前に退職し、上乗せした退職金も受け取っています。その一方で、他、すべての非常勤職員の雇い止めと再雇用が強行されました。
 これはおかしいということで、まず住民監査請求を行いました。監査結果は「嘱託職員が3つのポスト(郷土資料館長・図書館長代理・新図書館建設関連業務)を兼務しており、それぞれの賃金を合算した金額であるので何ら問題なし。また、嘱託職員と契約することも村長の裁量内」という判断でしたから、2005年10月東京地裁に提訴しました。
 東京地裁(一審)判決(2007年4月)は、嘱託職員が専門家ではなく、職務に専門性もないことを認める一方、賃金が「いささか高額に過ぎる」ものの、直ちに違法不当とはいえず「請求を棄却する」というものでした。そこで2007年5月に東京高裁に控訴しました。
 控訴審が始まってすぐに、裁判所は被告の村に対し、和解も視野に入れた「準備手続き」に入らないかと促しました。この準備手続きでは、条例に基づかず“内規”のみが根拠となって報酬を支給する契約は、地方自治法203条に抵触するということで、この状態を解消するため、条例作りから始まったわけです。そこで村の出してきた条例案というのは、管理職手当や期末手当など地方自治法が認めていない部分の2年相当分を附則によって事実上補う内容でした。これに対して修正案を出したのですが、議会では修正案を審議しない、という議決をするなど、議事運営も違法でした。結局、自治の発展は期待できないと思い「準備手続き」を終了し高裁の判断を求めました。2008年12月24日、控訴審判決では住民側の主張が認められ、勝訴しました。

 この嘱託職員の給与問題の背景事情として、一つには国からの行革の強いプレッシャーがありました。また一方で市町村合併の是非論が持ち上がり、檜原村は合併せずに自立していこうという方針を決めた直後に浮かび上がった問題でもありました。村では行政改革推進委員会を設け、8つの重点事項について改革実施計画を定めました。見直す対象には人件費もあったわけです。問題の職員報酬は物件費に計上することで、人件費を減らし行政効果を挙げたかのように見せかけるごまかしでした。
 檜原村が合併せず、自立してやっていこうというときですから、賃金が高額になっても専門的な人材・専門家を養成することに繋がるのであれば、話はわかります。しかし現実はそうではありませんでした。これでは次代を担う若い人たちの信頼を得られません。大人社会・地域社会に不信感をもつでしょう。
 小さな村ですから、血縁関係なり、仕事上なり、みな何かしらのつながりがあります。監査請求も訴訟も村では全く初めての事例です。けれど、村の中で敵味方に別れるのではなく、みなで一緒に不透明なところ、おかしなところを直していきましょうということなのです。こういう不透明な行政を正すことが、村の真の自立のためには不可欠なのだと信じて、住民監査請求・住民訴訟にとりくんできました。この間、嘱託職員の給与問題以外の部分では、少しずつ風通しも良くなってきました。

 できることなら村の内側から変えていきたかったけれども、住民訴訟制度によって、なかなか自力では変えられない状況を変えることができました。議会がうまく機能しないときに、司法がそれを審理する、まさに憲法に基づく三権分立です。このとりくみにかかわった私たちはその点を評価しています。
 ところがその後、村議会は、最高裁への上告を議決承認し、村は上告するのですが、その舌の根も乾かないうちに、今度は債権放棄の議決をしてしまいます。最高裁の判断も出ていないうちに、です。高裁判決が、違法に支出された報酬として村が返還請求せよと命じた部分の返還請求権を、村は放棄するというのです。この債権放棄は異常な行為だと思います。自治体行政をチェックするはずの地方議会の役割放棄です。

 いくら“地方分権”が脚光を浴びても、地方議会、行政、住民の互いの適正なチェックがなければ、地方自治の危機を招きかねません。檜原村の住民訴訟は、住民が行政を身近に感じ自分の問題としてとらえる重要な機会となりました。その成果を議会が潰してしまうというのは、おかしい。ここ数年、檜原村だけでなく、全国各地の住民訴訟で裁判所が認めた損害賠償請求権を議会が放棄する事例がみられるようになってきました。
 そこで、私たちは「請求権放棄と地方議会を考える」シンポジウムを企画しました。“地方分権”という以前に、まず住民自身がその地域の主人公でなくてはいけないと常々思っています。この地方自治の原則を守るためにも、議会による債権放棄の問題をしっかり提起する必要がある。それには当事者である私たちが立ち上がらなければと思いました。このシンポジウムでは三権分立、住民訴訟制度の意義ということなど、みんなで考えていきたいと思っています。多くの人たち、特に若い人たちにも参加していただければと願っています。
(インタビュー聞き手=法学館憲法研究所事務局)

≪シンポジウムのご案内≫

【日時】:2010年2月26日(金)13:00〜16:00 (開場12:30)
【場所】:東京・立川市市民会館(アミューたちかわ)小ホール
【内容】:1.基調講演「議会の損害賠償請求権放棄と地方自治」白藤博行(専修大学教授・弁護士)
     2.債権の放棄事例報告  新潟・旧安塚町(元原告・吉野誠一)/東京・檜原村(原告・丸山美子)
     3.パネルディスカッション
    コーディネーター:白藤博行
    パネラー:〈地方自治〉田口一博(地方自治総合研究所研究員)
         〈議会改革〉岡本光雄(全国長村議会議長会・議事調査部長)
         〈法  律〉窪田之喜(日野市民法律事務所・弁護士)
         〈住  民〉(議会により請求権放棄が行なわれた自治体より)
              :新潟・旧安塚町、山梨・旧玉穂町、東京・檜原村
【主催】:「請求権放棄と地方議会を考える」シンポジウム実行委員会
【問合せ】:実行委員会事務局042-598-0016(丸山)/e-mail

※法学館憲法研究所も、白藤博行教授を迎えて第4回公開研究会「地方自治と憲法」(2/20)を行ないます。憲法の観点から地方自治を問い直す機会として、上記シンポジウムとあわせご案内します。

◆丸山美子(まるやま・よしこ)さんのプロフィール

1999年檜原村議会初の女性議員となり、現在3期目。地縁・血縁に縛られない選挙を実行。2期目の2年間議会運営委員長を務め議会改革を進める。公共施設に会議録の常設、各常任委員会・全員協議会の公開を実現。2003年住民自治を育てる会を発足させ、月1回の学習会を5年間続けた。2005年檜原村ではじめての住民訴訟の原告として、3年2ヶ月の裁判で2審一部勝訴の結果を導く。



 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]