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今週の一言

 

NHKは、なぜ、いま「坂の上の雲」なのか…?

2009年11月30日

二橋元長さん(日本機関紙協会埼玉県本部事務局長)

 日本機関紙協会埼玉県本部は、去る09年10月20日付けで、NHKが、スペシャルドラマと銘打って、11月29日から放映しようとしている「坂の上の雲」の、「放映を中止するとともに、今後の制作を中止されることを強く要請」する声明をまとめ、発表しました。
 「戦争と虚偽の宣伝とたたかう」ことを綱領の第一に掲げている日本機関紙協会として、見過ごすことができなかったからです。
 「坂の上の雲」は、日露戦争を戦った海軍参謀・秋山真之、その兄で陸軍軍人の好古(よしふる)、そして俳人・歌人の正岡子規の3人を主人公に、明治を生きた人々を描いた司馬遼太郎氏の長編小説を原作としているものです。
 NHKは、今回、この作品をドラマ化するに当たり、 「総力をあげて取り組」んだといいます。
 しかもNHKは、1963年に放映された「花の生涯」以降、46年にわたってずっと、毎週日曜日の夜に放映してきてきた大河ドラマを、例年ならば年末まで放送するはずなのに(ただし、「琉球の風」(1993年1月10日〜6月13日)、「炎立つ」(93年7月4日〜94年3月13日)、「花の乱」(94年4月3日〜12月25日)は例外)、今年に限っては11月22日で終了させ、その後番組として「坂の上の雲」を、11月29日から、毎週日曜夜、90分枠で5回にわたって放映。さらに、2010年秋には第2部として全4回、2011年秋には第3部(全4回)を放映しようという熱の入れようです。 
 声明にも記しましたが、原作には、歴史的事実との関係で問題となる記述や、朝鮮・中国を蔑視するような記述が散見されるなど、問題点が数多くあるうえに、作者である司馬遼太郎自身も、この小説の映像化が戦争を煽るものとなることを恐れていました。
 そのことは、生前、多くの映画会社やテレビ局から原作の映画化、ドラマ化の申し出を受けたにもかかわらず、それらをすべて断っていたことからみてもわかります。現に、1986年5月21日に放送されたNHKの番組「ETV8」のなかで、司馬氏自身が、「『坂の上の雲』は、なるべく映画とかテレビなど視覚的なものに翻訳されたくない作品であります。うっかり翻訳するとミリタリズムを鼓吹しているように誤解される恐れがありますからね」と発言しています。
 NHKは、しきりに、この番組を企画した意図として、「明治時代のエネルギーと苦悩をドラマとして描き、現代日本人に勇気と示唆を与えるものとしたい」、「(明治は)新たな価値観の創造に苦悩、奮闘した時代だった。この作品のメッセージは日本のこれから向かうべき道のヒントを与えてくれる」(広報資料)、「6年前にドラマ化を決定・発表しており、昨今の(政治的な)動きと連動するものではない」と弁明しています。
 しかし、雲を見上げて坂を駆け上った明治時代の日本がおこなったことは、台湾や朝鮮の植民地支配と、後の中国・東南アジア諸国への侵略戦争の準備だったことは、今日では歴然としています。
 そもそも本土防衛・専守防衛に徹するはずの自衛隊が、いまでは、テロ対策、「海賊」対策の名のもとに、極東地域をはるかに超えて、遠くインド洋からアフリカのソマリア沖にまで派遣され、「外征軍」であるかのような展開をするまでに至っています。
 戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認をうたう憲法第9条を変えて、自衛隊を自衛軍にし、集団的自衛権を行使できるようにしようとするうごきも根強いものがあります。
 そうしたときに、なぜ、NHKが、こうした小説を映像化したのでしょうか。
 かつて大本営からの発表をたれ流し、戦争を煽ったように、今日、「世界のなかの日米同盟」を基軸として、「戦争する国」づくりをすすめようとする危険な流れに、NHKは、再び加担しようというのでしょうか。NHKの意図を勘ぐらざるをえません。
 私たちは、NHKが「戦争放送局」と化していくことを看過することはできません。そのこともあって、NHKに対し、「坂の上の雲」の放映中止、今後の制作の中止を求めたものです。
 来年、2010年は、戦後65年にあたります。「韓国併合」から100年目という節目の年でもあり、日韓のあいだでは、さまざまなレベルで日本の植民地支配の清算と歴史認識の共有をめざす取り組みがおこなわれようとしています。
 いま大事なことは、歴史の真実と真摯に向きあい、反省すべきは反省し、謝罪すべきは謝罪し、保障すべきは保障するという誠意ある対応を、犠牲を強いた国々・人々に対して行うことではないでしょうか。そうした、きちんとした対応をしてこそ、世界の平和、わけても東アジアの平和への展望を大きく切りひらき、日本国憲法が高らかにうたう「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しよう努めている国際社会において、名誉ある地位を占め」ることができるのだと思います。

◆二橋元長(ふたつばし もとなが)さんのプロフィール

1951年、川崎生まれ。
日本機関紙協会埼玉県本部事務局長。
「平和のための埼玉の戦争展」実行委員会副実行委員長。
「平和の学び場・コラボ21」常任理事・事務局長。
草の根メディア9条の会よびかけ人
著作:『もう一つの世界は可能だ─「世界社会フォーラム2005」現地レポート』(日本機関紙協会埼玉県本部発行)



 
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