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今週の一言

 

布川事件 最高裁で再審開始決定が確定,いよいよ再審公判へ

2010年2月8日

藤岡拓郎さん(布川事件弁護団・弁護士)

 2009年12月14日,最高裁判所第2小法廷は再審請求人櫻井昌司さん,同杉山卓男さんにかかる再審請求事件,いわゆる「布川事件」について,2008年7月14日に東京高等裁判所による抗告棄却決定(水戸地方裁判所土浦支部の2005年9月21日付け再審開始決定を支持したもの)を維持し,検察官による特別抗告を棄却する決定を下した。

 布川事件は,今から43年前の1967年8月に茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件で,櫻井さん,杉山さん両名が別件で逮捕された後,厳しい取り調べにより自白に追い込まれ,同年12月に強盗殺人罪で起訴されて,1978年に無期懲役が確定した冤罪事件である。
 二人は,1983年12月に第1次再審請求を申し立てたものの,地裁・高裁と斥けられ,1992年には最高裁で特別抗告も棄却された。この確定審以後,服役中だった櫻井さん,杉山さんは,1996年11月に仮釈放が認められた。裁判が確定するまでの勾留期間も含め実に29年もの間,二人は身体の自由を奪われていたことになる。
 その後,二人は,2001年12月に今回の最高裁決定へつながる第一歩となった第2次再審請求を申し立て,2005年9月に水戸地裁土浦支部で再審開始決定が,2008年7月には,東京高裁で検察官による即時抗告の棄却決定が出され,そして今回の最高裁の決定へと辿り着いた。今後は,水戸地裁土浦支部にて,無罪判決獲得に向けた再審公判が始まることとなる。
 仮釈放後の二人は,無罪獲得に向けた非常に熱く広範囲にわたる社会的活動を率先して行い,縦横無尽の活動を展開した。新聞報道等で櫻井さん,杉山さんが二人で握手する姿や講演する姿を見た方も多いかと思われる。

 布川事件の特徴は,犯行と二人を結びつける物証がなく(自白では二人は素手で部屋中を様々に物色しているが,二人の指紋は一つも検出されなかった),目撃証言も有力なものがなく,犯行と二人を結びつけるものが自白以外に存在しないという点で,そもそも二人を有罪とする根拠となる証拠自体が非常に脆い(証拠構造が極めて脆弱である)ということである。
 このような事件の特徴に対して,弁護団が主に取り組んだことは,確定判決を支える旧証拠それ自体でも,そもそも有罪とできないということを裁判所に理解させること,そして,そこに新たな証拠が加わることで,最早確定判決における有罪認定は到底維持できないことを立証するため,徹底した証拠分析を行い,旧証拠の証明力を減殺する多くの鑑定意見や新証拠を提出したことである。また,これら立証活動を通じて,徹底した証拠開示請求により,数多くの重要な証拠を検察より開示させたことも大変重要な意義があった。
 今回の決定は,これら一つ一つの立証活動,証拠開示請求による証拠の獲得など,第1次再審請求審から現在までの地道な積み重ねがまさに実を結んだものと思う。

 また,布川事件には,これまでの日本の刑事司法における問題がいくつも含まれている。
 捜査段階では,二人は強盗殺人事件とは全く無関係の窃盗や暴行等の別件で逮捕された。捜査機関は,警察署の留置場,いわゆる代用監獄を利用して,本件たる強盗殺人事件について長時間の取調を行い,執拗に自白を強要したばかりか虚偽の事実を告げて自白を迫る等して二人から自白を獲得した。そして,自白後に二人の身柄が拘置所に移監された際,二人が検察官に対して自白を撤回し否認に転じると,今度は拘置所から代用監獄に二人を再移監した上で,改めて自白を迫った。
 公判段階では,弁護団が明らかに捜査機関が保管しているであろう証拠を指摘しても,なお検察は開示を拒み続け,意図的な証拠隠しの姿勢に終始した。実際に検察官は,未開示の証拠が第2次請求審前で段ボール9箱分くらいはあると述べていたほどである(最高裁での本決定を経ても,その1,2箱分程度しか開示されていない状態である)。
 このような数多くの問題を抱える布川事件において,今回出された最高裁決定は,再審理論でも評価されるべき点があるだけでなく,結果として地裁,高裁により代用監獄や自白強要など数多くの捜査,公判上の問題が断罪された,その結論を支持した上で検察官の特別抗告を棄却した点にも非常に重要な意義があると思われる。

 憲法上定められた適正手続や刑事手続全ての段階で妥当する無罪の推定の原則は,確定審には存在しなかった。今一度,二人が苦しみ続けた43年間という長い年月をかみしめなければならないと思う。
 そして,私自身も,今回の布川事件の最高裁決定,そしてそれに続く今後の再審公判が,先のような日本が抱える刑事司法の現実的課題を,代用監獄の廃止,取調の全面可視化,全面的証拠開示といった形で具体的に克服していく,その大きな原動力なるよう,弁護団の一員として少しでも貢献できればと考えている。

◆藤岡拓郎(ふじおかたくろう)さんのプロフィール

1978年埼玉県生まれ
2007年弁護士登録(千葉県弁護士会)
千葉第一法律事務所所属
青年法律家協会会員
2007年より布川事件弁護団に所属



 
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