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今週の一言

 

歴史をまっすぐに見つめる勇気を――最高裁付言を生かした西松建設中国人強制連行・強制労働事件和解――

2009年11月23日

内田雅敏さん(弁護士・原告ら訴訟代理人)

 2009年10月23日、西松建設中国人強制連行・強制労働損害賠償請求事件について、同社と中国人当事者らとの間で和解が成立した。

握手を交わす邵義誠さんら
 共同記者会見に臨んだ、今や数少なくなってしまった受難当時の生存者の1人である邵義誠氏は、受難者を代表して本和解の不十分性を指摘しつつも、この問題の解決を避けている他の企業及び日本国家に比べ、真摯に歴史に向き合おうとする西松建設の姿勢を評価すると声明し、和解成立に至ったことについて「中国人当事者及び関係者のご努力に感謝します」とコメントした同社の代理人弁護士と「今日からは友人となる」として握手した。
 そして安野の現場を訪れ、和解の成立を報告した。花を供え、中国から持参した酒を地に垂らした邵氏は、これまでここに来ると辛くて涙が出たが、今日は嬉しい報告に来たのだから泣かないと、この地で亡くなったかつての仲間達に語りかけた。
 先の大戦の末期、日本政府は約4万人の中国人を日本国内に強制連行し、全国135事業所に配置した。そのうち360人が広島県安野の中国電力発電所導水トンネル工事現場に配置され、29人がこの地で亡くなった。
 和解は、2007年4月27日最高裁第二小法廷判決が西松建設の法的責任を否定しつつも、「本件被害者らの蒙った精神的・肉体的苦痛が極めて大きかった一方、上告人(西松建設)は前述したような勤務条件で中国人労働者らを強制労働に従事させて相応の利益を受け、更に前記の補償金を取得しているなどの諸般の事情にかんがみると、上告人を含む関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待されるところである。」と指摘したところを踏まえ西松建設は、
  @強制連行・労働事件の事実を認め、その歴史的責任を認識し、深甚なる謝罪をなし、
  A後世の歴史教育のため記念碑を建立すること、
  B受難者に対する補償、慰霊、記念碑設立等のために和解金として金2億5000万円を支払う、
とするものである。
 違法献金疑惑を契機として、西松建設は、コンプライアンスを確立するなど経営刷新に取り組んで来、本件について話し合いによる解決を申し出た。
 この流れを解決に結びつけることが出来たのは、中国人関係者はもとより、広島そして東京での日本人支援者らによる10数年にわたる持続した運動及び最高裁で破棄されたとはいえ、前記付言を引き出した広島高裁での勝訴判決があったからである。
 この和解をドイツが2001年夏設立した「記憶・責任・未来」財団――国家と企業が各50億マルク拠出し、100億マルクの「記憶・責任・未来」財団を作り、ナチス時代に強制連行・強制労働させられた約160万人の人々に対する補償を2007年夏までになしている。――へのステップとなるように活用してゆくことが大切である。
 前記最高裁付言は「上告人を含む関係者」という言い方で日本国の自発的な解決も促している。
 9月22日胡錦涛中国国家主席と会談した鳩山首相は、村山談話を踏襲することを表明し、「東アジア共同体」を作ることを提唱し、10月9日ソウルで李明博大統領と会談した鳩山首相は「新政権はまっすぐに歴史を見つめる勇気を持っている」と述べた。
 ドイツが欧州の一員として認められ、今日、英・仏とともにその有力な一画を占めるに至ったのは、ナチズムの克服など歴史の問題について真摯に取り組んで来た結果である。
 「東アジア共同体」を実現するためにドイツに比べ歴史の問題について、格段に遅れている我が国が早急な解決を図らなければならない。
 歴代の政権が踏襲する村山談話は、「現在取り組んでいる戦後処理問題につきましても、わが国とこれらの国々との信頼関係を一層強化するために私は引続き誠実に対応してまいります」と、戦後補償問題について誠実に対応してゆくことを内外に表明し、そして「わが国は遠くない過去の一時期国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥し入れ、植民地支配と侵略によって多くの国々とりわけアジア諸国の人々に対して多大な損害を苦痛を与えました。私は、未来に誤ちなからしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここに改めて痛切な反省の意を表し、心からお詫びの気持ちを表明します……」としている。
 村山談話は、閣議決定を経て、国内外に向けて発せられた日本の公約である。
 「言必信行必果」、1972年日中共同声明によって両国の国交の回復がなされたとき、中国の周恩来総理が日本の田中首相に贈った言葉であるという。日本語に訳すとすれば、「言ったことについては責任を持たねばならない。行ったことについては結果を出さねばならない」というような意味であろうか。歴史を見つめる勇気は行動する勇気でなくてはならない。


◆内田雅敏(うちだ まさとし)さんのプロフィール

 1945年愛知県生まれ、1975年東京弁護士会登録。現在、日本弁護士連合会憲法委員会委員、関弁連憲法問題連絡協議会委員長、東京弁護士会憲法問題協議会副委員長。東京女子大非常勤講師。
 弁護士としての通常業務の外に、花岡事件(戦時中の中国人強制連行)、香港軍軍票の問題など戦後補償請求裁判、「日の丸・君が代」処分問題などに取り組む。最近の担当事件としては、立川自衛隊宿舎イラク反戦ビラ入れ一審無罪判決、自衛隊イラク派兵違憲訴訟など。
 主な著書:「弁護士─“法の現場”の仕事人たち」(講談社現代新書)、「『戦後補償』を考える」(講談社現代新書)、「《戦後》の思考─人権・憲法・戦後補償」(れんが書房新社)、「憲法9条の復権」(樹花舎)、「懲戒除名─“非行”弁護士を撃て」(太田出版)、「敗戦の年に生まれて─ヴェトナム反戦世代の現在」(太田出版)、「在日からの手紙」(姜尚中氏との共著・太田出版)、「憲法9条と専守防衛」(箕輪登氏との共著・梨の木舎)、「乗っ取り弁護士」(ちくま文庫)、「これが犯罪?『ビラ配りで逮捕』を考える」(岩波ブックレット)、「靖国には行かない。戦争にも行かない」(梨の木舎)、「靖国問題Q&A」(スペース伽耶)、「半世紀前からの贈物」「戦争が遺したもの」(れんが書房新社)



 
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