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原爆症認定裁判を見守り支えて思うこと

2009年12月28日

小林共子さん(原爆症認定裁判原告の家族)

――小林さんは、原爆症認定を受けられずに他界されたお祖父さまの遺志を受け継いで訴訟を起されたご家族の裁判をずっと支えてこられたと聞いています。原爆症認定裁判に関わられるようになった経緯などからうかがいたいと思います。
小林さん:祖父は原爆投下後、広島入りした被爆者だったので、認定申請した2005年3月当時の基準では却下されることを見越して、自ら裁判をたたかうつもりだったのだと思います。しかし、申請後1ヶ月余りで亡くなりました。その年の11月にやはり祖父の申請は却下され、祖父の思いを伝えなければと祖母・母・叔父が原告となって、さいたま地裁に原爆症認定裁判を起こしました。日本被団協が提起した集団訴訟の一環としてとりくまれたものです。
 その当時私は、学生で愛知県にいました。裁判の傍聴をしたくても、なかなか期日にあわせて帰省できません。せめて署名を集めようと友人や教員、一人ひとりにお願いしました。私の兄は、染色体異常で3ヶ月しか生きられなかったという事情があります。そのことで、祖父は自分の被爆に原因があるのではないかとかなり悩んだそうです。被爆の問題は、決して過去に起きたことが全てではない、原爆投下から現在に至るまでの60余年の歳月にわたって被爆者を苦しめてきたんです。
 けれど、裁判の中では、原告に対する国側からの侮辱的な発言もありました。祖父は、大腸がんや骨髄異形形成症候群に苦しめられていましたが、それは老齢で発病したに過ぎない、今頃被爆に原因があるというのは「非常識な話」と言われたのです。被爆者の人生の問題を、数値でしかはかろうとしない国の姿勢に怒りを覚えました。

――裁判に関わられる中で、小林さんは卒業論文でも、被爆の問題をとりあげられたそうですね。被爆者への聞き取り調査なども行われたそうですが……。
小林さん:最初から、卒論のテーマに被爆者の問題をとりあげようと思っていたわけではありません。私は社会福祉学部生で、被爆者の問題をテーマに選んだときに指導してくれる先生が見つかるだろうかという心配もありましたし。
 それが、学内の「九条の会」が主催した講演会に参加したら、たまたまそのときの講師の先生が被爆者の聞き取りなどをしていた方だということが分かって。そこでその先生に、認定裁判の署名をお願いしながら、卒論のことも話してみたんです。その先生が卒論指導を引き受けてくださるというので、被爆者問題をテーマにしようと決めました。
 私の問題意識の中心は、被爆者の心の問題、とりわけ、被爆者の方たちが家族にも話せない心の痛みを抱えている点にありました。被爆者として講演活動を行ったり、取材に応じたりしている方でも、家族には――というより家族だからこそ――詳しいことを話せないのは、何故なのだろうと。
 聞き取りをしていくうちにわかってきたのは、一つには社会的な差別の問題です。被爆していることが周囲に知られれば、男性では仕事面で融資を受けられなかったり、女性では婚姻時の障壁になったりします。その苦しみを大切な家族には味わわせたくないという思い。もう一つには、多くの被爆者の方が、被爆直後の惨状の中で助けを求める人をふりきって自分のみ生き残ってしまったという負い目を抱えているということです。助けられたかもしれない人を助けなかった、そういう自分を家族は受け入れてくれるだろうかという不安です。最後のよりどころである家族に見捨てられてしまったら、という気持ちが、他人には話すことができても、家族には話せないという状況を生み出したのだと思います。

――そういう苦しみを抱えた被爆者の方、またそのご遺族の方が勇気を出して認定裁判をたたかったひとつの結果として、今回未認定原告に対する救済をめざす基金法が国会で成立しました。この一連の動きをどうごらんになりますか。
小林さん:被爆者の高齢化が進む中で、早期解決の道が開かれたことは良かったと思います。けれど、報道などでもこれで全てが解決した、終わったというような扱いが多く、そこに納得できないものがあります。被爆者にとっては、一生、終わらない問題です。被爆者の問題を現在の問題として捉えていく必要がある、と強く思います。
 基金法の前提となった政府との“合意”がなされたのは、今年8月の総選挙の直前でした。何か選挙目当てのような印象を拭えません。政治上の駆け引きや政治的な決断といったレベルではなく、政府がこれまでの扱いの非を認めて、被爆者にきちんと謝罪してほしいと思います。

――最後に、原爆症認定裁判と被爆者問題に深く関わってこられた小林さんの、日本国憲法についてのお考えを聞かせてください。
小林さん:私にとって、憲法9条と25条生存権はとても大切なものです。でも、現実にはそれが守られていない。国の政策や法律の考え方の根本はまず憲法にあるはずなのに、近年の選挙では、憲法をどうするつもりなのかということが正面から問われなかったという印象を持っています。自分の選んだ政党や候補者が、選挙のときには何も触れずに、いざ当選したら憲法を変えましょうと言い出したらどうするのかと不安になります。
 憲法改正手続法が制定されましたが、憲法96条を変えて、事案によっては国民投票を経なくてもいいようにするとか、改正の発議は国会議員の過半数で可能になるようにする、といった話も聞こえてきます。憲法に関わるとても重要な問題が、不倫だとかのスキャンダル報道に目を奪われているうちに、国民の目の届かないところで決められてしまうのではないか。そこに強く、危機感を感じますし、もっとみんな憲法に関心をもつ必要があるのではないでしょうか。

――貴重なお時間をありがとうございました。被爆3世として被爆の実相を伝えていかなければという小林さんの真摯な思い、また憲法を大切に思うお気持ちをうかがうことができました。私たちもその思いを広げられるよう頑張っていきたいと思います。

◆小林共子(こばやしともこ)さんのプロフィール

2008年3月 日本福祉大学社会福祉学部心理臨床学科卒業。
原爆症認定裁判(さいたま地裁)原告の家族として、認定裁判を支える。
現在介護員として勤務中。



 
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